身に覚え、なんかない
dede
作られたウチ
いつものように「じゃーねー」とウチが言うと、「ああ、またな」とユウジが返してくれた。なんてことはないいつも通りの帰り道で部活でクタクタになった身体を引きずりながら、ユウジと楽しく喋りながら帰ったんだ。その時までは何もおかしな事はなかったように思う。
それが先週金曜日の話。
今週。
三連休振りに中学に登校すると、なんだか教室の空気が妙だった。
どうも一部のクラスの男子の様子がおかしいのだ。余所余所しいというか。じっとウチの事を見てくる癖に、そちらに目を向けると慌てて目を逸らすのだ。突然のクラスメイトの変化に周囲の同級生も訝しんでいる。
「おはよー」
「あ、ああ。……おはよう」
ユウジもそのうちの一人だった。今朝からウチと目を合わせようとしない。挨拶も気まずげに目を逸らしながらだった。でもその原因にウチは心当たりがないのだ。この三日間で何があったのだろう?
「ユウジ、態度変じゃない?」
「あー……そうか。そうかも」
ユウジもそれを認めた。
「なんかウチやらかした?」
「いや、そうじゃないんだけどさ。うーん」
この期に及んでユウジはまだ言い淀んだ。その時始業のチャイムが鳴る。ユウジは諦めた表情を浮かべるとウチの耳に顔を寄せると声を潜めた。
「わかった。次の休み時間で教えるよ。誰かが伝えなきゃいけない事だしな」
どうにも言い訳じみた言い草だった。アレコレ気になっていたけど、仕方なく自席に戻る。隣りの席の子が不思議そうに聞いてきた。
「なんかトラブってる?」
「わかんない」
この子は知らないみたいだ。全員がおかしい訳じゃない事に少しホッとするも、ウチの預かり知らない所で何かが起きてる事に居心地の悪さを感じた。
そんな訳で一時間目の休み時間。ユウジと一緒に階段下の物置スペースに一緒にいた。教室で話そうとしたら「ここではちょっと」とユウジが人目を気にしたものだから、こんなトコまで連れて来られたのだ。
ユウジは周囲に人がいない事を確認するとスマホを取り出した。そして少し操作するとスマホをこちらに差し出した。見ろって事なんだろう。
「いいか? 気をしっかり持てよ?」
「いったい何なのさ?」
ウチはスマホを受け取ると画面を覗く。
顔から血の気が引いた。
女の子の画像だった。うちの学校の夏服を着ている。どこだか分からないけど床に組み敷かれている。ボタンは外され、可愛いブラが見えていた。潤んだ瞳で怯えた表情を浮かべている。
「……ウチじゃん」
「お前もそう思うか」
「だってこれウチじゃん!」
見れば見るほど、スマホに映った人物はウチだった。見たこともない表情だが見慣れた顔つきだった。
「でもウチ、こんな事された覚えない!」
「わかってるって」
「……この一枚きり?」
「……いや」
ウチは静かに震える指先をスマホの上に乗せると、すーっと滑らせた。スワイプされて画像が切り替わる。
今度はブラが上にズラされて、小ぶりな胸が露わになっていた。ごつごつした男の手が片方を掴んでおり形を歪ませている。強引に引っ張ったのだろう、白い肌にブラ紐の赤い跡が痛々しかった。
横に滑らせスワイプする。
今度はスカートが捲れて、下着と太ももが晒されている。
横に滑らせスワイプする。
下着は膝まで下ろされていて、薄い茂みが映っていた。当然のようにモザイクなんてものはなかった。
横に滑らせスワイプする。
横に滑らせスワイプする。
横に滑らせスワイプする。
横に滑らせスワイプする。
横に滑らせスワイプする。
横に滑らせスワイプする。
ユウジとウチが笑ってる写真になった。ユウジがスマホを買って貰った直後に、一緒に撮った写真だ。一周回ったらしい。
結局最後まで行為が行われていた。色んな体勢でしていた。その時どんな表情を浮かべていたかなんて……思い出したくもない。
「こんなの、ウソだから」
「わかってるよ」
「絶対、絶対、ウソだから」
「わかってるって」
「これ、消すから」
「ああ」
ウチは一つ一つ、震える指で丹念に選んでいくとファイルをまとめてゴミ箱に放り込んだ。震えが止まらなかった。怒りとか悔しさとか羞恥とか、色んなものがない交ぜになった震えだった。
「なんでこんなのユウジが持ってんの?」
「送られてきたんだよ。これ、お前じゃないかって」
「誰から?」
「ミノル」
「ミノルか……あのエロガッパ、なんでこんなのを? というか、どうやって?」
「なんか今時AIで結構簡単に猥褻画像を生成できるみたいなんだよな」
「だからって、なんでウチなんだよ……」
「男なのにな、お前?」
次の休み時間、ミノルを教室から連れ出した。また人通りの少ない階段下だ。ウチとユウジの姿を見て察しがついたのか、何も言わずに素直に来てくれた。
「画像の件だよな?」
「そうだよ。どうやって手に入れたの? あと、ユウジの他に送ってないよね?」
ミノルはスマホを取り出すと操作して確認し始めた。
「えーと、〇〇と××と、あーあと△△にも送ったな」
「はぁ!?何してくれてんの!」
ウチは思わず声を荒げてしまったが、それでもミノルはあっけらかんと悪びれた様子はなかった。
「だって、面白いじゃん。それにソレ、どう考えても作りモノだろ? なら、問題ないだろ」
「問題あるよ! ウチが嫌なんだよ!」
「なんでさ? 偽物なのに?」
ミノルは本当に理解できない様子だった。
「そんなものが出回ってるという事実に虫唾が走るんだよ!」
明確に言葉には出来なかったものの、たとえ偽物と分かっていても自分のやらしい姿が形として残ってるのが不安だし、事実だと見られるのが嫌だ。そしてそれが性的な対象として見られる不快感ったらない。そんなものが不特定多数の人に晒されるかもしれないとか。堪えられない。
「ふーん、まあいいや。どうせ無意味だと思うけど。画像消せっていうんだろ? いいよ、消すよ」
そういってミノルはスマホを操作し始めた。それをウチはミノルの手から掠め取った。
「いい。ウチが消す」
「まあ、いいけど。間違って他のコレクションは消すなよ?」
スマホを覗くとウチの画像以外にもたくさんエロい画像や動画が入っていた。
「よくもまあ……」
「オススメ、幾つか送ろうか?」
ウチは首を横に振る。
「今はそんな気分じゃない」
「そっか」
そこでふと懸念が湧いた。つい心配になってよせばいいのに聞いてしまった。
「なあ? ウチの画像、使ってないよな?」
「画像? 使ってないよ。でも、この画像よく出来てるよな。顔とそれ以外で継ぎ目分からないし。微妙に女性らしく補正掛かってるし。表情に不自然さないし」
「そうなんだよ」
「小ぶりで控えめなおっぱいとか、下の毛の薄さ具合とか、お尻のサイズとか、こういうシチュエーションだったらこういう表情だよなっていう、そういうお前への解釈が殆ど一致していて好感が持てた」
「何言ってんのお前?」
途中から言ってる事が分からなくなった。ウチへの解釈一致???というかなんでそんな具体的なの。
「あの画像使ってない……んだよな?」
「画像は、使ってない。昔お前を使った事はあるケドな」
……うん。ハ、ハァ!?なに言ってんだコイツ!?いや、ナニしてるんだコイツ!?誰でイってんのコイツ!!聞きたくないんだよ、そんなカミングアウト!
「俺の妄想の中で女人化したお前ってだいたいあんな感じでさー、よく再現出来てるってちょっと感動したよ」
得意げな顔して雄弁に語った。それはもう嬉しそうに語った。好きなマンガやアニメみたく語った。
そうだよな、お前そういうヤツだもんな! この間、クラスの女子を遂に全員攻略したって自慢げに喋ってたもんな! 性に関してめっちゃチャレンジャーだもんな! けど、男のウチまで使ってんなよ、っざけんなよ!
「この、ド変態がっ!!」
「へへ、止せよ照れるじゃねーか」
罵ったはずなのに照れが返ってきた。
そんなウチらの様子を静観していたユウジが、困惑しつつようやく口を開いた。
「なあ、ミノル。お前の言ってた無意味って、そういう事か? どうせ妄想では好き放題されちまうって」
するとそれまでニヤニヤして楽しそうだったミノルがふいに真面目な顔をしてユウジを見て、ウチを見た。
「それもある。それはどう思う?」
と、ウチに視線を送る。
「どうもも何も。どうしようもないだろ。そこまでは預かり知らないよ」
ミノルは微かに微笑む。
「お目こぼし、どうも」
「だからって男のウチで妄想するのはどうかと思うし。本人に報告するなよ、不快だ」
「次から気をつけるよ」
「じゃあ、それじゃない方ってのは?」
ユウジの問いにミノルは憐れみの表情を浮かべて答える。
「ネットに晒されれば、こんな個人のスマホからチマチマ画像を消したところで無意味だ」
ウチは黙る。それはまあ、覚悟してた事だ。でもだからって何もしない訳にもいかないし。そういうえば一番肝心な用件をミノルに答えて貰えていなかった。
「この画像、結局どうやって手に入れたの?」
「送られてきたんだよ。この画像、お前に似てないかって」
「お前もか……」
送り主は部活の後輩のサトウだった。……え、なんで???
下級生の教室は少し遠いので昼休みに行くことにして、それまでの休み時間はクラスメイトの画像削除に奔走していた。不幸中の幸いというか、ミノルの頭だけがおかしかったというか、他のクラスメイトは誰にも送っていなかった。
「みんな敵だけどな?」
「いや、確認するお前もどうかと思う」
「だって気になるじゃん! 言っとくがユウジ、お前も敵認定だからな! 一瞬言い淀んでたもんな!」
「さすがに『ウチで、した?』っていきなり聞かれたら、回答に詰まるっての」
「やましい点があるからだ!」
「想像してみろ。クラスの女子から突然『ねぇ私をオカズに、した事ある?』って聞かれる状況を」
「うっ」
「そういう事だ。ほらサトウのクラスはココだ。おーい、サトウいるか?」
サトウはウチの姿を見つけると顔を強張らせた。例によって階段下に連れ出すと、スマホの中身を消させて貰う。
「センパイ、すいませんでした」
「……使った?」
「え? ……えっ!?あ、イヤ……」
「ああ、もう、これ黒じゃないかな? かな? もう誰も信用できねー!」
「もうお前黙ってろ。なあ、サトウ。ミノル以外に誰か送ったか?」
呆れた様子でユウジはウチを放置すると、代わりにサトウに質問を始めた。サトウは横に首を振る。
「いえ、確認のために送ったミノル先輩だけです」
「この画像、お前が作ったのか?」
サトウは更にブンブンと首を横に振る。
「いえ、姉のパソコンで見つけました」
「姉?」
ウチはサトウの姉について知らなかった。
「あれ? 話してませんでしたか? 先輩たちと同じクラスですよ」
うちのクラスの『サトウ カホ』。なんて事はない。隣りの席の女子だった。
サトウを教室に帰らせた後、ユウジと相談する。
「どう思う?」
「だいぶ黒っぽいよな」
「だよねー」
「どうするよ?」
「……一つ提案なんだけど」
放課後、ウチは隣りのサトウさんに話し掛けた。
「ちょっとこの後時間いい?」
サトウさんは鞄に教科書を詰め込む手を止めると、こちらを向いた。
「いいけど。どうしたの?」
「ウチの画像、って言えば分かる?」
その一言にサトウさんは表情を変えた。
「なるほど。場所を変えて話す?」
「うん。ちょっとついてきてよ」
サトウさんは素直にコクリと頷くと鞄を持って席を立つ。
「よお」
廊下に出るとなぜかミノルが待ち構えていた。
「俺も同席していいか?」
ウチは内心煙たがりつつも口にはせずに黙ってサトウさんに目を向けた。
「私は気にしないけど」
「ならいいけど。なんで?」
「ただの好奇心だよ」
「部活は?」
「サボリ。お前は?」
「サボリ」
悪い二人だった。そうしてウチは二人を連れて運動部員たちの脇を通り過ぎ、校庭の端にある物置にやってきた。体育祭とかに使うモノぐらいしか置いてないので普段は生徒もあまり近づかない場所だ。中に入ると埃っぽい上に黴っぽい匂い、そしてムワッとした熱気で満ちていた。
「暑いね。他に場所はなかったのか?」
顔をパタパタ仰ぎながらミノルが愚痴った。
「勝手についてきたんだ、我慢しろよ」
「こんな所で話すの?」
サトウさんも少し不平を漏らした。
「誰にも聞かれたくないんだ。それで、ウチのやらしい画像についてなんだけど」
「なんで知ってるの?」
「サトウさんの弟が教えてくれたんだ」
サトウさんは天井に目を向けると何かを思い出してるようだった。納得した顔でまたウチに目を向ける。
「あの時……かな。じゃあ、今日何人か様子がおかしかったのも?」
「そう」
「しょうのない子。ごめんね、迷惑かけて」
「それよりもさ、なんでサトウさんがウチのやらしい画像を持ってるの?」
「作ったの」
「サトウさんが? 他の人に頼んだとかじゃなく?」
「そうよ」
悪びれることなく言った。サトウさんはむしろ自慢げですらあった。
「結構あそこまで仕上げるのに苦労したんだよ? AIが言う事聞いてくれなくてね。ニュアンスがなかなか伝わらなくて。言葉を選んで、AIも有料サービスに切り替えて。たくさん勉強して。AIにAIへの上手な指示の仕方を聞いたりもしたなぁ。それで、ようやく満足のいく出来になったんだ。どう? 本人から見てもなかなかの出来だったんじゃない?」
「そうだね。うん。よく出来てた。だから、消してくれないかな?」
ウチがそう言うと、彼女から得意げな表情はなりを潜めて、不機嫌を露わにした。
「イヤよ。あんなによく出来てるのになんで消さなきゃいけないの。散々苦労したんだよ?」
「ウチが不快だからだよ。消してくれないかな?」
「別にイイじゃない私が楽しむ分には。今回は不幸な事故で知られる事になったけど、本当なら誰の目にも触れない筈だったのよ?」
「でも知っちゃったからさ、知らない顔はできないよ。そもそも何で女の子のウチなのさ?」
「え、可愛くて似合うと思ったから。そしてその通りだった」
ミノルがパチパチと拍手を送って頷いていた。うん、お前は黙ってろ。
「他にも可愛い女子いるでしょ? なんだったらサトウさんもウチより可愛いでし。いや、男のウチと比較するのもおかしいけど」
「そうだな、確かにサトウさんの方が可愛い。お前使ったのサトウさんの次の次だったし」
お前はいいから黙ってろ! あと、思ったよりも競り合ってるじゃねーか!?サトウさんは一瞬不思議そうにしていたが
「まあ、一番創作意欲が湧いたから」
「それでヤラシイ姿の画像なんて作られたらいい迷惑だよ」
「いいじゃない。どうせ、あからさまな偽物なんだから」
「サトウさんもそんな事を言うんだね。女の子だからこのいやらしい目で見られる不快感ってやつ、分かってくれると思ったのだけど」
するとサトウさんは皮肉げに口角を上げる。
「分かってないね。うん、やらしい目線。分かるよ。日頃から見られてるもの。だから本当に女の子だったらそんな事申し訳なくて出来ないよ。いいじゃない、安全なところにいるんだからさ?」
「どうしても消す気はない?」
「あんまりしつこいとネットにばらまくよ?」
サトウさんは眉を釣りあげてトゲのある声で脅迫めいた事を云う。どうやら交渉は決裂したらしい。残念な気持ちでいっぱいで、思わずため息が出る。仕方なく、ウチは呼ぶ。
「ユウジ」
すると、物陰に隠れていたユウジが姿を現した。スマホのカメラをこちらに向けながら。そして入り口の前に陣取る。
「遅かったな。熱中症で倒れるかと思った。あとなんでミノルがいる?」
「勝手についてきた。まあ、支障ないだろ」
「だったらいいけど」
「どういうつもり?」
突然のユウジの登場に彼女は動揺していた。ウチは彼女に一歩近づく。
「ねえ、サトウさん。サトウさんは『偽物だからいいじゃない』って言ったよね?」
ウチは更に一歩詰める。すると、怯んだ彼女は一歩後ろに下がった。
「え、ええ」
「なら、本物だったらマズいって認識はあるんだよね?」
「どうする気?」
ウチが一歩近づくと彼女も一歩下がったが、物置は狭い。すぐ壁に背中がついた。彼女に焦りがみえる。
「簡単な理屈だよ。弱みを握られてるなら、相手の弱みも握ればいい。ないならそれを作ればいい」
ウチは彼女の両腕を拘束すると乱暴に壁に押し付け、更に距離を詰め蹴る事も出来ないぐらい彼女の懐に入る。彼女は必死に抵抗して腕や足を動し藻掻くがそれを許すほどヤワな鍛え方をウチはしていない。がっちり拘束した腕はビクともしないし、足はウチをどけるほど力が入っていなかった。
「おい、ユウジ! ちゃんと撮っとけよ!」
「わかってる」
彼女は涙目になりながらそれでも抵抗した。
「大声出すから」
「声が外に漏れないのは確認済みなんだよ。安心しなよ? そっちがネットにばらまかない限り、ウチも個人的に使うだけにしとくから。たださ? 男のウチと、女の子のサトウさん。流出したら困るのはどっちだか、分かるよね? まあ、そっちは本物なんだけどさ」
ウチはせせら笑いながら彼女の耳元で囁く。彼女はようやく事態の理解が追い付いたのか顔を青くさせている。恐怖に顔を歪ませ目をギュっと瞑ると微かに歯の鳴る音が聞こえた。ウチはくすくす笑いながらその様子を観察する。脇腹に衝撃が走るまでは。
「がはぁっ!?」
ウチは吹き飛び壁に打ち付けられる。物置に置かれていた荷物にぶつかり激しく音を立てると、崩れた荷物と一緒に床に倒れ込んだ。肺から空気が一気に漏れて咳き込みが止まらない。埃が舞う中、さっきまでウチがいた場所を見ると、片足をまだ上げたままのミノルがサトウさんの傍らに立っていた。そのサトウさんは、気が抜けたのかその場にへたり込んでいた。
「らしくないな……やり過ぎだバカ」
ミノルはくるりとサトウさんに向き合った。
「ごめんね、恐かったよねサトウさん。おい、ユウジ! その動画消させて貰うからな!」
そのミノルの言葉に、ユウジは溜息を一つ零すとくるりとスマホを裏返した。真っ暗な画面だった。
「ブラフだよ。録音だけはしてるけどな」
咳き込みながらようやくウチは上半身を起こす。
「ゴホ、ゴホッ! ……あー効いた効いた。吐くかと思った」
「……なんでこんな事したんだ?」
「ちょっとでもこっちの心情を理解して貰うためだよ。あー、まだ痛て。ミノルって案外イイヤツだったんだな?」
今度はミノルの方がため息をついた。
「なんだよ、俺の方が恥ずかしいじゃんか。……大丈夫か?」
ミノルがウチに手を差し伸べたのでその手を取って立ち上がる。そしてへたり込んでいる彼女の前でしゃがむと目線を合わせた。サトウさんは未だに呆然としている。
「ごめんね、恐い思いさせちゃって。でもさ、同じとは言わないけどウチも似たような感情を持ったんだ。だからさ、頼むから画像を削除させてくれないかな?」
そうウチが声を掛けると、ようやく焦点が合ってきた。そして
「……キ」
「うん?」
彼女は顔を紅潮されてハッキリ言った。
「好き!」
そうして彼女に抱きつかれた。
「は?」「は?」「は?」
ウチら三人、突飛な彼女の発言と行動にマヌケな声をあげた。
「可愛いとは思ってたけど、結構男らしいところもあるんだね! このギャップ、やばい! 惚れた! 大好き! 付き合って!」
いや、そうはならんやろ。
「俺の方がワンチャン惚れないかなって思った」
と、残念そうにミノルが言う。ウチも思ったよ。ミノルは何も悪くない。
「ちなみにミノルの事はどう思う?」
「野蛮」
珍しくミノルに同情した。
「あー、ひとまず離れてくれない?」
「ねえ、返事は?」
「なんで今の流れで好きになると思った? それよりも画像なんだけど」
「付き合ってくれたら消してもいいよ」
そんなんで付き合えて嬉しいか?
「そのために付き合ったり出来ないよ」
「えー?」
「相手に失礼じゃん」
「もー。分かったよ。勿体ないけど嫌われたくないし消してもいいよ。消すとこ見たい?」
「え、本当にいいの? うん、消すとこは立ち会わせて。ちゃんと確認したいから」
「じゃあ、これから私の部屋だね♪」
「え? あー、ユウジと一緒に行ってもいい?」
サトウさんは不服そうにジト目でウチを見つめてきたが今のサトウさんと二人っきりは嫌だ。ところがなんとユウジからも
「いや、俺は行かない。一人で行ってくれ」
「は? なんで?」
「付き合ったらいいと思う」
「いや。無理だろう? 今一番苦手意識を持ってる女子だぞ?」
と僕が答えたらサトウさんがシュンと項垂れた。しかしユウジは
「サトウさんじゃなくていいんだけどな。あの女の恰好のイメージを払拭するには女子と付き合ってるのをアピールするのが良いと思うんだ」
「俺も賛成だな」
「ミノルまで」
「少なくともサトウさんの解像度は相当深い。ちなみにこの機に確認したいんだが、あのまま画像の関係が続いて快楽を覚えるようになったとしたら、どうなってたと思う?」
サトウさんはしばらく真剣に考えた後、静かに答えた。
「快楽を受け入れて溺れるようになってたと思う」
「そこは解釈不一致か。俺はその事実を受け入れなくて毎回行為の後に自己嫌悪の繰り返しだったと思う」
「えー? そんな事はないよ。結局は受け入れると思うんだ」
「いやいや。案外プライド高いからね。葛藤が続けると思うんだ。ユウジはどう思う?」
「え? ……そもそも気持ちよさを自覚した時点で自殺に走りそう、かな」
そんなユウジの回答に二人は不服そうだ。
「うわー鬱展開」
「ないわー。さすがにないって」
「いや、結構コイツ真面目なトコあるし」
そしてミノルが訪ねた。
「で、正解はどれ?」
「どれもねーよ!!」
その後無事サトウさんのパソコンからも画像を削除した。それから、サトウさんとは付き合うまでは至ってないものの一緒に遊びに行くようにはなった。案外と話してたら楽しいのだ。
とはいえ、未だに写真を撮られるのが恐い。たまたま学校という狭い範囲で起きたから良かったが、ネットに漏れてしまったら手の打ちようがなかった。たまたま。そう、たまたま今回が上手くカバーできただけなのだ。
身に覚え、なんかない dede @dede2
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