キワードの鎖
ハロイオ
第1話「旅の恐怖と絶望」
「あなたはこの時代の誰ともキスしてはならない。その規則の理由を答えよ」
未来人を出迎えるとき、常に出される問題の1つである。
21XY年に、未来と過去の両方に行けるタイムマシンが開発された。しかしその性質は、ある恐怖と絶望をもたらした。
巨大な粒子加速器を必要として、時間の壁を突き破るような理論でタイムトラベル自体は可能になったが、開発されてから10年以上、どうしても1000年以内の時間に跳べないのだ。
そうして1000年後の時代に行き、そこで一定期間、たとえば1日過ごすと、元の時間軸の1日、同じ時間のあとに戻ることが出来る。しかし、それ以上縮めた期間に戻ることが理論上出来ない。
何故未来、たとえば1200年後に行った人間が、元の時間よりさらに前、たとえば1250年前、つまり出発点の50年前に行ったのが観測されないのかは、時間の分岐で説明された。
つまり、1200年後から1250年さかのぼり50年前に行くこと自体は出来るが、それは新しい時間軸を作り出し、その並行世界は観測出来ないのだ。
タイムマシンが可能なら未来人が来ているはずだ、という疑問の答えは、来た時間は並行世界であり、来ていない時間軸を我々が観察し続けているために過ぎないとされた。
ちなみに、開発後から1000年以上前にさかのぼった人間が、帰れた記録はない。まず新しい時間軸になってしまう上に、タイムマシンに必要な粒子加速器を、過去では調達出来ないようだ。知識のある人間は誰も過去に行かなくなった。
仮に並行世界を観察する技術が生まれれば、無限の時間からいつ、どの時間にさかのぼって生じた並行世界と接触するか見当も付かないという。
さらに、1000年以上あとの未来の人間は、地球環境がどれほど変化した世界から来たか分からない上に、誰の子孫かも直ぐには分からない。
いきなり1000年以上の間が空くために、核燃料による放射性物質や環境ホルモンや病原体の影響をどれほど体に受けているか分からず、外国からの検疫以上に厳重に管理される必要がある。
1000年以上の未来人が誰の子孫か、未来人自身に分かる保証もない。恋愛などを避けるために、なるべく顔すらさらさないようにするのがタイムトラベルの規則とされた。キスなどもってのほかだと。
幸いタイムマシンで来る衝撃は直ぐ世界中で観測出来るので、直ぐに未来人は管理される制度が確立された。
どの国でも、どの時代でも、タイムマシンで来た未来人は直ちに捕らえられ、タイムトラベルのための正しい知識を持っているか、何通りかの言語で問題を出されるのだ。
「あなたはこの時代の誰ともキスしてはならない。その規則の理由を答えよ」
いつどのような未来人が来るか分からない恐怖があった。
その上、通常の技術ならば、いずれ解決策が開発される希望もあっただろうが、少なくとも1000年間はこれを解決出来る未来人は現れないのだ。
永遠に不可能かもしれない、仮に開発されたとしても、そこから未来人が来るのは新しい時間軸に過ぎず、「我々」は観測出来ないかもしれない。時間の檻からの自由は、自ら新しい檻を作り出してしまう恐怖と絶望があった。
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