誤解されやすい『彼』の真実の姿について

宇部 松清

第1話

『この夏、あなただけの“好き”を大募集!』


 そんな言葉が目についたのです。

 あなただけの『好き』とな? と。


 真っ先に浮かんだのは、愛妻あいさいならぬ、愛夫あいふのこと。おっ、いっちょここで私の彼への溢れる愛を語ってやろうか? そう思いました。ですが、踏みとどまりました。せっかくならもっとこう……全国区のやつにした方がいいのではないか、と。日本全国の皆さんへお届けするつもりで書いた方が良いのではないかと。何なら日本のみならず、世界に目を向けても良いんじゃないかと思ったのです。だっていまはほら、グローバルなアレなので。


 そう考えた時、適役がいることに気が付いたのです。

 良い機会だ、彼について存分に語ってやろう、と。


 そうです。

 もうタイトルとキャッチでビビッと来た人もいるかと思います。

 そうです。

 彼です。

 恐らく、地球上で(大きく出たな)最も有名なホラーアイコンであり、そして最も真実の姿を誤解されている悲しき殺人鬼キラー


 ジェイソン・ボーヒーズです。

 知らないなんて言わせません。

 デビューこそ昭和ですが、平成になっても次々と続編が作られ、そして令和の現在でも13日の金曜日となれば界隈をざわつかせるホッケーマスクの人気者、そう、ジェイソン・ボーヒーズなのです。


 え?

 名字ファミリーネームまでは知らない?


 じゃあ覚えましょう! いま覚えましょう! ハイ覚えたね? もう覚えたね?!


 難しいことは何もないですから。ボーヒーズですから。覚えましたね? もう大丈夫ですね? この時点でもうあなたはその辺のにわかファンよりも一歩先へ進むことが出来ました。素晴らしいです。それじゃあもう少し頑張ってみましょうか。


 さぁもう少し、その、『ホッケーマスク殺人鬼』について理解を深めて参りましょうか。どうでしょう、彼について、何か知ってることはありますか? ホッケーマスク以外に何かありますか?


 え? クリスタルレイクキャンプ場? そうですそうです! エーッすごい! 彼のホームとも呼ぶべき場所じゃないですか! それを知ってるとかすごすぎですよ! 良いですよ、その調子! あとはあとは?!


 ……チェーンソーは置いてください。チェーンソーは。


 これですよ。

 これ。


 彼が一番誤解されてるのはこれ。

 SNSのおかげでだいぶ誤解も解けてきたかな? と油断してましたが、まーだ誤解している人がいるのです。


 良いですか、ジェイソンさんはチェーンソーを使っていません。誰が言い出したのそんなこと。お母さんそろそろ怒るわよ。いまもう令和だよ?


 あのですね、チェーンソーを振り回しているのは別作品の殺人鬼なのです。『悪魔のいけにえ』の『レザーフェイス』さんこと、ババ・ソーヤー氏なのです! 違うの!! 別作品なの! ゲスト出演してるわけでもないの! 完全に別作品なの! どうして混ざっちゃった!? 同じ被り物仲間だから!?


 ほんともう声を大にして叫ばせてください。

 ジェイソンさんはチェーンソーを使っていないのです。一度も。映画が10作も作られてますけど、使ってません。被害者側が振り回したことはありますけど、ジェイソンさんではないのです。


 え? さっきから何で『ジェイソン』にさん付けしてるのかって? 良いでしょう、さんを付けたって! 敬意を払ったって良いでしょうが! さんを付けろよデコ助野郎!


 良いですか、私はね、ホラー映画が大好きです。


 祟りや心霊系のあの、じわじわと少しずつ色んなことが明らかになっていって、と同時に追いつめられいくような、そういう和ホラーよりも、それの洋バージョンとでもいうべき、ベッドがガッタンガッタンいうような(エッチな意味ではなく)派手な演出があったりする悪魔祓い系よりも、ズバズバ切られて血やら臓物やらがブシャーブシャーと飛び交う(『交う』……?)ようなスラッシャー系が好きです。その映画の看板を背負っているホラーアイコン、つまりは殺人鬼キラーが大好きなのです。ビジュアルが良いですよね、何といっても。一目でわかるでしょ、やべぇやつって。


 そんな多種多様なホラーアイコンの中でもですよ、ホッケーマスク一枚でこれだけの地位を確立し、令和になってもまーだ12日の木曜あたりになると界隈をざわつかせられるなんて、これはもうとんでもないことなんですよ。私だってちゃんとスマホのスケジュールに入れてるからね、12日の木曜に『明日は13日の金曜日』って。前日からワクワクしてるからね。


 ただ、最近ではこの『実はジェイソンさんはチェーンソーを使っていないらしい』というのがひと頃に比べるとだいぶ広まって来てですね、あえてチェーンソーネタでいじってやろう、みたいな風潮もあるわけです。


 わかりますか、この愛されっぷり。


 なんていうか、隙があるんですよ。

 実際にいたらとんでもないフィジカルモンスターですし、ヒグマレベルの『遭遇=死』なんですけど、こうやって安全なところでキャッキャする分には抜群にちょうど良いポジションなんですよね。ホッケーマスクというわかりやすい特徴に、いじりやすい凶器ネタ


 あっ、ちなみに彼のフェイバリット凶器はナタです。マチェーテですね。チェーンソーと似ても似つかないでしょ? 電気式(要コンセント)でも、充電式(連続作業時間30分くらい?)でも、エンジン式(たぶん凶器として使うならこれが一番現実的)でもないから。切れ味と、己の筋力で行くやつだから。そこがね、もう硬派なわけ。いや、違うよ? 別にチェーンソーを振り回すレザーフェイスさんが軟派とかそういうことじゃないの。持ち味の話をしてるから。レザーフェイスさんは奇声を上げつつやかましい武器をぶぉんぶぉん振り回すのが良いの。ちょっと鼓膜がキンキンしちゃうけど、それが良いって人がいるわけだから。棲み分けって大事だから。


 私は仕事の時は寡黙な人が好きってだけ。

 そこにプロフェッショナルを感じてしまうだけだから。

 そうか、だからペラペラ話しかけてくる美容師よりも、黙々と作業をする旦那が格好良く見えちゃうんだな(さらりと飛び出す惚気)。いや、美容師さんもプロだけども。あの人達もゴリゴリのプロだけども!


 だってね、同じアナログ武器を使う人間の話をさせてもらうとですよ、『エルム街の悪夢』のフレディさんがいるわけですよ。あの、ボーダーとお洒落ハットの鉤爪男ね。あの人の凶器だってアナログですから。電池とかで動いてないからね? でもね、ちょっとおしゃべりが過ぎるっていうかね。んもーね、ペッラペッラペッラペッラしゃべるんですよ。お母さんいつも言うでしょ、口よりも手を動かしなさいって! ハイそこ、おしゃべりしないよ! 


 だけどジェイソンさんは違います。

 遊びとかないから。

 さっささっさとるから。

 ちょっと一旦泳がせて~、とかじゃないから。目についたら殺るから。殺ったらハイ次、だから。なんていうかね、殺るのが目的というよりは、縄張りのお掃除が目的みたいな、そんなドライな感じがするわけです。害虫駆除みたいなものです。最高にクール。


 我々だったらどうします?

 例えば、縄張りとも呼ぶべき自宅で害虫を発見したら。それも複数いたら。


 もちろん自らの手で屠るかもですけど、くん煙剤系の殺虫剤や、置き型の殺虫剤を駆使したりもすると思うんですよ。要は罠を設置して仕留める系ですよね。


 違うから。

 ジェイソンさんは自ら探し出して全員駆除するから。

 有能すぎると思いませんか。

 

「ここは俺に任せろ」

「俺の城は俺が守る」


 そんな痺れるセリフが聞こえてくるようではありませんか。

 安心してください、そんなセリフはただの一度も吐きません。全くの幻聴です。好きを極めるとそんな幻聴まで聞こえてしまうのですね。そうです、ジェイソンさんはしゃべりません。ペッラペッラペッラペッラしゃべったりしないのです。いえ、これは単なる私の好みの話ですから。ちょっと飄々としていて、ウィットに富んだジョークなんかもかましつつ、こちらを油断させてザクっと行くようなやり方が好きだ、という人もいるでしょう。良いのです、それで良いのです。ただ私は黙々と手早く殺るタイプが好きってだけ。


 それでいて、ジェイソンさんにはですね、殺人鬼となった背景バックボーンまであるわけです。作りが実に丁寧。ざっくり言うと、幼少時、かのクリスタルレイクキャンプ場にて、いじめっ子達によって湖で溺死させられた、という。


 子を持つ母である私は怒り心頭です。は? いじめだと?

 

 大切な大切な我が子をそんな目に遭わされたら、私自身が復讐の鬼となって、そのいじめっ子のみならず、なんならもうそのキャンプ地に来たやつら全員屠ってやんよ。浮かれた気持ちでここに来たやつらは全員殺ってやんよ。そう思うでしょうね。ええ、思うはずです。映画を知っている人ならここで深く頷いてくれるはずです。ですがここではネタバレを避けるためにお口にチャックしておきましょうか。といってもこれ、文章なのでね、お口にチャックしたところで意味はないんですけど。

 

 とにもかくにもそんな過去があるのです。

 

 そんな話を聞かされたらもう、「ジェイソンさん頑張れ! 殺ったれ! ぶん回せ、マチェーテ! ここがお前の真夏のjamboreeだよ!」そうなるでしょう。もうさ、映画観てみって。なんかね、だんだんジェイソンさん側を応援したくもなるから。殺られる側、ことごとくアレだからさ! お前らここに何しに来てんだよ! って思いますから。


 なんでしょうね、なんかそういう気持ちにさせてくれるのも、彼の魅力なんだと思うんです。他の殺人鬼じゃあこうはいきません。何だよアイツ、早くやっつけろ、ヒロイン、逃げて! じゃないですか。


 もちろん『13日の金曜日』もですね、ファイナルガール(大抵の場合ヒロインが生き残る)については、まぁ頑張れ、って思ったりはしますけど、それ以外に関しては、「よし、残らず殺れ。あっちだ。あっちに逃げたぞ」って応援しちゃうからね。いや、私だけかもしれませんけども。


 とにもかくにもですね、それがジェイソンさんなのです。

 なんやかんやとたくさんの人から愛される殺人鬼です。愛され系殺人鬼。


 さぁ、もう覚えましたね? 彼の魅力も伝わりましたね?

 

 本エッセイで少しでも興味が湧きましたらば、一度たりともチェーンソーを使っていない力 is パワーの殺人鬼、ジェイソン・ボーヒーズが大活躍する『13日の金曜日』をぜひとも、1~3まで観てみてください。あっ、ホラー苦手な方は無理しないでね。無理は良くないから。観るのは無理だけど何となく雰囲気だけでも味わいたいって方のためのエッセイも、当方、用意してございますから! あらすじの方にリンク貼っておきますわね!


 何で一気に3作も勧めるんだ、こういうのは大抵第1作だけだろ、って思われたかもしれませんが、1作目だけを観たら確実に「おい、聞いてた話と違うぞ」ってなりますし、2作目まででも「おい、聞いてた話と違うぞ」ってなりますので、必ず3作目まで観てください。1と2を観たあなたなら、必ず「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! これこれこれ!」と叫ぶはずです。


 私からは以上です。

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誤解されやすい『彼』の真実の姿について 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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