第28話 俺の持てる全てを懸けて
俺の全身全霊を込めた一撃は………男が反射的に振った剣によって、完璧に防がれた。
「…………………」
間違いなく、俺の持てる全てを振り絞って放った技だった。魔王幹部と戦ったときを、遥かに上回る全力。限界という限界を超え、本来なら到底辿り着かない筈の至高の一撃を、無理矢理この体で放っても……目の前の男には、傷一つ負わせることが出来なかった。
最早喋り方すら分からない口のまま、俺は後悔の言葉を吐いた。
(クソッ、クソッ、クソッ、クソォォォ!!!)
守れなかった。あの二人だけは、俺の命に代えてでも守るって決めたのに。俺が今できる最大のことは、時間を稼いで彼女たちを生き延びらせることだったのに。
ダメだった。何も届かなかった。俺なんかじゃあ、英雄の紛い物なんかじゃあ、到底誰かを救うなんて不可能だった…………理不尽に、只人は抗う術を持たない。
「…………動けないか。それもそうか、お前の体はとっくのとうに限界を超えている………筋肉も硬直して、お前はその姿勢のまま動くことも出来ないんだろう」
そう、俺の体は、技を放ったまま微動だにしていなかった。もう、僅かな体力もこの体には残っていない。
「……………全てを出し切って、お前は何を……いや、そうか。お前は、あの馬車の二人を守ろうとしたんだな………」
何も聞こえない。何も感じられない。体中から熱気が失われていく。俺はこのまま死ぬのか。何も為せず、何も守れず、アークたちと再会することも出来ずに…………。
「…………そんな顔するんじゃねぇよ。お前は、確かに守り切った。ああ、お前は守り切ったんだ。この『剣王』ゼルディアス・バンシェイド・ユグドラシルに、人生初の敗北を突き付けた。…………完敗だよ。お前には、どれだけ修行しても勝てそうにない」
まだやり切れていないことが沢山ある。帰るべき場所も、守るべき人たちも………俺は、まだ……………。
「今はゆっくり休んでろ。後始末は、俺がしておく」
ま、だ……………………。
☆
深い深い海の底で、俺はゆらゆらと波に身を委ねていた。
体を動かす気になれない。でも、何かすべきことがあった気がする。まだ、俺にはやるべきことが………。
『大丈夫。今は休んでもいいのですよ。貴方はもう十分に役目を果たしました。水の巫女スフィアブルグは、剣王に殺されることなくイーストまで辿り着き、そこで水神教の神官と出会い共に王都へと向かう……そして、勇者の重要な切り札となる。ふふ、それを言えば、勇者の故郷を救ったのも偉業でしたね。本来なら、大切な家族を殺された勇者アークは、暫く戦う意味を見失い、その隙に魔王の手によって王都が壊滅的な被害を受ける………』
優しい声は、どこまでも俺を柔らかく包み込んで、俺を安心させてくれる。
『お疲れさまでした。貴方がこの世界に来てくれたお陰で、全てが回り始めた。この負の連鎖を、誰かが止めないといけない。世界は停滞し続けているのです。それを、女神に選ばれた英雄でも、人々を救う勇者でも、人々を滅ぼす魔王でもない、只人の意志で動かす………ここまでしてもらった上でこんなことを頼むのは非常に心苦しいのですが、でも、きっと貴方なら自分から救おうと目指してくれるから……だから、今だけは、身勝手な我が願いをどうか聞き届けてください』
『どうか、世界を救ってください。貴方にしか、出来ないことなのです』
本心から申し訳ないと思っているのだろう、彼女の悲痛な叫びが感情として伝わってくる。俺は、全く開かない口の変わりに、ギリギリ動く腕を伸ばして、彼女の瞳に浮かぶ涙をぬぐった。
『………………!貴方は、本当に凄い。ああ、きっと届く。世界は変わるのです。見ていますか、ライナス?貴方の嘆いた世界は今、こんなにも美しく育っている!……………子らに任せるだけではいけない。私たちも、頑張らないといけないのでしょう』
『だ、ぃ、……ょぅぶ……?』
必死に口を動かして、なんとか言葉を発してみた。だが、まるでゾンビのような声が漏れてしまう。これでは、なんの意味も伝わらない………。
『ああ、ああ!どうか何も出来ない私をお許しください!きっと、貴方の願いは全てを覆すから!絶望に染まり切ったこの世界を、希望で満ち溢れさせることができるから!だからどうか忘れないで、貴方は誰よりも______
_______________________全ての生物を照らす、英雄よ!』
その一言で、俺の不安で一杯だった胸中は直ぐに安堵で一杯になってしまった。現金なものだ、英雄と呼ばれるだけでこうも容易く気分が変わってしまうとは。
でもしょうがない。だってこれは、俺がただひたすらに求め続けている夢なのだから。何処まで行ったって、俺が目指す者は、存在は、ただ一つ。
_____________________________________
ということで、『転生モブは英雄になりたい』第二章、いかがだったでしょうか!
商人トーマス、水の巫女と呼ばれたスフル(スフィアブルグ)、豹変した剣王のその後、最後に登場した謎の女性などなど、今回の章はこれからの話へ向けて数多くの謎が生まれました!
正直、前半の下水道の依頼はもっと書きようがあっただろって、自分でもそう思います。あと、三人旅が始まった数日がダイジェストって。本当は内容を色々書いてたんですが、余りにも文才が無さ過ぎてあのような形に……いやほんと、マジで三万字ちょいに収めようと頑張ってるわけじゃないんですけどね?なんだかんだやってくと自動的にこのぐらいの文字数になるんですよねぇ。
基本、私は小説を書く時『こういうシーンを描きたい!』って思いから始めるので、正直クライマックスとそれ以外のシーンの面白さが雲泥の差なのはしょうがないと言いますか、自分でもどうにかしようとは思っているのですが、まだまだ初心者の自分にはどうしようも出来ず……。本当に申し訳ないです。
ではでは!このまま完結目指して執筆を続けていくので、応援などなどよろしくお願いします!以上、作者でした!
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