転生モブはそれでも英雄になりたい
マオウスノウ
第1話 転生、ただしチート無し
俺が転生者だと気付いたのは、物心付いた四歳の時だった。
時折知らない知識が頭の中に浮かぶ現象が起こっていたのだが、それも前世の記憶を思い出せば納得だ。原理も原因も全く分からないが、俺はこの世界にカイ・ノーマンとして生を受けたらしい。
前世の思い出は殆どない。家族も友人も自分の名前すら思い出せず、どんな存在だったか、何をしたのかさっぱり思い出せない。
まぁ前世の話は良い。今世は今世だ。過ぎたことを気にしたって仕方がない。
今度こそ幸せになってやる。
………あれ?今何か変なこと考えなかったか?
まぁいいか。兎も角、俺は前世の知識を持っている。それを活用して無双とか、実に面白そうじゃないか。この世界には魔法もあるみたいだし、魔法を極めて大賢者を目指してもいい。きっと俺には隠された力か何かが存在するはずだ!そうに違いない!
………無理だった。まず、俺が生まれたのがド田舎すぎて知識があろうがなかろうが出来ることが殆どない。王都からも遠いし、こっから移動する物資もない。
加えて言うなら、俺には魔法の才能が無い。いや比較対象が幼馴染三人しかいないから何とも言えないのだが、幼少からコツコツ増やしてきた俺の魔力量を三人ともが越えたせいで自信が完全に無くなった。あと、俺には火属性しか適性が無い。勿論三人は複数属性or希少属性持ちである。
剣においても負けた。唯一回復属性に適性があったひ弱そうな子にだけは勝てたが、他は惨敗。俺は転生者なんだ!特別なんだ!という矜持によって何とかスーパーハードな訓練の日々に耐えて食らい付いているが、正直今すぐにでも止めたい。
というか、もう剣士とか魔法士とか目指さないで農民で居たい。
齢十三にして、俺は完全に心を破壊されていたのだった……。
☆
「おーいカイ!早くしろよ!」
「そーよ!ただでさえ遅いんだから根性見せなさい!」
「ふ、二人とも、あんまりそういうこと言うのは良くないんじゃないかな……」
「ぜぇー、ぜぇー、待ちやがれ、テメェら……!」
村から少し離れたところにある小高い丘、その頂上までの競争中。同じ人間とは思えない程の体力を誇る幼馴染たち(三人目も俺よりよっぽど速い。つまり煽ってる)に大差を付けられながら、俺は息切れしながら猛烈に帰りたい気持ちを抑えて必死に体を動かしていた。
「おいおい、いっつも『俺は英雄になるんだー!』なんて叫んでるくせに、幼馴染一人越えられないのかよ?弱すぎて笑えてくるぜぇ!!」
コイツはアーク・パラディン。主人公みたいなカッコいい名前をして、初対面から何もせずとも俺のメンタルを削った大敵である。四人の中では一番身体能力が高く、剣が理解できない程上手で最近は全く剣筋が見えない。光属性とか言うザ・主人公な属性を持っているイケメン。基本一番ウザイ。
「そうね!女の子にまで体力で負けるとか考えられないわよ!ちゃんとやってるわけ?」
コイツはレイラ・ハーティア。気が強くて活発な俺が苦手とするタイプの女。記憶が殆どないにも関わらず俺の頭脳に『一軍女子』という謎の言葉を想起させて何もせずともメンタルを削ってくる大敵である。四人の中では二番目に身体能力が高く、剣も二番目、ただし火と水と風と土属性が使える化け物である。他の奴に対しては普通なのになぜか俺だけ煽ってくるゴミ。ただ魔法で村に一番貢献しており、親の手伝いをほっぽり出して訓練に精を出せるのはコイツのおかげなので内心複雑である。
「だ、大丈夫……?回復魔法掛けようか……?」
「いや、大丈夫だ、まだまだいける……!」
三人目、コイツはフローラ・マケンディア。気が弱そうでおどおどしてて回復属性なんていう要素を持っているのに俺よりも身体能力も体力もある裏切者。事あるごとに俺の身を慮ってくるが内心俺を見下しているに違いない。決して俺が女の子に世話してもらう奴とか格好悪いなんて考えてるわけではない!断じて!でも優しくしてくれるのは嬉しいからありがとう。でも剣で辛勝してやったー!って喜んでるときに回復魔法で立ち上がってすぐさま俺をボコしたのは許してないからな。
「うぉぉぉぉ!!!!俺はもっと強くなって見せるんだぁぁぁぁ!!!!」
「おっ!?いいぞカイ!もっと気張れぇ!」
「精々頑張りなさい!あっはっはっは!」
「カイくん!?前みたいに倒れたりしないでよ……!?あ、でもカイくんをお世話できるのは良いかも……」
これが俺の日常。これが俺の毎日。もう本当に、俺のプライドは粉々に砕かれてしまっているんです、本当はもう頑張るのキツイんです、でもこの七年ぐらいずっと死に物狂いで訓練してきたせいで限界を超える癖がついちゃっただけなんです……。
(俺は!転生特典とかチートとか貰って!爽快に!無双したかっただけなのにぃぃぃぃぃ!!!!)
「よぉーし、俺も今から全力出すぞ!付いて来いよカイ!?」
「あ!アークずるい!今度こそ私が一番取ってやるんだからぁ!」
「ご、ごめんねカイくん、私罰ゲーム受けたくないから……」
「くそがぁぁぁぁ!!!」
こうして、俺は体力お化けの三人にボロ負けし、罰ゲームとして裸で盆踊り三十分耐久を行った。勿論疲れてぶっ倒れたらフローラにすぐさま回復させられてしまう。フローラの愉悦に浸った顔を見て、 (ああやっぱコイツもあの二人と変わらないんだなぁ)と達観した。
そんなこんなで、俺たちの訓練漬けの日々は過ぎ去り………
…………十五歳、運命の日が訪れる……。
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