障害者にも、なれない男

ナオサカ下僕

○○君は、おそらく違うのかな。と。

永く心に鎮座していたこの塊に漸く対峙する時が来たのだと、瞬間察す。


子よりスマホの画面に眼を落とすばかりの母の耳に、タコを宿らせる勢いで現状つらつら述べてみた。


過度な潔癖、ドアの施錠に納得がいかずに何回も繰り返す開閉、扉の把手に触れる度洗う手、幾度となく放たれるファブリーズ、自室の壁も床もまともに触れぬ現状。


じゃあ、病院行こうか。

漸く口を開いた母。


そして、その日が来る。

平日の昼時のあってか待合室には、やけに貧乏ゆすりが落ち着かない人が一人いた。

この人も何かしらを患っているんだなあ、と思った。


色々な事をアンケートのようなものに書いた。

実生活に何か弊害はあるか。とか、あるとしたら何か。とか。

ぼくは、上記と同じ事、更に最近はトイレに入るのも難易度が高い事を書いた。


これを読んでる方はトイレの難易度とは、と頭を傾けいることでしょうから、どういう事か説明します。


まずトイレは昔は弊害無くちゃんと使えました。しかし、臭いを感じた時には既に鼻腔内に尿や糞便の粒子が着いていると知り、そこから臭いを感じてしまったら汚くなったと思うようになり、トイレ使用後には鼻腔を洗うように、次に口腔内も洗うようになる。

つまり、うがい。

そして、耳の中迄その範囲が及び、最近は髪迄ダメになってきている。

トイレを使う度、洗面所でザブザブと髪を洗う。

トイレが大変になり、辛い。

ということです。


話は戻り、いざその時。

お医者様と顔を合わせ、しばしの面談ぼくは障害者ではないらしい。

というのも、ぼくは切り替えが出来るから。

トモダチがおふざけで垂らした唾から始まり、その唾が垂れた机、机に置いた教材、教材を入れたランドセル、ランドセルを置いたあの場所。と受け付けない場を拡げて行った。やがて外気総てがダメになった。

そしてぼくは、それならば何をしても意味ないと踏ん切りがついた。

結果、外では普通の人間で体裁を保てた。

だから障害者になれない。


単純に嬉しくなかった。

ぼくは嬉しくなかったぼくに、悲しくなった。

そして解った。

ぼくは障害者のレッテルが欲しかったんです。

自身の低能さ、不甲斐なさ、その他含めた劣等感もろもろを全部、障害者手帳でパスしたかったと気づいた。

けど、その実、不安が募るだけだった。

過去が切り離せなかった人間でした。


どこでもいいから居場所が欲しかった。

健常者には、ぼくの席無いからと決めつけては、障害者がぼくの場所だと決めつけだした。

それが故に、無意識に障害者に近づいていたのだと気づいた。


まずはトイレ使用後に髪を洗わない。

触れる場所を増やす。

飲食後の病的なうがいを止める。

ぼくは普通になりたい。

七年越しの本心を込めた指先でアリピプラゾールをなぞる夜。

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障害者にも、なれない男 ナオサカ下僕 @saito_zuizui

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