第39話 僕のお嫁さんは宇宙一かわいい

 年が明けた頃、僕たちは結婚することを周囲に正式に伝えた。周囲といってもそれほど多くはない。

 僕の両親はすでにこの世にいないからだ。

 理央の両親に会うのはさすがに緊張したが、温かく歓迎してくれた。

 僕に両親がいないことを知っているようで、いつでも家に来ていいよと言ってくれた。

 正義の味方を自称する叔父さんには会うことはできなかった。どんな人か興味があったんだけどね。

 理央の話ではあの洋館のクローゼットをあけて、異世界に行ったということだ。これについては深く追求しないことにした。

 結婚式は四月に挙げることになった。

 ごく身近な人たちとだけで挙げることになった。

 やはり理央も女の子だ。結婚式の準備はすごく楽しそうだ。

「三十歳になる前に結婚できて良かったわ」

 理央はそう言っていた。

 結婚指輪はアクセサリーブランドのロメアで購入することにした。あのロメアのルナさんが一緒に選んでくれた。

「あのルナさんって人間離れした美しさね」

 結婚指輪を選んだあと、理央はルナさんをそう評した。たしかにルナさんの美貌はちょっと人間離れしている。

 僕はルナさんをモデルにしたサキュバスルーナというキャラをネットの海にあげた。

 昼はジュエリーショップの店員で夜はモテない青年たちを癒すサキュバスという設定だ。

 サキュバスルーナもありがたいことに万バズした。


 結婚することが決まってからは理央は僕の部屋で生活している。新しく広い部屋を借りようかと思っていてら、美琴から連絡があった。

 三月には美琴は実家を出て、とある人と一緒に暮らすことにしたのだという。

 まさか美琴に彼氏でもできたのかと寂しさを感じていたら、そうではなかった。

 なんと驚いたことにあの如月花蓮と一緒に住むのだという。そして如月花蓮が立ち上げた芸能事務所で働くのだという。

 いつ知り合ったのか知らないが、そういうことになった。

 ということで僕たちは実家に引っ越しすることになった。

「新しい部屋でなくていいの?」

 僕は理央にそう尋ねた。

「うんうん、生活にはお金が必要だから節約できるところはしないとね。でもリノベーションは私にまかせてもらうわ」

 僕のお嫁さんは良く出来ている。

 実家のリノベーションは理央のフリーハンドに任せることにした。


 四月になり、ついに結婚式当日を迎えた。

 式場は水樹夏彦さんに紹介してもらった大阪市内にある水晶館という老舗ホテルのチャペルであった。

 結婚式に参加するのは僕と理央、理央の両親、妹の美琴、如月花蓮、南城早苗、木村佳奈恵らであった。

 メイクは木村佳奈恵が撮影は南城早苗が担当してくれた。

 僕たちは神父さんの前で病めるときも健やかなるときも愛し合いますかと問われる。

 そして僕たちは誓いのキスをする。

 純白のウェディングドレスを着た理央は近畿、いや日本いや世界一かわいい。いやいや宇宙で一番かわいい。こんなにかわいい人をお嫁さんにできる僕はとんでもなく幸せだ。


 結婚式のあと如月花蓮の知り合いのレストランで二次会が行われた。

 胸元がざっくり開いたドレスをきた如月花蓮はとんでもなくセクシーであった。

 結婚式を挙げたばかりなので見惚れないように自制する。

 二次会からは白石澪も参加した。

 白石澪は年明けからモデルとしての仕事がいくつか入り、けっこう忙しくなっているようだ。

 今の仕事を辞めようかどうか悩んでいるという。

「まさか先輩の彼女が三津沢さんだなんて思いもよらなかったです」

 ビールをグビグビと飲みながら、白石澪は言った。

「そうね、まさか澪ちゃんが悠真君の会社の後輩だなんてね」

 理央と白石澪は世間は狭いわねと言い合っている。

「ねえ白石さんってモデルやっているんですよね」

 金色のチャイナドレスを着た美琴が白石澪に尋ねる。深いスリットが入ったチャイナドレスは長い足をもつ美琴にとても似合う。

 美琴は如月花蓮の事務所でマネージャー兼タレントとして活躍している。

「ええ、まあ駆け出しですけどね」

 白石澪は答える。

「じゃあ私のところに来ない?」

 どこかの歌劇団の男役のようないい声で如月花蓮は白石澪をスカウトする。

 白石澪は顔を赤くしている。

「か、考えさせて下さい」

 白石澪は絞り出すようにそう答えた。

 夏頃に白石澪は会社を辞めて、如月花蓮の事務所「フラワーロータス」で働くことになる。

 白石澪はテレビで見ない日はないくらいに活躍するのだが、それはまだ未来の話だ。

 


 結婚式からさらに三カ月が過ぎたころ、理央が体調を崩して病院にはこばれたという連絡を受けた。

 夏の暑い日のことであった。

 僕は仕事を早退し、病院に駆けつけた。

 そして知らされたのは理央が妊娠していたということであった。

 病気でなくて本当に良かった。

「お腹に赤ちゃんがいるなんてなんか不思議ね」

 ベッドの上でお腹を撫でながら、理央は言った。

 僕は理央のまだまだ目立たないお腹をなでる。

 たしかにまだ実感はわかない。

 でもお医者さんにエコーを見せてもらったら、たしかに理央のお腹の中に新しい命が宿っていた。

「あーでも妊娠したらエッチなこと控えなくちゃいけないんだって。ごめんね悠真君」

 なんだか妙なことで謝られた。 

 理央の言う通り、結婚してから時間をみつけてはそういうことをしていたからね。まあ妊娠するのもあたりまえか。

「いいよ、そんなことより体に気をつけなよ」

 僕は理央のお腹を撫でながら、そう言った。

妊娠した理央は宇宙で一番かわいいと思う。

 翌年には理央はめちゃくちゃかわいい女の子を出産した。

 理央が産んでくれた宇宙で一番かわいい女の子は悠理ゆうりと名付けた。

 美琴はお兄ちゃんぼくも赤ちゃん欲しいと意味不明のことを言っていた。

 理央は何故か勝ち誇った顔をしていた。

 

 理央が退院し、悠理と三人の生活が始まった。

その頃には僕はイラストレーターと会社員という二足の草鞋を履くようになっていた。

 竹川不由美のシネマダイアリーの売り上げは好調のようだ。連載十二回の予定が続行が決定した。

 さらに美琴の小説「陰陽の絆 迷える九尾の狐と怪異に抗う兄妹」がのっぺらぼう麻里先生によりコミカライズが決定した。そのキャラクターデザインを僕が担当することになった。

 イラストレーターとしての仕事も増えてきている。でも会社員は辞めないでおこうと思う。

 会社員という安定した立場があるから、イラストのクオリティが保たれると思うからだ。

 理央はそんな僕を全力で支えてくれた。

 理央は編集の仕事を辞めないでいる。

 美琴がしょっちゅう家にきて、悠理の面倒を見てくれるのはありがたい。

 美琴の部屋はそのままにしてある。

 あそこは美琴の宝の部屋だからね。


「ねえ、悠真君」

 ある日の夜のこと、悠理を寝かしつけた理央が僕に尋ねた。

「何?」

 理央は僕に抱きついて、キスをした。

 何度見ても理央は宇宙で一番かわいい。

「私、悠真君のこと中学生のときから好きだったのよ。再会したとき運命だと思ったわ。ありがとう悠真君」

 そしてまた理央はキスをする。

 このままでは悠理の弟か妹ができそうだ。 

 まあいいだろう。

「僕も理央のことが好きだったんだと思う。たぶん初恋だったと思う。だから結婚してくれてありがとう。宇宙一かわいい僕のお嫁さん」

 僕が言うと理央は微笑む。

「宇宙一かわいいのは知ってるわ」



 完結

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マッチングアプリで出会ったのは僕をいじめた美少女同級生でした。今さら謝ってももう遅いと思っていたらめちゃくちゃデレられた。 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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