第30話 撮影日和
九月の下旬、僕たちは神戸にでかけた。
メンバーは僕と理央、それに美琴であった。
撮影の目的は冬のコミックカーニバルに出すためのロム写真集に使う写真をとるためである。
プロカメラマンの南城早苗が参加できなかったのは残念だが、彼女は仕事ということなので仕方がない。
サークルのメンバーにはまだあったことがないがプロメイクの木村佳奈恵という人物もいる。
だが、彼女も今回は不参加だ。二人とも仕事で忙しいようで仕方がない。
メイクと衣装は理央が担当する。
カメラは僕が担当することになる。
自分ではそうは思わないが、僕にはカメはラの才能があると南城早苗は言っていた。
被写体のことが好きだとわかるいい写真をとると南城早苗言っていた。
うれしい評価だが自分ではいまいちぴんときていない。
なので僕はデジカメで撮れるだけとってそのなかからいい物を選ぼうと思う。
数うちゃあたる作戦だ。
デジカメはフィルムカメラと違い何百、何千と撮れるのが利点だ。
神戸には午前十時すぎに到着した。
撮影スケジュールは前半は神戸南京街でミス上海の撮影をし、後半は理央の知り合いが持つ洋館でアサシンバニーガールの撮影をする予定だ。
この日、美琴はすでにチャイナドレスを着ていた。白色に麒麟が描かれたミニスカートタイプのチャイナドレスであった。
神戸に着くまではオーバーサイズのパーカーを着ていたが、それは南京街について脱いだ。
異国情緒漂う南京街に白いチャイナドレスを着た美琴は文句なく映える。
髪色も黒色に変えて、お団子ヘアーにしてくれている。
前のピンク髪はやめて、この日のために染め直してくれたという。
お兄ちゃんの好きな髪型がぼくの好きな髪型だからと愛が重いことを美琴は言っていた。
僕たち
この日は晴天で文句なしの撮影日和であった。
僕はミス上海に扮した美琴をいろいろな場所で撮影する。
関帝廟を背景に撮影する。巨乳の前で腕組みをする姿は格闘ゲームのキャラクターのようだ。
屋台の前で撮影するとまるで美琴とデートをしている気分になる。
パンダの像によりかかる美琴の憂いをおびた表情は胸にぐっとくるものがあった。
「やっぱり美琴ちゃんは被写体として完璧だわ」
ベンチに座る美琴のメイクを直しながら、理央は褒める。
「ありがとうお姉ちゃん」
美琴もうれしそうだ。
千枚近く撮影したので僕たちは小籠包が有名なお店で昼食をとることにした。
時刻は午後一時を少しまわったところだ。
店の中は観光客で満員であった。
大きなテーブルで相席でいいのなら空いているということなので僕たちはその席に座ることにした。その大きなテーブルにならんで座る。
左が理央で右に美琴と両手に花状態だ。
名物の小籠包を三人前に五目炒飯、鳥のカシューナッツ炒め、野菜餃子を注文した。
三人で撮影した写真を確認していいたら、料理がはこばれてきた。
料理を持ってきた年配の女性が美琴のことを見ていた。
まあ美琴は美人で目立つから視線がいくのは仕方がないな。
僕は小籠包を食べる理央をスマートフォンで撮った。
ちょうど理央が熱くてはふはふいっているところだ。
「ちょっと変なところ撮らないでよ」
熱い小籠包を食べたせいか理央は顔を赤くしていた。
今日のメインは美琴だがもちろん理央のことは忘れない。
「お兄ちゃん、ぼくも撮ってよ」
美琴は野菜餃子を食べようとしていた。
そんな美琴もパシャリと撮る。
きっとこの写真をみた読者は美琴と中華レストランデートをしている気分になるだろう。
「あの……ちょっとよろしいでしょうか?」
ある程度料理を食べた僕たちに誰かが声をかける。
それはお店の店員さんであった。料理を持ってきてくれた年配の女性だ。
「なんでしょうか?」
理央が営業スマイルで答える。
初対面の相手に愛想よく対応できるのが理央のスキルだ。僕たち
「そちらのお方、もしかして
年配の店員さんは恐る恐るといった雰囲気でそう尋ねた。ちらりちらりと美琴を見ている。
「ええ、そうですよ。たしかひいお祖母さまがその人だったかしら」
理央がそう説明した。
僕たちのひいお祖母ちゃんが戦前の女優
その画像があまりにも美琴に似ているので、理央は驚いていた。
ちょっと悠真君の先祖って有名人じゃないのと
「はーやっぱりそうなんですね」
年配の店員さんはおおげさに胸をなでおろす。
「実はねこのお店って
そう言うと店員さんは奥に消えていった。
店員さんは駆け足で戻ってくる。
彼女の手には額に入った写真が載せられている。それは美琴に似た美しい女性の写真であった。白黒の写真にはサインが描かれている。
どうやらその店員さんの言っていたことは事実であったようだ。
「私も小さいとき何度かお会いしたことがあるんですよ」
その店員さんの声はどこか誇らしげなものであった。
彼女はエプロンのポケットからあるものを取り出す。
それは貝殻細工の蝶の髪留めであった。
「これをぜひもらってほしいのです。これは私が小さいときに木蘭さんからもらったものなんですよ」
すっと店員さんはその髪留めを美琴の前に差し出す。
「えっでもそんな大事なものは……」
と美琴は遠慮する。
見るからに年代物で高価そうなものだ。それにそれは思い出の品だろう。
それは誰でも遠慮してしまうだろう。
「いいえ、もう私じゃあ似合わなくなったんですよ。これはやっぱり木蘭さんの血縁のかたにお返ししたいんです。あなたに持っていてほしいんですよ」
店員さんは美琴にその髪留めを握らせた。
「美琴ちゃんもらっておきなさい。それがいいわ」
理央はうなずきながら、そう言った。
これはあとで聞いたのだが、その店員さんはウイッグをつけていたということだ。
理央は店員さんがなんらかの病気でウイッグをつけているのだと考えた。
このときの僕はもちろんそれには気づいていない。
そして美琴は気づいていたようだ。
「それでは遠慮なく」
美琴はそう言い、その髪留めを受け取る。お団子ヘアーをほどき、髪留めをつける。
その姿は店員さんが持つ白黒の写真とほぼ同じであった。
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