第二部「約束の島」

序章「期末テストと不穏な影」

第1話「期末テスト」

第一部終了から一週間。青い光の剣を発現させた桐人は、血脈の継承者として覚醒し、身体能力が大きく向上していた。しかし、吸血鬼に操られた絢音は謎の失踪を遂げ、不穏な影が日常に忍び寄り始めていた

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朝の通学路は、いつもと変わらない風景が広がっている。


期末テスト最終日。この一週間、俺は必死に勉強してきたが、正直なところ身が入らなかった。



「ああ、眠い」



俺は大きくあくびをしながら、隣を歩くユリを見た。



「ユリはいつも元気だな。今日のテストもばっちりなのか?」



「桐人みたいに一夜漬けじゃなくて、普段から勉強してるからね」



ユリが得意げに胸を張る。その仕草で、ささやかな膨らみを俺の広い周辺視野がとらえた。



(相変わらず、呪いは健在か)



「そこには反論できねえ。だけど暗記ものは直前に見た方が簡単に思い出せるんだよな」



実際のところ、この一週間で俺の記憶力は以前より更に向上していた。


青い光の剣を発現させてから、身体だけでなく頭の回転も速くなっている気がする。



「しかし今日でようやく期末テストも終わりだ。解放されるぜ」



「そのセリフは今日のテストが終わるまで待ってなさい」



ユリがたしなめるように言った瞬間、前方から見慣れた姿が近づいてくる。



「あ、さくら、おはよう」



「おはようございます、ユリ、桐人」



さくらが俺たちに合流し、自然と俺の前を二人が歩く形になった。



歩くたびに——揺れる。ほぼ揺れない。大いに揺れる。ほぼ揺れない。



(くそ、またこの呪いか)



小学五年生の時から続くこの視線の呪い。女性の胸に視線が引き寄せられるという、実に厄介な症状だ。



「桐人はまた私たちの胸を見てるでしょう。ほんといやらしいんだから」



ユリが振り返って睨む。



「なあ、ユリってのはユレに対してまだ二回変身を残しているという事か?」



「どういう事?」



「ほら、古文の四段活用だっけ?ラ、リ、ル、ル、レ、レ、って唱えた事は覚えてるぜ。って痛え!」



ユリの拳が俺の腹にめり込んだ。



「意味わかんないけど、めっちゃ失礼な事言われているのはわかる」


「今日は、テストの山を教えてあげないからね」



「待て、それは困る。今、おとなしく殴られてやったじゃねえか」



「って事は失礼な事を言ってるって、自覚してるって事よね。なお悪いわ」



ユリは俺の事をポカポカ殴ってくる。以前なら本気で痛かったはずだが、今はほとんど感じない。



(これも血脈の継承者の力か)



「おいおい、痛えよ。っていうか力入れ過ぎだ、本当に痛い」



俺は両手で頭をガードしながら降参の意を示す。


痛くないが、痛がっておかないとユリが心配するだろう。



「わかった、ユリ。今日はテストの最終日だ」


「これまでテストの山を教えてくれたお礼も兼ねて、ランチをごちそうしようじゃないか」



ユリは一旦殴る手を止めて、考えている。



「そうだ、デザートもつけよう。これでどうだ」



ユリは満足そうに頷くと、さくらの肩を抱いて引き寄せた。



「じゃあ、さくらの分もね」



「ああ、分かった。それでいい」



(ユリ、そんな風にさくらを揺すったら……)



遅れてすごい横揺れが起きている。視線を逸らそうとするが、呪いがそれを許さない。



「そういえば、絢音ってまだ学校来てないの?」



俺が何気なく聞くと、さくらの表情が曇る。



「はい……もう一週間も休んでいます。体調不良だと聞いていますが」



そうか、あの日から一週間か。


黒ずくめの吸血鬼に操られて、さくらを誘き出した絢音。正気に戻った後、彼女は姿を消した。



(一体、何があったんだ?)



*   *   *



学校に着くと、いつもと違う雰囲気を感じた。



教室に入ると、クラスメイトたちが最後の追い込みをしていた。



「よし、ユリ、早速今日の山を教えてくれ」



「今日は数学と英語でしょ。数学は二次関数の応用問題と、三角比が出るはずよ」



「三角比?サイン、コサイン、タンジェントのやつか」



「そう。特に余弦定理を使う問題は要注意ね」



俺は必死にノートにメモを取る。


カメラアイがあるとはいえ、理解していないと応用問題は解けない。



「英語は?」



「仮定法過去完了と、長文読解。去年の過去問見たら、環境問題の長文が多かったわ」



「仮定法過去完了……If I had studied harder, I would have passed the exam、みたいなやつか」



「お、ちゃんと覚えてるじゃない」



(この一週間で、頭の回転も良くなってる気がする)



青い光の剣を発現させてから、俺の中で何かが変わった。


身体能力だけじゃない。思考速度、記憶力、集中力。全てが向上している。



問題を見た瞬間に解法が浮かぶこともある。まるで脳の処理速度が上がったみたいに。



でも、それと引き換えに何を失うのか。スニク様の言葉が頭をよぎる。



『血脈の継承者は、力を得る代わりに……』



考えても仕方ない。今は目の前のテストに集中だ。



しかし、テスト用紙を前にして俺は苦戦した。数学の証明問題が予想以上に難しい。



(くそ、三角形の内接円の半径を求めろって、どうやるんだ?)



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第二部からは次回予告を廃止します。前回までのあらすじは継続します。


引き続き師旅煩悩をよろしくお願いします。



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