第44話 電撃使い
集合は二日後ということになった。急テンポで話が進んでいく。
「あたしたちは行かなくていいのか?」
アカリに問われるが、事情と状況が事情と状況なのでな。編成人数というのはむやみに増やせばいいってもんじゃないのだ。そう説明する。
「あの厄介なデカ頭とまた戦わなきゃならないんだよな。がんばれよ」
そういうわけで、莉子だけ連れて行って、魔法陣の前で集合。ダフィーは片耳に『リンガフランカ』を装着していた。あれは本当にかなりのレアアイテムらしくてザナドゥ商会でもまだ確保できていないほどだが、彼は入手していたらしい。さすが最大戦力を率いるリーダー。
「では、第七層スタート。行きますよ」
というわけで言葉が通じるようになったダフィーに、デュラルを除いた六人のメンバーについて紹介される。うち一人が特に重要らしかった。
「彼女の名はフィービー・ロック。UKの出身です」
なるほど、英国。つまりヨーロッパからの来訪者。武器はコンパウンドボウを使うようだった。ちなみに、いつだったかソアに駄目出しをされていたあの三人のコンバウンドボウ使いは六名の中に混じっていなかった。あいつらは中核メンバーではないらしい。まあ、そうだろうとは思うが。既にここを踏破しているのはぼくと莉子だけなので、必然と先陣を担うことになる。既に分かっている通り、この階に出てくるのはコバンばっかりとあとたまーにオオバンがいるだけで、そいつらと戦わないならボス部屋に直行してしまうこともできるわけではあるが。
「せっかくですので、何戦かはお付き合いいただきたいのですが」
「まあいいでしょう。協力体制、合同戦線ということですしね」
向こう側が見通せない長い通路に差し掛かる。デュラルが≪ドリーム・タイム≫を発動する。飛躍的に向上した視力で、先を見通す。
「まっすぐ先。コバンが二体います。急ぎましょう」
みんなで駆け足。辿り着いた。
「みんな、頼んだぞ」
フィービーが頷いた。弓を引き絞る。命中した。かなりの腕前のようだ。他の六名も遠距離攻撃手段を持っていたが、ヒットしたのはその一発だけ。ぼくはとりあえずオブザーバーに徹する。
「スコアレリーフを回収すると、その途端に『ロクモンセン』が出現する。そういう話でしたが」
ぼくが首肯する。フィービーがスコアレリーフに手を伸ばす。その瞬間に、≪
「≪エレクトリカル・コミュニケーション≫!」
フィービーの全身から、電撃が放たれた。そういう能力らしい。出現したロクモンセンはあっという間に塵へと変わった。リーチは短そうだし、相性の悪い相手に対してはさほどの威力は発揮できなさそうな能力ではあるが、たぶんこの階層では無双できるだろうな、この人。
「フィーには、デュラルが抜けたあとの副隊長の後任を任せる予定なのです」
なるほどな。『シーゲイツ』がこの階を活動拠点にする予定だというのなら、妥当な人選なのだろう。まあそれ以上詳しい向こうの内部事情までは知らないが。
「……いました。一体だけ、わずかに羽音が大きい。おそらくオオバンではないかと」
聴覚を強化したデュラルが、オオバンを発見した。みんなでそっちへ急ぐ。今度はフィービーの弓も当たらなかったが、ぼくがベアリング弾を当てて倒した。
「スコアレリーフはお譲りします。今日はそういう目的で来ているわけではないので」
「それはかたじけない。それでは遠慮なく」
今度はフィービーは前に出なかった。残りの六人が進み出て、三体出てきたロクモンセンたちと戦う。全員が、電撃を発するための武器を持参していた。何種類かあるが、どれも莉子のスタンロッドとはちょっと形が違う。えーと、ぼくも詳しいわけじゃないがあれはたぶんスタンガンとかいうやつだ。殲滅成功。
「思った通り、ここは稼げますね。デュラルのこの能力を失うのはやはり痛いが」
うむ。それを分かっているから今日は厄介な交換条件を呑んで付き合っているのである。我慢してほしい。
「あ、またいた」
今度はコバンが一体。撃破。そういうわけで、十枚くらいスコアレリーフを回収した時点で、さすがにもういいかということになった。ボス部屋へと進む。
「シュラ、シュラ、シュラ、シュラ」
出た。サンメンシュラ。最初は泣き顔の状態だった。まだ距離はある。チャンス。
「フィーの能力は、こんな風に応用することもできます」
敵からは離れたところで、≪エレクトリカル・コミュニケーション≫が発動される。何をしたのかと思ったら、矢に電撃を付与したようだ。こいつにも電撃がある程度有効だ、という情報は事前に伝わっているわけなので。そして自分の分だけじゃない、数本の矢に電撃をエンチャントして、ほかにもいるコンパウンドボウ使いにそれを渡す。
「シュララー!」
数発の電撃矢が突き刺さった。もちろんそれだけで倒せるほど甘い相手ではないが、一つ分かったことがある。こいつ、電撃を浴びせると全体的に動きが鈍くなる。ということは、攻撃のペースも落ちるし、顔の種類が入れ替わる頻度も落ちるということのようだ。と、顔が怒り面に変わる。石礫が飛んでくる。
「ディフェンス!」
ダフィーの号令。二人ほどのメンバーが、盾のようなものを展開した。これは彼らの≪
「どうぞ、これを飲んで!」
ダフィーに薬瓶のようなものを渡される。蓋を外し、口から流し込む。……うわ。すげえ。みるみるうちに痛みが引いていき、傷が消えた。これが≪ダフィーズ・エリクサー≫か。ちなみに、飲み干した時点で瓶はすっと空中に溶け込むように消えてしまった。そして、飲み干されて瓶が消えた時点で、ダフィーは次の一本を召喚できる状態になる。一度には一本ずつしか出しておけない。そういう性質の能力である。
「≪ダフィーズ・エリクサー≫!」
「≪フォーティーナイナー≫!」
ほかにも怪我人が出ていたが、そっちは莉子が治療した。そして、面が笑い顔に入れ替わる。いよいよ来るぞ。
「≪ドリーム・タイム≫。……聴覚遮断」
え、そんなことできるんだ。強化するだけじゃなくて、下方向にもコントロール可能になるんだ。
「あ、やべ」
またぼくはフィアーを喰らった。また莉子に治療してもらう。莉子が大慌てで走り回り、全員の状態を治療する。
「……やはり、フィアーを喰らっている探索者に、薬を飲ませるのはちょっと現実的ではないですね。そしておそらく、仮にやれてもこの種の状態異常に対しては効果は発揮できない」
彼の能力は強力だが、万能ではない。とはいえ、ヒーラー二枚の構成はやはり頼もしかった。感覚遮断によってフィアーを無効化していたデュラルが、投げ槍を放った。命中する。口を狙ったらしいが、わずかに逸れる。ヒットしてはいるが、倒しきることはできなかった。
「さて。そろそろとどめと行きましょうか」
「おう」
これも分かってきたが、面と面がチェンジするタイミングで、数秒ほど攻撃が来ないチャンスがある。その瞬間を狙って、ぼくとダフィーが躍りかかる。
「せいっ!」
ぼくの至近距離による斬撃と。
「とぅっ!」
ダフィーの持っていた、サーブルという刺突武器の攻撃が、同時にクリーンヒットする。そして、最後に突っ込んできたのはフィービーだった。ダフィーは次の瞬間、身を翻して後ろに逃げた。ぼくは状況が分からず、そのままいたのだが。
「≪エレクトリカル・コミュニケーション≫、フル・パワー!」
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
「シュラララララララララララララララララ!」
ぼくとサンメンシュラが同時に絶叫を上げた。この能力には、敵と味方とを判別する機能は無いらしかった。よって巻き添えで電撃を喰らう羽目になった。
「シューラーラーラー……」
倒した。倒したのはいいが、ぼくはえらい有様である。動けない。ダフィーに例の薬瓶を示されるが、それを受け取れる状態にない。体痺れまくり。
「だったら莉子にお任せですよ。≪フォーティーナイナー≫!」
莉子がぼくのところに着くまでに間があったので、48秒のリミットに間に合わなかった。完治していない。だが薬瓶を受け取れるくらいの状態にはなったので、≪ダフィーズ・エリクサー≫を飲み干す。ふーむ。やっぱりヒーラー二枚構成は手厚いな。そうそうやれることでもないだろうけど。
「というわけで、終わりですね。ありがとうございました」
ダフィーがそう言った。
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