07:最後のメッセージ「宣戦布告」

 会見も、いよいよ大詰めだ。

 蓮は、ファンに向けて、真摯な表情で語りかけた。


「最後に、僕たちをずっと支えてくれているファンの皆さんへ。本当に、驚かせてしまってごめんなさい。そして、心配をかけてごめんなさい。でも、これだけは信じてください。あの日、あの記事が出るまで、僕に特定の誰かはいませんでした。僕の時間は、すべて『Stardust Mirage』と、ファンの皆さんのためのものでした。それは、紛れもない事実です」


 蓮は、胸に手を当てた。


「この恋は、僕たちが望んだものではなく、いわば『作られた』恋です。もし、この僕の決断で、誰かが悲しい気持ちや、ネガティブな気持ちになってしまうとしたら……。その怒りの矛先は、どうか僕たちではなく、事実を捻じ曲げ、我々をここまで追い詰めた無責任な報道の数々に向けてください。妄想準拠の作り話で皆さんから雑誌代やwebのアクセスを稼いでいたマスコミの皆さんなら、それくらいは受け止めてくれると思いますよ」


 そして、彼は少しだけ笑った。


「でも、どうせなら、この状況を楽しみたい。これから始まる、僕と凪さんのリアルな物語を、できれば応援してくれたら、こんなに嬉しいことはありません」


 しめくくりの言葉を口にして、蓮が着席する。

 最後に凪が、マスコミに向けて「最後通牒」を突きつけた。


「そして、マスコミの皆様。本日をもって、あなたたちがこれまで報じてきた、わたくしたちの蜜月に関する記事は、そのすべてが完全なフィクションであったと、ここに証明されました。おめでとうございます。時系列が、破綻しましたわね? わたくしたちの恋は、これから始まるのですから」


 彼女の目は、一切笑っていなかった。


「ところで、いろいろな記事のそこかしこに登場した『匿名関係者』様は、本日この会場にいらしているのでしょうか? もし今からでも名乗り出てくださるのなら、神楽坂さんとご一緒に、謝罪を受け入れる用意がございます。業務上のあれこれを吹聴するなんてことはよろしくない行いだ、ということは大人であればお分かりでしょう? もちろん、その方が本当に我々の関係者であった場合、リテラシーの低さとコンプライアンス意識の欠如を理由に、即刻解雇処分とさせていただきますが。我々は、身内にそのような方がいるとは思っておりませんけどね」


 冷たい言葉が、会場に突き刺さる。


「ああ、それから。もし皆様が、過去のデタラメ記事と事実を照らし合わせる『ファクトチェック検証番組』にご興味がおありでしたら、実際にやってみるのも一興ですわね。我々が新しい公式チャンネルでも立ち上げて、有料配信をいたしましょうか。ゲストとして、記事を書かれた記者の方々をお呼びしてもいいですわね。もちろん各記事を使用する際はちゃんと、記事元のマスコミ各社に使用許可をいただいてから配信しますわ」


 許可を得られなかった場合は、その旨をきちんと配信で言いますけれど。

 会場にいるマスコミの人々に向けて、凪は微笑む。

 それは明らかに、いろいろなものを含んだ笑みだった。



 -つづく-






※次が最終話。本日19時に更新します。

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