第二章 アニマのタロット編 小さき魔術師

第29話 アニマとの談話~変異空間と夜~

 疲れて眠ってしまった俺は、またどこで感じた事のあるふわふわとした感覚に気が付いて意識が覚醒していく。



「やぁ、意外とお早い再開だったね」



 落ち着きのある透き通った聞き覚えのある声に気が付きゆっくりと目を開けていくと、目線の先にはアニマが居た。



 ここは前に来た白い空間……確かレムノスと言ったか。



 俺がゆっくりと起き上がると、今回は床ではなく青いふかふかのソファーの上に居た。



「君が現れる場所は大体わかったから、そこにソファーベッドを置いてみた。寝心地は良かったかな?」


「ああ、起きちまったけど」


「ふふっ、それは良かった」



 俺は身体を起こして、座り直す。



「ここに来ているってことは、俺は今寝ているってことで良いんだな?」


「うん、覚醒世界の君はぐっすり眠っているよ」


「じゃあ、今回は何でここに呼び出されたんだ?」


「うーーん……寂しかったから? 何てね! まぁ別に冗談じゃないけど、せっかく呼び出せるなら話がしたくって。安心してよ、君も寝ている間に夢を見る時があるでしょ? それと同じ感覚で過ごして貰って良いから」



 過ごして貰って良いって……夢の中でそう思ったことなど無いんだが。



 複雑な気持ちだったが身体はしっかり寝ているし、スキル『寝る』の効果で朝起きればどうせ元気になっている。



 その何もない間くらいは話相手になってやっても良いだろう。



「そう言えば、早速僕のタロットが導いてくれたようだね。上手く機能して良かったよ」



 アニマは俺の目の前でタロットを広げると2枚の光るカードを見せてくる。



 それは『剛毅』と『恋愛』のカードだった。



「剛毅……それは、己を律する力を示すカード。自身の暴力性や残虐性のような内に秘めたる猛獣を己の理性でそれを手懐ける精神力、そしてその広き懐で他者を優しく包む愛を君は学び始めた。そして、恋愛……自身が愛する者や、今後君が何を大切にするのかを学び始めたカード。君はまだ若いが故に選択の経験が少ない。今後、君は君だけのもの見つけていくことになるだろう」



「ざっくりしているな」



「今はまだ分からないだろうね。でも、いずれ君もたどり着ける時が来る筈だよ」



 アニマは無邪気に微笑みながらタロットを片付け始めた。



「せっかくだから、ここに居る間は僕が知っていることを君に伝えておこうと思う。情報共有ってやつ。知っていれば君の活動が有利に働くことがあるかもしれないからね。何か聞きたいことある?」



 聞きたいことって言われてもぱっと思い浮かばない。



 ……あ、ならこれを聞いてみるか。



「アニマ、この前『夜が来る』って言ってたけど。変異空間ダンジョンとの関係を詳しく聞きたくて」



「変異空間? ああ、君たち人間が作った呼称か。では、君たちの呼称に合わせて説明するよ。変異空間と言うのは君の世界とは別の世界、君たち視点からしたら”異世界”の事を指す。”異世界”も色々個性があって攻撃的な魔物ばかり居る世界もあれば、中立する魔物もいる世界もある。そんな世界が沢山あってお互いにバランスを取り合いながら、世界の増減を繰り返している。そんな異世界一つ一つにも管理者が居る。恐らくだが君たちはそれをダンジョンボスと呼称しているはずだ。本来、異世界に干渉することなどありえない事だったのだが、この地球の多くで異世界へ通じる次元の亀裂が多く見られ始めている。この異常現象こそ、夜の仕業なのだ。夜は次元を歪ませて異世界の亀裂から侵入し、全ての世界を乗っ取ろうとしているのだ」


「世界を乗っ取る?」


「夜達には2つの力がある。次元を自由に渡り歩く力、そして、これが一番厄介なんだけど力を持つ。だが、幸い条件がある。それは乗っ取る対象の心が弱っている時にのみ力を行使することが出来ると言う事だ。例えば夜と出会った時、恐怖のあまり戦意喪失したり、不安感が肥大化するなど生命の心が乱れた時を狙ってくる。乗っ取られたら最後、夜の軍団の仲間入りという訳……だから、異世界の住人達も夜に怯え始めてきているのだ」



「でも、異世界には神が居るんだろ? そいつらでどうにかならないのか?」



「あははっ! 良い着眼点だね! 勿論、世界は抗っている。でも、それで問題が解決できていたら君にこんな話なんてしてないさ」



 アニマは俺の言動を笑っていたが、その後の顔に少しだけ哀しさが秘められた表情を俺は見てしまった。



 今回のアニマの話を聞いて、俺の中でも少し引っかかったことがあった。



 その心の引っかかりをアニマに伝えようとした時、天から眩しいほどの光が降り注いできた。



 どうやら覚醒の時間の様だ。



「時間みたいだね。じゃあ、またお話しようね!」



 まだ話を聞いて居たかったが、続きはまた今度。



 覚醒世界に意識が戻るために、身体が投下していく。



 俺を見送るアニマの顔は前よりも笑顔だった。

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