第14話 シークレットボス 夜叉姫戦 

 Adamが認識した敵の名は夜叉姫。



 夜叉姫は2つの刀を持ち、俺の方へゆっくり歩み寄ってくる。



 彼女のオーラに圧倒され、彼女を見ながら俺の足は自然と後退していた。



 殺気と怨念が入り待ちたような黒と赤の濁り混じったそのオーラはまるで血を想起させるものであった。



 先に仕掛けたのは夜叉姫だった。



 瞬時に距離を詰めてくると二本の日本刀を俺に向けて同時に振り下ろしてくる。



 1本目の刀を持っていた武器で弾き、2本目の刀の攻撃を紙一重で避ける。



 レベルが高い俺ならわかる。こいつ……動きが速い!



 攻撃速度がこれまで奴らと比較にならないほど速く、俺の速さだけ見れば俺と互角に戦えるほどである。


 

 夜叉姫は攻撃の手を緩めることはない。



 二刀流の彼女は舞を踊るかの如き剣さばきで素早い連続攻撃を行ってきた。



 これほどにまでレベルを上げたというのに俺の今俺がやれることは相手の攻撃を受け流すか、回避に専念することだけであった。



(少しでも彼女に隙ができれば良いのだが……そうだ!!)



 俺はすぐさま距離をとる。



「【毒霧】!!」



【毒霧】はグール・キングを倒した際に得た武器を装備することで使えるスキルだ。



 スキルを発動すると持っている短剣から紫色のガスが放出され、瞬く間に部屋中に充満した。



 俺の“知”のステータスなら、この毒が効けば即死級の毒属性攻撃、例え耐性があったとしても何かしらの足止めになる事を願った。



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 夜叉姫に毒属性は効果がありません。

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 しかし、Adamが俺に見せたメッセージによって俺の算段は外れ他ことに気がつく。



「無効!? まじか!?」



 動揺し、少しだけ見せた隙を夜叉姫は逃さなかった。夜叉の鋭い一閃が俺の右腕を掠る。



「痛ぇ!?」



 掠った右腕から感じたことのない痛みが身体に広がっていく。



 そして、生まれた一瞬の隙を夜叉姫は逃さず、俺の腹へと向けて回し蹴りをかました。



 俺は吹き飛ばされ壁にめり込んだ。



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 夜叉姫の【防御貫通】によりダメージを軽減に失敗しました。

 HP:99/12985 MP:11145/11145

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 倒れた俺の視界には赤い字で書かれた残りHPが表示された。



 残りHPはあと僅か……



 ははは……陽キャ達に馬鹿にされて……1年寝込んだらレベルが上がって、勝手に最強になったと思い込んでた。



 俺は早くも天狗になっていたんだ。



 でも現実は俺なんて実はまだまだで、世の中にはやばい奴らが沢山いる。その一部が今目の前に居て、殺されようとしている。



 井の中の蛙……表すならその言葉が一番俺に適している。



 強くなった気でいたんだ……でも、俺はまだ強くない……

 


 それに合わせて葛嶋のあざ笑う悪魔のような顔が横から割り込んできた。



 俺はこれまでのことを振り返り、心の奥底から沸々と怒りが湧き上がってきた。



 葛嶋のような屑が好き勝手やれるのも……



 俺が……俺が弱いからだ……



 ここで死んだら……葛嶋の思う壺なんだ……だから、俺はここで生きなきゃいけないんだ!!



 もっと強く……



 その時、俺の頭の中で堪忍袋の尾がブチギレた音がした。



 もっと強く、もっと強く……



「もう、頭に来た」



 俺はゆっくりと立ち上がり、静かに佇む夜叉姫に短剣の刃を向けて言い放つ。



 もっと強く、もっと強く、もっと強く……



「手加減は……終わりだ。こっからは本気でいくぜ?」



 もっと強く、もっと強く、もっと強く、もっと強くなるんだ!!



 夜叉姫は俺の挑発的な言葉を聞いたのか駆け出しまた剣を振り下ろしてくる。



 俺それを全て短剣で受け止め、怒りに任せて弾き返した。



 夜叉姫は驚いた様子を見せつつも、今度は俺に先ほどの舞のようなれ連続攻撃を行ってきた。



 しかし、俺の目には夜叉姫の攻撃の軌道がはっきりと見えるようになっていた。



 さっきまで、こいつから感じていた殺気あるオーラに怯えていたから何も見えていなかったのだ。



 でも、今の俺にそんなオーラで恐怖を感じることはなかった。



 俺は全ての攻撃を流れるように交わして、瞬時の隙を見て彼女の懐に入ると円を描くような斬撃で彼女の両腕を切り落とした。



 彼女の腕が宙に舞い、腕から鮮血が吹き出す。



 彼女は落とされた腕を見た後、俺の方を見た。



 その時、俺から出ている怒りにみち溢れたオーラを感じ取ったのか、彼女は後退りをする。



 さっきまでの俺と同じように彼女は俺に恐怖しているのだ。



 今、彼女にとって俺は鬼神よりも恐ろしい存在に見えたに違いない。



 こうなった瞬間、もう誰であろうと目の前の敵に勝つことはできないのである。



「ツ、ツヨキモノ……」



 その時、彼女が初めて言葉を発する。



 すると彼女の両腕はすぐさま再生され、元通りとなった。



 彼女は立ち上がり、ゆっくりと俺の方へとまた歩み寄ってくる。



 俺は武器を構える。



 しかし、彼女は途中で止まると急にしゃがみ込んで跪いたのだった。


 

 同時にAdamが反応を見せた。


 

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 ボスが降参しました。

 これにより挑戦者の勝利となります。

 シークレットボスに勝利した為、以下の報酬を獲得。


 ・夜叉ノ御面

 ・妖刀・宗近

 ・妖刀・鬼丸

 ・霊刀・鬼柴田

 ・HP&MP全回復

 ・称号【夜叉ノ花婿】を獲得

 →『“鬼神”夜叉姫』を従者にできる様になる。

  夜叉姫専用スキルをSPを消費して取得できる様になる。

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 この画面が視界に入って少し経って、ようやく俺は少しだけ落ち着きを取り戻してきた。



 夜叉姫は跪いたまま、まるで石像のようにピクリとも動かない。



 思ったような形ではなかったが、俺は見事シークレットボスに勝利したのだった。

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