【設計図 No.14】つぐみの成長

攻撃を仕掛けたのは魔獣の方だった。

丸太のような太腕が、つぐみに向かって振り下ろされる。


──ガンッ!


大きな火花が散り、鈍い衝撃音が洞窟に反響する。足元の床は大きく陥没し、壁にはクモの巣状の亀裂が広がった。


「くっ……!」


つぐみは剣で受け止め、その反動で後方へ跳ね飛ばされる。体勢を立て直し、再び剣を構えた。


──あいつには負けない。絶対に。


その確信には理由がある。


目を閉じ、剣を握りしめる。意識を研ぎ澄まし、この空間だけに五感を集中させた。


微かな輝きが柄から走る。それは視覚でも聴覚でもなく、心で感じる光。

瞬きする間にも、その光は強まり、つぐみの全身を包み込む。


「……っ!」


目を開くと、世界は変わっていた。

髪は黒のポニーテールに赤い稲妻が走り、瞳は太陽のように眩しい橙色に燃えていた。


魔獣が咆哮とともに拳を振り下ろす。地を抉る軌道。確実に命を奪う一撃。

だが、つぐみは真正面から剣を突き出した。


──ドンッ!


衝撃が空間を裂く。しかし、押し負けたのは巨体の方だった。

巨躯がよろめく。つぐみはその隙を逃さず踏み込み、剣を振り抜いた。


「……倒す!」


脳裏に焼き付いた言葉と共に、剣先から烈火の幻影が迸る。

空気が燃え上がり、彼女の背からは太陽のフレアのような光が噴き上がった。


刃は炎を纏い、魔獣の装甲を紙のように焼き斬る。

そして──


「はああああっ!」


豆腐を裂くかのごとく、魔獣は頭から真っ二つに両断された。

ガガガガッ、と耳障りな機械音を立て、巨体は崩れ落ちていく。


つぐみは剣を見下ろす。光は収まり、髪も瞳も元の姿へ戻っていた。


「……私でも、倒せるんだ」


残されたのは大量の鉄塊だけだった。


「依頼品じゃないけど……まあ、いいか」


そう呟いて荷物袋に詰め込み、出口へ向かう。胸には確かな自信が宿っていた。


◇ ◇ ◇


ダンジョンを出たつぐみはスマホを確認する。

そこには未読の通知が三件。


[こころん: 急遽、16:30にギルド集合]

[ゆず: 了解]

[梓: はい]


現在時刻は15:30。ここからギルドまでは片道30分。


「……マジで? ちょっと待って!」


人生で初めて「冷や汗」と「普通の汗」を同時に流しながら、ギルドへ駆け出した。


◇ ◇ ◇


ギルドはざわめきに包まれていた。

和気藹々とした雰囲気はなく、冒険者たちの瞳は皆ぎらついている。


「遅い! 五分遅刻よ!」


席に着いた瞬間、こころに叱られる。


「ごめんなさい……」


言い訳は胸の中だけにしまった。


「落ち着いてください。早く本題に移りましょう」

「そうだな。今日は何の要件だ?」


皆の視線を集め、こころは一枚の紙を取り出した。


──《冒険者求む!溢れる魔獣の一斉討伐!》


緊急依頼書。街を守るため、冒険者が総出で臨む大規模討伐戦。


こころは紙を高々と掲げ、笑みを浮かべた。


「――私たちパーティの初陣、これにしましょう!」


その言葉に、つぐみは思わず手を伸ばし、彼女の手に重ねる。

ゆずりは、梓も続く。


四人の手が重なり合った瞬間、心臓が熱く脈打った。


つぐみは悟る。

これが、本当の「冒険の始まり」だと。

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