第23話 約束の、タピオカ
「この前の約束、これから行きませんか?」
不動産屋を出て駅へ向かう途中で、来栖さんがそう提案してくれた。
「そうだな、せっかく出てきたし。でもその前にご飯食べない? もうお昼過ぎだしさ」
「賛成!」
来栖さんが元気よく手を上げる。その無邪気な笑顔に俺も自然と笑顔になる。
「何が食べたいですか?」
「んー、ラーメ……」
いつもの調子で来栖さんが聞いてくれたので、反射的に食べたい物を言おうとしてしまったが、今日は外食だ。
来栖さんくらいの女子高生ならこういう時はパンケーキやアサイー? みたいな物を食べに行きたいかもしれない。
「ぱ、パンケーキ?」
俺の提案を聞いた来栖さんがクスリと笑った。
「お昼ご飯は甘いのよりもしょっぱい方がいいなと思うんです。ラーメンとかどうですか?」
どうやら、来栖さんの方が一枚上手らしい。
「そうだな。電車の中で良さそうな店探そうか」
食後にタピオカの店に寄れるように、俺と来栖さんはスマホで目的地近くの良さそうなラーメンやを探しつつ移動をした。
◇◆
2人で探したラーメン屋はお昼時からずれているおかげかすぐに座ることができた。
「山田さん慣れてましたね」
注文を終えた後、来栖さんにそう言われる。
『麺固め、味玉とメンマトッピングで』
ラーメンの後に麺の硬さやトッピングを頼んだのが慣れているように見えたようだ。
実際、会社員時代は1人でラーメン屋へ行くことは多かったし、自分の好みは把握している。
「まあ、ラーメンはよく食べてたからね。最近は来栖さんの手料理が美味しいから行かないけど」
「ふふ、ありがとうございます! 私も何かトッピングすればよかったかな?」
俺の言葉に、来栖さんが嬉しそうに微笑んだ。
慣れてる理由を説明しただけなのにお礼を言われてしまい、俺は「うん」としか返せなかった。
注文したラーメンが届き、2人で一緒に手を合わせる。
「そうだ、味玉一つあげる。トッピング体験! この黄身具合は絶対美味しいから」
そう言って、俺は半分に切られている煮卵を一つ来栖さんの器へ移した。
「ありがとうございます! 最後に取っておきますね」
「自分の好きなタイミングで食べるといいよ」
大事そうに器の端に味玉を移動させる来栖さんを見て俺は苦笑する。
「そうだ。引っ越しと今の家を解約する話をお母さんにしに行かないとね」
ラーメンを食べながら俺は大事な事を忘れていたと思いそう言った。
「お母さんには私がメッセージ入れますし、今度行った時にちゃんと話すから大丈夫ですよ」
来栖さんはそう言うが、そんなわけには行かないだろう。
「ダメだよ。大事な娘さんをお預かりするのに!」
俺の言葉を聞いて「律儀ですね」と来栖さんが微笑んだ。
律儀とかではなく当然だと思うのだが、その辺り来栖さんはまだ子供のようだ。
「とにかく、次の時俺も一緒に行くから」
「分かりました。よろしくお願いします!」
話してばかりだと伸びてしまうので、話はそれくらいにして俺達はラーメンに集中するのだった。
◇◆
食事を終えた後は約束していたタピオカの店に向かう。
来栖さんに案内されて到着すると、やはり並んでいる人は若い子ばかりで、俺には場違いな気がする。
「やっぱり俺浮いてない?」
「大丈夫ですよ、行きましょう」
来栖さんに強引に手を引かれ、俺はタピオカの店の列に並ぶ。
意外と早く順番が回ってきて、俺はメニューにの多さにどれを頼んでいいか戸惑った。
とりあえず、この前来栖さんが美味しいと言っていた千手観音を探してみるが、載っていない。
「どれになさいますか?」
店員さんに聞かれて、俺は来栖さんに助けを求める事にする。
「来栖さんがこの前美味しいって言ってたやつどってどれ?」
「えっと、この……」
来栖さんがメニューを探して、少し頬を赤く染めた。
「鉄観音烏龍ミルクティーと抹茶ミルク一つずつお願いします!」
注文を終えた後、来栖さんが恥ずかしそうに頬を染めながら「千手観音じゃありませんでした」と小声で伝えてくれる。
その照れた様子を見て、俺は可愛いなと思い頬が緩んだ。
2人でタピオカを飲みながら、家に帰るため駅へと歩く。
「引越し、いつにしよっか? 業者に頼まないといけないし」
「んー、正直生活のものって山田さんの家に全部揃ってますから、業者に頼むよりベッド買うだけの方が安いかも?」
来栖さんの思い切りの良さに俺は苦笑する。
家電は古いし俺の家で大きいのを買ったから要らないそうだ。
「あ、山田さん抹茶ミルクも飲みます? 美味しいですよ?」
なんの脈絡もなく、唐突に差し出されたカップに俺は戸惑った。
「ちょっとお腹いっぱいになっちゃって」
そう言って来栖さんは笑うが、最近の子はそういうことは気にしないのだろうか?
俺が戸惑いながら、ストローを見ていると、来栖さんはハッとした様子でカップを自分の方へ戻した。
「やっぱり無しです!」
頬を染める来栖さんに俺は苦笑した。俺が何を考えているか分かって意識してしまったのかもしれない。
「そうだな。俺も自分の分でお腹いっぱいだよ」
俺はそう返事をして自分の鉄観音烏龍ミルクティーを飲む。
おっさんのクセに何考えてるんだと思われているだろうか。
そんな事を考えながら、来栖さんと並んで駅まで歩いたのだった。
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