【短編連載】転校生は、私のおばあちゃん
なぐもん
第1話 転校生は、私のおばあちゃん
ユリちゃんは、クラスの人気者だ。
転校してきてまだ一週間なのに、すでに女子のあこがれ、男子の注目の的。
「ユリちゃん、あのTikTok知ってる?」「ヘアピンかわいい~」
「え、動画編集やってんの? 教えて!」
話題が尽きない。いつも笑顔で、ノリもよくて、ちょっと不思議で。
……でも私だけは、笑えない。
(お願いだから、目立たないで……!)
なぜなら——
(そのユリちゃんって、私のおばあちゃんなの!!)
***
あの日、私は学校から帰宅して、まずこう思った。
「誰この若い子」って。
次に「え、制服着てる?」ってなって。
最後に、やっと理解した。
「おばあちゃん!?」
「びっくりした? 若返っちゃった♡」
紅茶を飲みながらウィンクしてきたのは、正真正銘、私の祖母・百合(70)。
なのに、目の前の彼女は17、18歳くらいにしか見えなかった。
しかもその制服、うちの学校のじゃん!
「なんでそんな格好してるの……ていうか、なんで若返ってるの!?」
「神社でお願い事してたのよ。元気に生きられますようにって!そしたらこうなっちゃった」
祖母は少し照れながら言葉を続けた。
「神社でお願い事してたのよ。『元気に生きられますように』って!……そしたら、なんか若返っちゃったの」
そんなこと、さらっと言う??
理由は本人もよくわかってないらしく、
「せっかくだから高校生をやり直したい」と言い出し、
しかも、うちのクラスに“いとこ”として転校してくることになった。
父も母も、毎朝早く出勤してるから気づいていない。
信じられないけど、いま私のクラスには「おばあちゃん」がいる。
***
今日のお昼休み。
私はお弁当をつつきながら、こっそり周囲を観察していた。
「へえ、あの映画知ってるんだ? 朝倉くん、センスいいね」
ユリちゃんの声が聞こえる。
「え、観たことあるの?」「マジで? 意外~!」
クラスメイトたちが、朝倉くんを囲んで盛り上がっている。
その中心に、しっかりとユリちゃんがいる。
(また朝倉くんと話してる……)
私の片思い相手、朝倉蒼真くん。
陽気で人当たりも良く、優しい人気者だ。
見た目もかっこいいけど、そういう飾らないところが好きだった。
入学式の日、私は高校デビューを狙っていた。
本当は地味で人見知りだけど、ちょっとだけ頑張ってメイクして、
「高校からは変わるんだ!」って勇気を出した。……のに。
「し、白石凛です……趣味は……えっと……」
緊張で何も出てこなかった。教室が静まりかけたそのとき、
「好きなYouTuberとかいる?」
声をかけてくれたのが、朝倉くんだった。
その軽さに、教室の空気が和らいだ。
私もなんとか「し、知ってる」と返せた。
あの時の、あのひとことで、私は朝倉くんを好きになった。
***
そして今日。
朝倉くんは、私の祖母と映画トークで盛り上がっている。
「おすすめされた映画、観てみようかな~」なんて言ってるユリちゃんに、
朝倉くんは「感想、また聞かせてよ」と笑っていた。
(うわああああああ!!)
どうしてこうなった!?
いや、わかってるけど!!
祖母が若返ってクラスに現れて、しかも私の好きな人といい感じになるとか、
そんなの、コメディじゃないと許されない展開だ。
***
放課後、帰宅するとリビングに制服姿のユリちゃんがいた。
「おかえり〜、凛ちゃん♡ ねえ、今日のお弁当美味しかったよね」
「その制服脱いで……! 制服のまま紅茶飲まないで……!」
頭を抱える私を見て、ユリちゃんはまたニコニコ笑っていた。
***
——祖母が若返ってクラスメイトになった。
それだけでも充分パニックなのに、片思いの相手と仲良くなるなんて。
私は今日も、頭を抱えてこう思う。
(お願いだから……ちょっとでいいから、空気読んで……!)
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