第28話 世界の病と、真の叡智

『緑の楽園』を後にしたリアムたちは、アカデミーへ戻る道中も、心の中は《古の探求者》の最後の言葉がこだましていた。

「…既に、この森の歪みは、世界の根源へと達した…! これで…『古の書』の封印は…」

彼らが森の歪みを治すことに集中している間に、探求者たちは別の目的を達成しようとしていた。その事実に、ライナスは苛立ちを隠せない。

「くそっ…! 僕たちはまんまと、彼らの策略にはまったのか…! もっと早く、この森の歪みと《古の書》の封印が繋がっていることに気づいていれば…」

ライナスの悔しがる声に、リアムは静かに首を振る。

「ライナス、自分を責めるな。僕たちは、この森を救ったんだ。それに、彼らの目的はまだ達成されていない」

リアムの言葉に、ライナスは顔を上げる。

「…どうして、そう言い切れる?」

「直感だ…いや、違う。僕の胸の中にある《古の書》の真髄が、そう告げている」

リアムは、自分の胸に手を当てる。そこには、絶えず光を放つ魔力の核があった。それは、彼が《古の書》の扉を開いたときに手に入れた、世界の理を理解するための『鍵』のようなものだった。

「ライナス、この世界の歪みは、僕たちが今まで見てきた炉心の暴走や、森の石化だけじゃない。もっと広範囲に、そして深く、世界全体を蝕んでいる…」

リアムの言葉は、まるでどこか遠い場所から聞こえてくるようだった。彼の意識は、魔力の核を通じて、この世界そのものと繋がっているような感覚に陥っていた。

「…どういうことだ?」

ライナスが、身を乗り出す。

「僕たちが各地の炉心を治してきたのは、世界の病の『症状』を和らげることに過ぎなかった。探求者たちがやろうとしているのは、その病の『根本』を、破壊すること…」

「…病の根本を破壊する…?」

「そうだ。彼らは、世界の病の根本にある『古の書』の封印を解こうとしている。その書が、世界を滅ぼすほどの力を持っていると信じて…」

「…待て、リアム。それは、プロットと違うぞ。いや、僕たちの知っている情報と違う。古の書は、世界を治すための鍵じゃないのか?」

ティナが、不安げな表情で尋ねる。

「…ああ。僕も、そう思っていた。でも、探求者たちの言っていた言葉が、ずっと頭から離れなかったんだ。彼らは、『古の書』を、世界の『病』だと考えている」

リアムは、深く息を吐き出す。そして、静かに話し始めた。

「この世界は、遠い昔、古代の文明が『古の書』の力を使って創り出したものだ。しかし、その力は強大すぎて、制御しきれなかった。世界は不安定になり、崩壊の危機に瀕した。そこで、古代の魔術師たちは、世界を安定させるために、その力を各地の炉心に分散させ、封印した…」

ライナスの目が、驚きに見開かれる。

「…まさか、僕たちが炉心を治すたびに、封印を解いていたとでも言うのか…?」

「いや、違う。僕たちが炉心でやったのは、暴走した魔力を浄化することだった。つまり、病の『症状』を治していた。でも、探求者たちは違う。彼らは、その症状を悪化させることで、病の『根本』である『古の書』の封印を解こうとしている」

リアムの言葉に、二人は息をのむ。そして、ライナスが、リアムの言葉を補足するように言った。

「…つまり、彼らが森の歪みを悪化させたのは、『古の書』の封印を弱めるためだった。僕たちが、それを浄化したことで、彼らの計画は一時的に失敗した…」

「ああ。でも、彼らの目的は、まだ終わっていない。彼らは、世界のどこかにある、封印の核を狙っている。その核を破壊すれば、『古の書』の封印は完全に解かれ、世界は崩壊してしまう…」

リアムの言葉は、まるでこの世界の未来を予言しているかのようだった。しかし、彼の表情に、絶望はなかった。

「…僕たちは、その封印の核を見つけ出し、守らなければならない。そして、探求者たちを止めなければならない」

「でも、どうやって? 僕たちは、その場所がどこにあるのか、知らない…」

ティナの不安げな言葉に、リアムは静かに微笑む。

「知っているよ。僕の胸の中にある、この『鍵』が教えてくれている。…世界の中心。最も古く、最も聖なる場所…」

リアムの言葉に、ライナスはハッと息をのむ。

「…まさか…《聖なる都》か…?」

「ああ。そここそが、世界の中心であり、『古の書』が眠る場所だ。さあ、行こう。僕たちの本当の冒険は、今から始まる」

リアムは、力強くそう言って、新たな旅路へと足を踏み出す。彼の胸には、『古の書』の真髄が、世界を救うための真の叡智として、輝きを放っていた。






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