第2話 突然のスタンピード
朝、早く起きた僕は早速お目当ての家を買いに不動産ギルドに向かった。この不動産ギルドは王都の中でも上位に位置しているギルドで、百を超える物件を扱っている。僕が買う家も特段、人気があるわけではないが、割と好条件なのでいつ売れるか分からない。僕は素早く契約を結び、早速そこに行ってみることにした。
王都から少し離れたひっそりとした森の中に佇む一軒家。周りから聞こえてくるのは木々のざわめきや葉っぱのかすれる音等、いかにも自然を感じられる場所。静かに暮らしたい僕にとって、ものすごく立地のいい所だった。本当は、今からでもここに住みたいが昨日の夜、引っ越しの準備をしないまま寝てしまった。なので、大急ぎで家に帰っていき準備を終わらせることにした。
そして、翌日... すべての準備(引っ越し等も含めて) が終わり新しい生活が始まった。僕がまず最初に取り掛かったのは、畑を耕すこと。自分で野菜や果物などを作って生活する、自給自足の生活には憧れを抱いていた。
手際よく畑を耕していると不意に、モンスターの気配を察知した。通常なら、モンスターはダンジョンにしか現れないのだが、スタンピードが起こったときや偶然ダンジョンから出られてしまうモンスターも存在する。
手に持っていた農具を置き、代わりに腰に携えていたリボルバーを取り出す。
『
それがこのリボルバーの名前。放たれた弾丸は相手に当たった瞬間、消滅する。その代わり、命中した相手には死のカウントが迫る。相手のランクが低ければ低いほどカウントは、短くなる。また、命中した数が多ければ多いほど死のカウントもさらに短くなるという代物。
零は、片手にその銃を持ち素早く標準を定めて撃つ。そのまま間髪入れずに2発速射。1秒もたたないうちにモンスターの体が塵となって消えた。 ここら辺のモンスターはそんなに強くないため、直ぐに討伐することができる。偶にCランクのモンスターが現れるがそれくらい僕にとってはどうということもない。
その時、僕は大事なことを思い出した。それは、
「僕、冒険者辞めてないじゃん...」
元々家を買ったら冒険者を辞めようとしていた。しかし、いざ家に住むとなると興奮が収まらず、そのことが頭からすっかり抜け落ちていたのだ。
「よしっ、今から辞表を出しに行こう!」
そうして、ダンジョン協会に足を運ぼうとしたときだった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・零さんっ!」
ふと声がしたのでその方向に体を向けると、昔、ギルドで対応してくれていた馴染みの受付嬢の人が何やら焦った様子で走ってきた。彼女は確か今、地方のギルドに派遣されていたはずなんだけど、どうしてここに?
「えっと・・・どうしたんですか?」
「じ、実は今、スタンピードが王都の北側の城壁付近で発生していて、それを抑える為に、支部長が零さんを推薦していて・・・」
「何で、僕に推薦が・・・?」
スタンピードとは、通常通りであれば高ランク冒険者、又は高ランクパーティーが対処に当たる。スタンピードは、通常のモンスターよりも強い個体が出現することは珍しくない。そのために高ランクの冒険者達が駆り出されるのだが・・・
「実は、先日発見された未探のダンジョンの調査隊として送り出されてしまい、今現在、Aランクの冒険者が1人と、Bランクの冒険者が5人という少数人数しかいなくて・・・このままだと、城壁を破られて王都に攻め込まれてまうかもしれません。そうなってしまったら、ほとんどの中枢機能が停止して最悪の場合、滅亡も・・・」
あわあわと、彼女はそんな言葉を呟きながら自分の言葉で顔が真っ青になっていく。
「な、るほど・・・」
「はい、そこで白羽の矢が立ったのが、零さんだったんです。支部長が、零なら鎮圧できる!とお墨付きをいただいているので、お願いします! スタンピードを沈静化させるために協力して下さいっ!」
脳裏にあの支部長の顔が思い出される。
(お前なら余裕だろっていう表情を浮かべてるのが容易に想像できるな・・・)
だけど、これで何で彼女がここにいるのかが分かった。おそらく、支部長は僕と親しい彼女にスタンピードを鎮圧するよう頼み込んだのだろう。僕と親しい彼女なら快く引き受けてくれと踏んで。
正直、彼女にこんな事を頼んだ支部長に対する怒りと、掌の上で踊らされている気分でムカつくが国が滅びれば元も子もない。はぁ、とためいきをついく。
「いいですよ、僕も王都に用事があったので。」
「本当ですかっ!?」
彼女は、助けられた子犬みたいに目をぱぁっ、とキラキラさせる。
「はい、なので早く行きましょうか。何かあってからでは遅いですし。」
「わかりましたっ。では、早速行きましょう!」
「地方に戻らなくていいんですか?」
「はい、王都まで連れてくるように承っているので…」
あはは、と苦笑いをする受付嬢を連れて一緒に王都までの道を全速力で駆け抜け、 東側の城壁までやってきた。
「北側でしたよね?確か。」
「はい、ですが、早く急いだほうがいいかもしれません。かれこれ、1時間くらおはかかっているのでもしかしたら・・・」
「分かった。僕はこれから討伐に向かうから、支部長に伝えといてね。じゃあ、また。」
「分かりました。ご武運を!」
門をくぐって一気に北側の城壁付近まで足を運ぶ。
「うわ…すごいな、これは…」
思わず声を漏らしてしまう。なにせ、目の前に広がるのは数千というおびただしい数のモンスター。その群れが一斉に攻めて来ていた。大半のモンスターは、C,Dランクだが、中には、A、Bランクといったモンスターもいる。おそらく、群れをなして攻め込んできたため、リーダー格なのだろうな、と推測する。
そして、それを食い止めているのが城壁付近で奮闘している冒険者と騎士団の人達。
大半のモンスターは倒せているが、リーダー格のモンスターにはまだまだ距離があるため、一進一退の攻防が続いている。
このままだと、城壁が破られるのも時間の問題だろう。しかし、僕もまともに戦っていたら時間が足りない。そう考えた僕は虚空に手を伸ばす。
『
片腕に、まるで大砲のような見た目をしている銃が装着される。紫色の銃身と、片側に、赤色、もう片方に金色の装飾が施されている。
一発撃つのに少し時間はかかるが、威力、範囲は共に申し分なく、現時点で持っている武器の中で、2番目の破壊力を持っている。
専用の弾丸を装填し、魔力を込める。魔力が最大まで溜まったら、モンスターの群れの中心に向けて、発砲。
その瞬間、地面は揺れ、空気は震える。さながら、幾つもの大砲が一斉に打ち鳴らされたかのように巨大なクレーターが出来てしまう。結構大きなクレーターが出来てしまったが、緊急時なので、許してくれるだろう。
しかし、まだ終わったわけではない。大半のモンスターは、消し飛んだが、まだ、200体程のモンスターが残っている。
対処しようと思い、
「うぉぉぉぉ!!俺に続けぇぇぇ!!」
雄叫びを上げながらモンスター群に突っ込んでいくAランクの冒険者。それに続いて突っ込んでいく、他の冒険者の姿が見える。あの調子なら、僕が手を出さなくても後は、上手くやってくれるだろう。
「さて、とりあえず片付いたようなものだし、ダンジョン協会に行こうかな…」
空はまだ、夕暮れに少し染まっているが僕は気にせず、協会へと足を運ぶのだった。
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