チェーンの外し方

久保隆@2分で読める怪談ライター

第1話 チェーンの外し方

夜中2時。微かな、しかしやけに耳につくインターホンが鳴った。


モニターには、誰も映っていない。

気のせいかと思ったが、数分後、執拗に、まるで催促するようにまた鳴った。


今度は、明かりに照らされて、ドアの前に「靴だけ」が見えた。

それは、まるで誰かがそこに立っているかのように、きっちりと揃えられた一足の革靴だった。しかし、それだけだ。そこにあるはずの足も、脚も、人影も、何もない。

怖くなって、チェーンをかけたままドアを開けると、そこにはやはり靴だけが置かれていた。


──その瞬間、ガチャン、と鈍い音が響いた。視線を向けると、たしかに掛けたはずのドアチェーンが、まるで内側から弾かれたかのように、ゆっくりと、しかし確実に外れていくのが見えた。誰も触れていないはずなのに。心臓が警鐘のように鳴り響く。逃げたい。しかし、足は縫い付けられたかのように動かない。

朝になって管理会社に相談すると、電話口の向こうから、妙に感情のこもらない声が返ってきた。


「ああ、あの部屋ですか……。実は、前の住人もそれで失踪したんですよ。チェーン、かけてたのにって」


その言葉が、私の全身を凍りつかせた。そして、私もまた、その部屋の次の『失踪者』になるのだろうか。


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チェーンの外し方 久保隆@2分で読める怪談ライター @tk_kubo0628

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