最終話 聖獣使いのアメリア

イヴァンとのデートから、しばらくの時が流れた。


私はいつも通り聖獣舎で聖獣たちの管理をしており、今は軍事訓練中の聖獣たちの動向を見守っている。


「”グレグビー、レチュン、職員の言うこときちんと聞くんだよ。”」

「………。」

「がう!」


そっぽを向いているグレグビーとは反対に、レチュンは大きく口を開けて返事をした。あれから何度か私が訓練をした甲斐もあり、グレグビーは一般職員にも扱えるほど落ち着いた。


(それでも威嚇してくるのに変わりはないんだけど。)


扱えはするけど、威嚇はしてくる。グレグビーはそんな状態が続いているため、これからも訓練が必要になると思われる。


「いつ見ても圧巻ですね、アメリアの聖獣さばきは。」

「あ、ルイス。」


上空を飛ぶ訓練中の聖獣たちを眺めていたら、いつの間にか救急箱を持ったルイスが隣に立っていた。手を額に当てながら日除けを作り、空を2人で眺める。


「…ん?アメリア、左腕に擦り傷ができていますよ。」

「どこ?あれ?本当だ。天竜の鱗に強く当たったかな。」


ルイスに言われて見てみると、確かに左腕にかすり傷ができていた。皮が剥け、少し血が滲んでいる。


「僕がタイミングよく救急箱を持っていて良かったですね!」

「本当に!ちょっと手当頼んでもいいかな。角度的に自分だとやりにくくて。」

「もちろんそのつもりです。ちょっと失礼しますね。」


そう言うとルイスは、テキパキと患部に消毒と手当を施していく。


「ありがとうルイス。」

「いえいえ、これくらいお安い御用です。」


ルイスは地面にしゃがみ、救急箱の中身を片付けている。私はルイスの脳天に話しかけるように声を掛ける。


「ルイスって本当に面倒見いいよね。ルイスには昔からよく助けてもらっているし。」

「どうしたんですか?おだてても何も出ませんよ?」

「ルイスと結婚できる人は幸せ者だと思う。」

「え!?」


ルイスは大きな声を上げると、びっくりしたまま固まってしまった。しまった、今の私の発言はセクハラになるのではないだろうか。


「あ、いやごめんね、深い意味はなくて。いや深い意味があってもダメだとは思うけど。」

「…はあ。」


ルイスは1つため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。怒ってはいないけど、呆れているようだった。


「気にしていませんよ、大丈夫です。貴女は昔からそういう人ですから。」

「う、うん?そうか。」


私は色々な感情をごまかすように、上空の訓練の様子に目を向けた。ルイスは隣で小さな声で何か言っているけど、彼の声は風に掻き消されていった。



◇◇◇


その後私は、聖獣舎に併設されている小屋で、1人資料をまとめる作業をしていた。


「ポチもすっかりここに馴染んだなあ…。」


ポチはここに来た当初、場所見知りをしていたのか部屋の隅に隠れるように動かなかった。他の天狼に対して顔見知りを発揮してはいなかったため、しばらく複数頭がいる天狼の小屋に移動させて様子を見ていた。どうやら1頭でいるのが寂しかっただけなのか、他の個体と同じ部屋になれたことで場所見知りらしい仕草も見られなくなった。


そして天竜ことベルクトリガンとエングブロムは、何故か仲のいい兄弟のような様子を見せた。別種の天竜のはずだけど、この2種は波長が合うのか喧嘩をする素振りが全くない。もちろん個体差も考慮する必要があるけど、今のところその心配はなさそうである。

とは言うものの、別種である以上同じ小屋で管理をするのは色々とこちらに不都合があるため、彼ら彼女らが顔を合わせるのは聖獣を使用した軍事訓練の時だけになる。


かつてキルベキア王国で分かれた同僚のルイスも、今では職場に馴染んで以前のように働いているとは本人談。毎日楽しそうに仕事をしている。



「ここにいたか、アメリア。」


声のする方を見てみると、そこにはイヴァンがいた。私は机の上を整頓しながら挨拶をする。そんな私に構う様子もなく、イヴァンはこちらに近づいてきた。


「少し時間ができたんだ。一緒に休憩しないか?」

「構いませんよ。少し待ってくださいね、片付けてしまうので。」


私は机の上の資料をまとめ、棚に戻す。引き出しに筆記用具をしまい、一部の棚に鍵をかける。


「…アメリア。」

「どうしました?」

「急いで答えろとは言わない。だけど俺のプロポーズの件、しっかりと考えてほしいとは思う。」


私は本を手にしたまま、彼の顔を見て固まる。ゆっくりと目の前のブックスタンドに本を戻し、イヴァンの元に歩み寄る。


そのままイヴァンの胸ぐらを掴み、彼の口に自分の唇を合わせる。


「………。」


しばらく口付けをし、ゆっくりと彼の顔から離れる。

イヴァンは何が起きたのか分からないといった表情でこちらを見ている。目を大きく見開き、少し屈んだ姿勢のまま固まっている。


「…さあ、休憩にしましょう!私、小腹がすきました!」


私は何事もなかったかのように、イヴァンに話しかける。イヴァンは大きな声で笑い声を上げると、『ああ!』と言って私の後ろから着いて来る。



一度はどうなるかと思った私の人生。

私は、アメリア・オルコットは、今新たな人生を歩んでいます。



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⚫︎あとがき⚫︎


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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新作の執筆も進めているので、ご興味のある方は是非見に来ていただけますと幸いです。

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聖獣使い唯一の末裔である私は追放されたので、命の恩人の牧場に尽力します。 雪丸 @siantyuu

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