第4話 皇女の憂鬱(1) エリシア

 エリシアは、皇女の前を歩いていた。起動エレベータのドアが開き、冷やりとした風が流れた。エリシアと皇女は、ベルガモットの香りに包まれた。――柑橘の爽やかさに、スイートピーとムスクが溶け合う。


「姫さま……ここでお待ちを」


 エリシアが言うと、セラフィナ皇女は立ちどまった。


 天井は高く、ホールは広大だった。柔らかな光が、ステンドグラスを通り、赤と紫の影を落としていた。エレベータの前には、カーペットの道があった。道の先には、クリスタルの階段があり、ホールへ続く。大理石のホールを抜けると、エントランスへ繋がる。


「まずは、階段まで参りましょう」


 エリシアは、皇女の手を引いてエレベーターから出た。


 階段の手摺は黄金で、金と銀の光を放っていた。階段を降りると、正面にガラスの巨壁が見えた。壁は、ホールと外界を隔てながら、別世界の景観を映していた。空と雲、木々と建物……ヴァルミエールの湾岸都市は、生者の息吹と黄金の扉であり、太陽の世界を暗示していた……。


「また、ここでお待ちをお願いします」


 エリシアはフロアに立ち、ロビーを見渡した。一般客はおらず、僅かな警備員とスタッフが見えた。ロビーに立つ警備員は、赤い制服を着ていた。不動の姿勢を崩さず、命を凍らせて、立ちつくしていた。全ての空間が静謐を称え……美しい音楽を奏でながら、高貴な方を迎えようと、静かに待ち受けていた。――ハルモニア・コンセンサス(人類調和会議)の会場。


「では姫様。下に参りましょうか!」


 エリシアは、セラフィナ皇女に声を掛けた。


 セラフィナ皇女は、エリシアを見つめた後、目を伏せて頷いた。長い睫毛が憂いを作り、時が止まったように、静寂が満ちた。すっと風がそよぎ、皇女はエリシアに続いて歩きだした。白い制服を着た女性たちが現れた。シトラス・ローズ・ハーブの香りがした。二人が皇女の後ろに立ち、更に二人がその背後に続いた。音もなく、滑るように歩いていた。大理石の床に、靴の音が響いた。高貴な人にのみ、許された特権であった。


エリシアが皇女を振り返ると、


「アイギスは、何故、足音がしないのかしら?」


と皇女が聞いた。すると、4人のアイギスが止まり、目を伏せて腰をかがめた……。


エリシアは、アイギス達を見つめながら、


「浮いてるからですよ」


と答えた。


エリシアは、出口に向き直り、皇女を先導した。


――セラフィナ皇女の足音が消えた……。


「姫様…。ご冗談は、おやめくださいな」


とエリシアが囁いた。皇女の足音が答えた。


 エリシアが会場を出ると、ムッとした空気が顔を撫でた。水と草の匂いが立ち昇り、潮の香りがした。彼女の眼下には広場があった。彼女を中心に半円状に広がっていた。大理石の道が正面から続き、広場の中心を貫いて、二つの噴水の間を通り、向かいの道路まで達していた。広場の外縁には、木々が生い茂り、ベンチが並んでいた。空を見上げると、濃い青のキャンバスに、白い雲が浮いていた。


 エリシアが日陰から出ると、何かが煌めいた……彼女は右手で顔を庇った。目を細めると、ヴァルミエールの中心地……林立する高層ビル群が見えた。


「太陽の反射光……ですね。姫様、ここは眩しゅうございます。偏光グラスをお使いください」


 彼女は、皇女に向かって言うと、


「安全を確保いたします。しばし、お待ちくださいませ」


 と続けた。


 彼女は、右手でイヤリングに触れた。


「ベンチに老人、それと……子連れのご婦人。……ジョギング中の男性が一人」


 エリシアは空を見上げた。柔らかな光と静かに揺れる雲が見えた。


「彼らを、空の旅へご招待して!」


 エリシアが見ていると、複数の白い天使が現れて、人々が空に運ばれていった。――白のアイギスたちだ。


 広場は、静寂を得て、秩序を取り戻した。


 彼女は、右手を肩の高さに挙げた。空間が歪み、虹色の光が広がった。少女が一人、空から降り立ち、砂が舞い上がった。少女は片膝をついて、キラキラと光る塵の中から、エリシアを見上げた。彼女が起き上がると、長い金髪がふわりと広がり、ジャスミンの香りを届けた。瞳は輝いていて、色はアメジストだった……。


「白のアイギス所属――ミナ=レイク少尉が承ります。秘書官殿」


 ミナは、エリシアに駆け寄り、顔を寄せた。エリシアは、少し屈んで少女を覗き込み、空を指さして、言った。


「ミナ! あそこ…見える? ヘリよね? 撃ち落とせるかしら?」


 少女は目を凝らし……頷いた。


「はい……ただ、更に上に……何か飛んでます。あの高さまでは、飛べません」


 少女の言葉を聞いて……エリシアは目を凝らした。


「あら…ほんとね。分かったわ。そっちは、他でやります」


 エリシアが答えると、少女は頷いた。少女の背に光の羽が現れた。彼女は、すぅっと光の尾を引いて……空に舞い上がった。――少女は背を向けて上昇を続けた。


 ミナが水色の空に溶けて……消えたとき、小さな輝きが灯り、ズンという低い振動が大気を震わせた。


 エリシアは光点を見て頷き、イヤリングを押さえて、言った。


「次は……と。指令、個別通信依頼。青のアイギスの輸送部門長……ナディラ=ヴェラストを呼び出して!」


 しばらく待つと、応答があった。


「ナディラです。エリシア秘書官殿」


「ナディラ、要件だけで……申し訳ないのだけれど……起動エレベータ付近の上空、成層圏の辺りを……何か飛んでるわ。これは、貴方の予定にあるの?」


 エリシアが問うと、ナディラが答えた。


「いえ、アイギス側の予定には……無いですね。恐らく、ヴェラリス勢力のカルト教団かと思われます。情報がありまして、『決死隊、ですか……?』らしき部隊が来ていたようです。輸送部門では、私の配下のイシュラに、迎撃機で出撃させています。もう……着くはずです。待ってくださいね……いま確認します」


 ナディラが答えて間もなく、「あ!」と二人の声が揃った。


 エリシアは目を細めて、空を見つめ……ゆっくりと口の端をあげた。


「ナディラ! イシュラに……いいパイロットだって、伝えて欲しい」


「Yes. Ma’am!」


 ナディラは軽快に応え、通信を切った。


 エリシアは、イヤリングから手を放して、広場を見渡した。木々の葉音…鳥の声が聞こえた。彼女が大きく息を吸うと、潮の香りがした。遠くから、ソーセージの焼ける匂いがした。――そろそろ昼休みの時間だ。


 エリシアは、掌を広場に向けて、呟いた。


「……予定の者以外は、休憩していいわ」


 広場から、鳥たちが一斉に飛び立ち、沢山の葉を舞い上げた。鳥たちに交じって、白い影が動くのが見えた。彼女たちは、音もなく散っていった……。


――セラフィナ皇女が小さな欠伸をした。


 エリシアの側で空気が揺れた。七色の輪郭が生じて、少女の形が浮き上がる。光の翼を折り畳んで、ミナがエリシアに駆け寄った。


「どうぞ……。」


 と言ってエリシアの手を取ると、青い包み紙を渡した。


 エリシアが、言葉を紡ぐ間もなく、少女は風の中に溶けて、消えた。――フルーティー・ジャスミン。


 彼女が残り香に気を取られていると、


「いいわね……元本部長は慕われていて」


 と皇女が小さく呟いた。


 エリシアは振り返り、皇女に伝えた。


「お待たせしました……姫様。さあ、お車まで参りましょう」


 セラフィナ皇女は、小さく頷いてエントランスを出た。4人のアイギスが四方を囲み、滑るように従った。


 エリシアは、前方に目を凝らした。広場は陽炎に揺らいでいた。彼女は、僅かに後ろを振り返った後、ゆっくりと皇女の前を歩きだした。


 彼女は、大理石の道を音もなく進んだ。後ろから響く、皇女の足音だけが音楽だった。皇女にあわせるように、鳥のさえずりが聞こえた。


――蒼天の空の下に、群青の水面が広がっていた。


 エリシアは、広場の奥を見つめた。白い道が、陽炎のように揺らいでいた。エリシアが進む大理石の道は、水平に伸びる車道へ繋がり、途絶えていた。ちょうど大理石との交差部分に、黒いリムジンが見えた。リムジンは、後部座席のドアを開け、左を向いて止まっていた。リムジンの側に、青い服に身を包んだ女性が立っていて、エリシアに手を振っていた。エリシアは足早に、リムジンに駆け寄った。


 エリシアは、青い服の女性に言った。


「ナディラ……貴方、ここにいたの?」


 エリシアが聞くと、ナディラは微笑んで答えた。


「はい、おりましたよ、エリシア秘書官殿! 実は、セラフィナ皇女に……駆り出されまして……エストラ新本部長と、来ているんですよ」


「まさか……アイギスの幹部を招集しているの? 皇女は、戦争でもする気かしら……?」


 エリシアが、声を落として言うと、


「違いますよ。エリシア元本部長の壮行会をやるんです。エストラさん、張り切ってましたよ」


 ナディラの話を聞いて、エリシアは口を開けて、何か言おうとした。やがて彼女は諦めて……「ありがとう」とだけ言って、ナディラを見た。


 ナディラは手を挙げて笑うと、リムジンの右から運転席に滑り込んだ。エリシアは、振り返り、指を組んで立ち……皇女を待った。


――神々の祝福が、人の道を歩いて現れた……。


 セラフィナ皇女が歩いていた。――姫は空を見ていた。彼女は、ゆっくりと掌を天に向け、空の吐息に耳を澄ませるように、そっと目を伏せた。雨のしずくを受ける様に……風の羽音に触れる様に。彼女の踵が、カツンと小さく鳴ると、陽炎が立ち昇り、彼女のプラチナの髪を揺らした。


 小さな風が、皇女のスカートを揺らし、髪をくすぐる。彼女は、片目を閉じて…額に触れた。前髪のティアラが…陽光を受けて輝き、鳥たちは息を飲んで、沈黙した……白い妖精たちは、彼女に導かれ、滑るように舞う様に、彼女を守っていた。


「お手をどうぞ……姫様」


 エリシアは屈んで、手を伸ばした。皇女は、そっと彼女の掌に右手を重ねた。そして……左手も前に出すと、両手を揃えて……リムジンに飛び込んだ。


「あっ……姫様!?」


 エリシアが小さな悲鳴を上げて、後部座席を覗き込むと、皇女は奥の席に座り、外を見ていた。


「姫様……お怪我はありませんか?」


 セラフィナは答えなかった。エリシアは溜息をついて……シートに滑り込んだ。


 エリシアがドアを閉めると、ティアラ・バイパーの香りが満ちていた。プラチナローズ……サイレント・ムスク… 白煙。様々な香りが、セラフィナ皇女を包んでいた。エリシアは、身を乗り出して、窓からアイギス達を見た。


「いいわ。出して、ナディラ」


 エリシアが前に向かって言うと、リムジンが加速し、彼女はシートに押し付けられた。皇女は背をシートに預け、静かに窓の外を見ていた……。


「雨が降るっていうけれど……とても、そうは見えないわよね」


 エリシアが、空を舞うアイギスを見ていると、皇女が突然、語りだした。


「そうですわね。夕方から夜半にかけてと、聞いております」


 エリシアが答えると、セラフィナは話し続けた。


「別に、雨が好きとか、嫌いとかじゃないのよ。雨が降ると、夕立を思い出すの……それが、アメイジアの夏を連想させてね! ああ、懐かしいなぁって思うのよ……ほら、あそこは夏になると、冷たい食べ物が……ふふ……贅沢になるじゃない? 冷たい果実のジュレ、氷花茶、銀葉のシャーベット、月光蜜のかき氷……ああ! ああいう文化が、何故、ヴァルミエールには無いのかしらね?」


「さようで、御座いますね」


 エリシアの額から一筋の汗が流れた……ナディラがこちらを見ていた。エリシアは左手をタップし、ホログラフを立ち上げた。彼女は指を滑らせて、メッセージをタイプした。


<<検索:アメイジア、夏の贅沢な食文化>>


 エリシアの指は機械のように動いた。検索リストが、スクロールする……彼女は、指を止めて、ホログラフをじっと見つめた。そして、イヤリングを右手で抑えた。


「指令:アイギスの誰か……!」と囁いた。


 直ぐに、虹の光が生じて、エリシアの顔を照らした。エリシアが左を向くと、ミナが窓の外にいた。エリシアは、窓の外に向けて…彼女のホログラフを向けた。ミナは頷くと、スッと風の中に溶けて消えた。


 エリシアは、小さく咳ばらいをすると、皇女を振り返った。


「そういえば姫様……今日は、特別なお茶菓子がありまして、冷蔵庫の中で冷たくなって、待っているんですよ!」 


 エリシアの言葉が消えると、沈黙が訪れた……皇女がゆっくりと、こちらを見た。目を見開いて……エメラルドの瞳が、焦点を無くしていた。口が少し震えていた。エリシアは息を飲んだ。ナディラがミラー越しにエリシアを見つめていた。


「この車……遅すぎると思わない?」


 皇女が言うと、弾ける様にリムジンが加速した。エリシアは、シートに吸い寄せられて、天を仰いだ。皇女を見ると、彼女は目じりを下げて…笑みを浮かべていた。ナディラは、表情を無くして前方を見つめ……何事かを呟きながら、ハンドルを小刻みに動かしていた。エリシアが運転席のホログラフを見ると、赤い字で『速度制限違反:時速 420.5km 220.5km 超過』と警告が出ていた。――青のアイギスの部門長を煽るなんて……。


 エリシアは、皇女を見て言った。


「姫様。お腹がすいているなら、そう言ってくださいまし」


 エリシアはポケットを探って、青い包み紙を取り出し、そっと皇女に差し出した。


 皇女は、エリシアの包みを横目で見た後、窓の外を向いた。


 辺りが薄く光った……。


「マナ発光現象!?」


 エリシアは飛び起きて、周囲を見渡した。ナディラは、運転に集中していた。


「誰かが、アイギスの力を使いました。姫様、お気を付けて!」


 エリシアが皇女の方を見ると、皇女の頬が膨らんでいた。何か丸い物が、口の中を動いているようだった――何だろうか?

 

 エリシアは、手のひらを見つめた。其処には何もなかった。


 「あ……!」


 と彼女は小さく叫んで、言葉を飲んだ。――次元転送……いったい誰が?


「まさか……姫様」


 とエリシアが皇女を見て言うと、皇女はエリシアを見返した。頬の膨らみがへこみ……ゆっくりと口の端が上がっていった。エリシアは小さく口を開け……そして閉じて、眉を寄せた。


「姫様! こんな所で、お力を……お使いになっては、いけません! それも、ソーダ味の飴のために……」


 とエリシアは、皇女に向けて囁くように言い……言葉を飲み込んだ。


 セラフィナ皇女は、エリシアを見つめていた。目を大きく開き、眉を寄せていた。涙が光っていた。皇女は、俯いて目を閉じた。両の手に拳を作っていた。エリシアは、皇女を見つめ、震えながら言った。


「申し訳ありません。出過ぎた真似をいたしました。エリシアは……心から、お詫び申し上げます」


 エリシアが涙を浮かべて、皇女を見ると、彼女は顔をあげて、エリシアを見た。目を閉じて、首を振る。そして、強いなまなざしを、エリシアに向けた。セラフィナ皇女は、そっとエリシアの右手を両手で包み込んだ。――二人は見つめ合った。


 エリシアが微笑むと、皇女はすぅうっと、離れていった。エリシアは、眉をひそめて、右手を広げた。其処には……青い包み紙だけがあった。エリシアは大きく息を吐きだして、シートに沈んだ。


「包み紙を捨てるだけに、そんな演技はいりませんから」


エリシアの言葉を聞いても、皇女は窓の外を見続けた。


――ヴァルミエールの空は紫色を帯びていた。


 群青の空に、淡い紫が混じり、海岸線にはオレンジの太陽が沈もうとしていた。港に林立するビル群は、橙色の残光を跳ね返し、黒い影を生やしていた。白い影が燐光を放ち……鳥のように舞っていた。


 至る所でアイギスが、車を持ち上げて……運んでいた。


 エリシアは、イヤリングを通してアイギスの無線を聞いていた。二人のアイギスが会話をしていた。


「7号線、一般車両一台が、皇族専用道に迷い込んできています……進行方向そちらです。皇女に向かっています」


 と誰かが言った。


「空の旅へ……ご招待差し上げろ」


 すると、怜悧な声が答えた。


 エリシアは、イヤリングを右手で押さえ、声の主に向かって言った。


「エストラ。貴方も来てるのね……?」


「はい。本部長。お久しぶりです」


 エストラは答えたが、エリシアは返事をしなかった。ただ、目を閉じると「もう、本部長じゃない」と呟いた。


――ティアラ・バイパーの香りがした。


「諦めきれない?」


 何時の間にか、皇女がエリシアを覗き込んでいた。


「いえ……あの。そうですね。まだ実感が、わいておりません」


 エリシアが答えると、皇女は背筋を伸ばして、前を向いた。


「いきなりの人事だったわね。本当に……御免なさいね。壮行会……ちゃんとやらないとね。」


 エリシアは、皇女の声を聞いて、跳ね起きた。


「お気を使わせてしまって、申し訳ありません………所で、何人のアイギスを呼んだんですか?」


 とエリシアが聞くと、皇女は彼女を見降ろした。


 セラフィナ皇女は、静かに右手を挙げた。――拳のブレスレットが光った。


 エリシアは、大気の振動を感じた。


 一斉に…白い影が羽ばたいて空に舞い上がった。千の翼が羽ばたき宙を舞う。地を這う黒い影が嵐を巻き起こしていた。


「黒のアイギスまで……読んだんですね?」


 エリシアは、アイギスの軍勢を眺めた。


「こんな人数……どこで、収容するんですか?」


 とエリシアが言うと、


「お父様に頼んで、ノクシア・アストラ宮殿の空中庭園を……貸し切りで予約したわ!」


 皇女は、得意げに応えた。


「それは……凄いですね。アイギス達も喜びますよ」


 とエリシアが答えると、皇女が小さな声で言った。


「貴方もね……」


 そして囁くように告げた。


「わたし……貴方の黒い翼を……見たいわ!」


 皇女は、エリシアを見つめた。


 エリシアは目を伏せて応えた。


「そうですね。もう二度と戦場を掛ける事がなくとも……皇女の御心のままに……エリシアは翼を広げましょう。アイギスの黒いセラフが舞う所を、今一度、貴方にご覧に入れましょう」


――白と黒の天使は姿を消し、静寂が訪れた。


エリシアは、リムジンの走る音を聞きながら、目を閉じた。


ナディラは、二人の寝顔を見ると、そっとアクセルを緩めた……。


 アストリナの太陽が大海に沈んでも、アストリナ帝国 第一皇女 セラフィナ・ルミエール・アルファリアの輝きは、増すばかりだった……。


――皇女の憂鬱 エリシア(了)――

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