これは「山月記」か、はたまた「変身」か──

私自身、猫を飼うことになるなど思ってもいなかった人生なのだが、どういうわけか今では猫が中心の暮らしをしている。

飼うまでは全く理解できなかった事は事実だ。
たかが猫に、なんでここまで金をかけ労力をかけ時間を掛け……このまま行ったら、子どもの養育費をペット産業の経済効果が上回ってしまいそうだが、それも宜なるかなと思ってしまったのもまた事実。

言葉が通じないからこそ、人は猫(以下、彼らと呼ぶ)の一挙手一投足に注視し、体調を気遣い、彼らの意図と要望を知ろうとする。言葉が通じないからこそ知ろうとするのだ。

人間はどうだ?
言葉が使えるくせに会話も成立しない、お互い自分の都合だけを声高に主張しそれが権利だと宣う。法だ知性だ文化だと謳っておきながら、このザマだ。法も持たない猫にも劣る生き物ではないか。

底まで落ちてみなければ結局のところ人間という生命を知ったことにはならない。
おそらく大半の人が、底辺だと言いながら、結構上の方を泳いでいるのではなかろうか。
生きるのに必要なものは、それほど多くない。しかし、それを他人が悪しざまに決めるのはどう考えても間違っている。

一度、孤独の粋を味わってみるがいい。
その深淵を知る者の心には、この物語はきっと響き渡ることだろう。

注・作中に猫は登場しません

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