たった四分の曲が、短編小説の一冊に思える

かつおぶし

第1話 『あの夢をなぞって』に聞き惚れた


 曲は、たった四分程度。それが、短編小説の一冊に思えた。

 ヨアソビさんの一曲、『あの夢をなぞって』を知ったのも聞いたのも、つい最近の話だ。

 そもそも音楽にうといので、ヨアソビさんを全く知らなかった。

 しかし、ある事がきっかけで、聞く機会があった。

 そして、聞いた瞬間、一瞬で恋に落ちた。この曲に恋をした。


 たった四分程度の一曲が、まるで小説だった。

 音楽に、小説の世界があった。恋愛を奏でていた。

 一音一音に魅せられたが、悔しくもあった。

 

 『好きだよ』という歌詞、このたった一言が、これほど美しく心に響くだなんて。

 自分の書く恋愛小説が、たまらなく恥ずかしかった。

 自分の創ったキャラが囁く「好きだよ」が、安っぽく思えた。


 そんなの、才能が違うんだから当たり前、世界レベルの歌手なんだから凄くて当然、そう納得するのが、きっと正しい。それが正解で間違いない。

 でも、自分の中の正解ではない。  

 

 何万文字も使って書いた小説が、四分で紡ぐ四文字よりも劣る。

 たった四分の中の『好きだよ』に負けている。

 曲に聞き惚れると同時に、奥歯を噛み締めた。

 悔しい程に、美しい。


 心を揺り動かす美しい恋が、たった四分の中で完成している。

 こんなにも切実に、まるで一冊の恋愛小説を読んだ時のような熱い恋心を感じられるものだろうか。


 書きたいから書く、そのスタンスでやってきて、初めて悔しく思った。

 小説を読んで悔しいと思ったことはない。

 尊敬する事はあっても、比べる事はなかった。

 だって、人それぞれ才能のレベルも、感性も違う。

 それが普通だと、ずっとそう思ってきたのに、四分で完結した恋愛に負けた。

 

 勝負の話じゃない。そんな問題じゃない。

 そんな事は、十分承知の上で、悔しいのだ。

 そもそもジャンルが違う。比べる世界観でもない。 


 ただ、才能が違うとか、世界レベルだからとか、そんなのは、言い訳だ。

 自分が納得するまで書き続けるしかない。

 そんなのも、分かり切った話だ。それでも、辛いのだ、苦しいのだ。

 

 「小説を書く自信がなくなった」でググったら、検索結果は、意外とあった。


 知恵袋の回答を読んでみると、質問者さんを元気づけ、応援している回答者の人は多い。

 その回答は、とにかく書くしかないのだと、そういったような励ましが多かった。

 そうだよね、その通りだよね、頭では分かる。

 しかし、自分の才能のなさに思い悩む切実な苦しみは、きっと書いてみなければ、分からない。


 書き続けるうちに、楽しんで書くのが、難しくなって来る。

 書いても書いても、納得できるストーリーが創れない、それが負担になってくる。

 納得が行く先に辿り着くまで、見えない道は、どこまで続くのだろう。


 自分を信じ抜くのは、難しい。

 楽しみながら書き続けられる人は、自分に自信があるのだと思う。

 きっと自分の才能を信じて執筆できるのだ。


 何の為に書くのか、そう考えた時、答えが分からなくなって、音楽に救いを求めてしまう。

 叶うなら、四分を超える恋愛を書きたい。

 『あの夢をなぞって』この一曲を超えたら、見える世界が変わる気がする。


 この一曲を超える一冊を書く!!自分なら絶対、書ける!!そう腹を括ったら、納得の行く恋愛小説が書けるだろうか。

 自分の納得がいくラインを超えた瞬間は、自分にしか分からない。

 分かるまで、どれくらいかかるだろう。


 とりあえずの目標は、四分の中の『好きだよ』を超える事だ。

 今日の先に、超えた一冊があると信じたい。

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