俺の制御不能スキルでヒロイン全員が【好感度MAX】になる話 ~異世界転移して追放された俺は、クールな聖女に溺愛される。なぜかハーレム生活も始まったんだが!?~
咲月ねむと
第1話 スキル鑑定と役立たず追放
「――以上で、スキル鑑定の儀は終了である! 勇者たちよ、よくぞ我らの呼びかけに応じてくれた!」
きらびやかなシャンデリアが天井から下がり、やたらと長い赤絨毯が敷かれた玉座の間。
そこに響き渡る、見るからに偉そうな王様の宣言で、俺――
(いや、応じてねーし。むしろ拉致だし、これ)
心の中で悪態をついたところで、状況は一ミリも変わらない。
つい数時間前まで、俺は日本の平凡な高校の教室で、つまらない現代文の授業を受けていたはずだった。居眠りする寸前、突如として教室の床に現れた魔法陣的な何かが発光し、クラス全員、三十名と担任教師一名が、この異世界『アストライア』に召喚されたというわけだ。
いわゆる、集団転移ってやつか。ラノベで百回は見た展開だ。
「すげえ! 俺のスキル、【聖剣召喚】だってよ!」
「私は【大賢者】! なんか頭の中に知らない知識が流れ込んでくる!」
「見て見て! 【風魔法Lv99】! ヤバくない!?」
クラスメイトたちは、突然の事態にもかかわらず、まるで最新のVRゲームにでもログインしたかのように目を輝かせている。
特に、クラスの陽キャグループの中心人物である佐藤が、どこからともなく現れた白銀の剣を掲げてドヤ顔をしているのが視界に入り、俺はそっと目を逸らした。
まあ、気持ちは分かる。彼らが授かったのは、いかにも「勇者」らしい、チート級のスキルばかり。これから魔王を倒す旅が始まるのだと、誰もが胸を高鳴らせていた。
そう、俺を除いては。
「最後に残った者、前へ」
神官らしき老人が、羊皮紙のリストに目を落としながら、俺を促した。
クラスで最も目立たず、友達も少ない俺は、当然のように最後の順番だった。すでにクラスメイトたちの興味は、自分たちのスキルや、これからの冒険に移っている。
俺のことなど、誰も気にも留めていない。
(まあ、俺もなんか適当に便利な生活スキルとかもらえたらいいな……【アイテムボックス】とか【鑑定】とか、そのへんが当たれば御の字なんだが)
そんな淡い期待を抱きながら、水晶玉の前に立つ。
神官に言われるがまま、そっと手をかざした。瞬間、水晶玉がぼんやりと、なんとも言えない薄ピンク色の光を放った。
これまでクラスメイトたちが鑑定された時の目に痛いほどの白光や、燃え盛るような紅蓮の光とは明らかに違う、実に頼りない光だった。
「む……?」
神官が眉をひそめる。玉座に座る王様も、興味なさげだった表情をわずかに改めた。ざわついていたクラスメイトたちも、さすがにその異様な雰囲気に気づき、こちらを窺っている。
「……出たぞ。勇者アイカワ・ユウキのスキルは……」
神官が水晶玉に浮かび上がった文字を読み上げる。
その声は、困惑に満ちていた。
「――【好感度操作】、である」
「…………は?」
俺の口から素っ頓狂な声が漏れた。
好感度操作? なんだそれ。ギャルゲーの強制攻略コマンドか何かか?
「こ、好感度操作……とは、一体どういうスキルなのだ? 戦闘には使えるのか?」
王様が身を乗り出して尋ねる。
神官は再び水晶玉を覗き込み、うーむ、としばらく唸った後、おそるおそる口を開いた。
「は……。どうやら、このスキルは……対象の好感度を、本人の意思とは無関係に、最大値まで引き上げる……という効果を持つようでして……」
「なんと! それはつまり、敵である魔族すらも魅了し、戦わずして勝利に導くことができるやもしれぬということか!?」
王様の目がカッと見開かれる。
おお、なんかすごいスキルっぽいぞ? と俺も一瞬だけ期待した。
しかし、神官はふるふると首を横に振る。
「いえ、陛下。残念ながら……このスキルにはいくつか致命的な制約が……」
「なんだ、申してみよ」
「まず、効果のON/OFFが本人にも制御不能。そして、効果の発動条件は『対象と視線を合わせる』こと。さらに……魔力への耐性が高い魔族や、強固な意志を持つ者には効果が著しく減衰、あるいは無効化される可能性が……。何より……」
神官は一度言葉を切り、憐れむような目で俺を見た。
「戦闘能力そのものを上昇させる効果は、一切ございません」
シーン……。
玉座の間が、水を打ったように静まり返った。
クラスメイトたちの視線が痛い。さっきまでの「どんなすげースキルだ?」という期待の視線が、「なんだ、ハズレかよ」という侮蔑の視線に変わっていくのが、肌で感じられた。
「……つまり、全くもって、戦いの役には立たぬ、と。そういうことか」
王様の声は氷のように冷え切っていた。
神官は黙って頷く。それが、決定打だった。
「ふん、使えぬわ。そのようなスキル、勇者とは呼べん。我らが欲しているのは、魔王軍を打ち破る力だ。女を口説き落とす力ではない」
王は吐き捨てるように言った。
俺は何も言い返せない。事実、その通りなのだから。
佐藤が「だよなー。つーか、好感度操作ってキモくね?」と隣の女子に話しているのが聞こえてきて、俺のメンタルはじわじわと削られていく。
俯く俺の視界の端に、玉座の隣に立つ一人の女性の姿が映った。
銀糸のように輝く長い髪に、透き通るような白い肌。寸分の隙もなく着こなした純白の神官服が、彼女の神聖さを際立たせている。
聖女セレスティア。
このアストライア王国で最も尊い存在とされ、その美しさと冷静沈着さから「氷の聖女」とまで呼ばれているらしい。彼女は召喚された俺たちがこの間に通されてから今まで、一度も表情を変えず、ただ静かに佇んでいた。
その彼女が、俺が役立たずと断じられたその瞬間、ほんのわずかに眉をひそめ、何かを言いたげに薄い唇を微かに動かしたように見えた。
だが、それも一瞬のこと。すぐに彼女はいつもの無表情に戻り、俺から視線を外してしまった。
(気のせいか……)
そもそも、雲の上の存在である聖女様が、俺みたいな底辺のゴミに興味を持つはずもない。
「さて、勇者アイカワ・ユウキとやら」
王様の冷たい声が、俺を現実に引き戻す。
「貴様を養うほど、我が国は裕福ではない。かといって、元の世界に送り返す術もない」
「……」
「よって、今この時をもって、貴様を勇者の任から解き、王国から追放することとする! 兵士よ、こやつを城の外へつまみ出せ!」
あまりにもあっさりとした、非情な宣告だった。
「ま、待ってください! 王様!」
声を上げたのは、クラスの担任である鈴木先生だった。
おお、先生! 俺を見捨てなかったんですね!
「相川は、私の大事な生徒です! どうか、追放だけは……!」
「黙れ! 貴様も異世界人であろうが! 我が国の決定に口を挟むでないわ!」
王の一喝で鈴木先生はぐっと言葉に詰まる。その目には、悔しさと無力さが浮かんでいた。
他のクラスメイトたちは、誰も何も言わない。見て見ぬふりをしている者、あからさまに嘲笑を浮かべている者、興味を失って仲間と談笑を再開する者。
これが現実だった。
「さあ、行け!」
兵士二人に両脇を抱えられ、俺は引きずられるようにして玉座の間を後にした。
最後に振り返った時、聖女セレスティアは、やはり無表情のまま、まっすぐに前を見つめていた。その蒼い瞳が、俺を捉えることはない。
◇◇◇
「これを持って、とっとと失せろ」
がらんとした城の裏門で、兵士の一人が汚れた革袋を投げてよこした。中からは、チャリン、と軽い音がする。
銅貨が数枚入っているだけだろう。
服装も、みすぼらしい平民の服に着替えさせられた。まさに、無一文での放り出しだ。
背後で、重々しい門が閉まる音が響く。
一人、夕暮れの荒野へと続く道に放り出された俺は、思わず乾いた笑いを漏らした。
「はは……マジかよ……」
異世界転移からの、ハズレスキル、そして追放。ラノベのテンプレをなぞるにも程があるだろ。普通、もうちょっとこう、何かあるもんじゃないのか。
これからどうしようか。金もなければ、この世界の知識もない。スキルは役立たず。そこらへんにいるスライムにも殺される未来しか見えない。
「……まあ、いっか」
とはいえ、と俺は思う。
あのまま城に残って、勇者として魔王討伐の旅に強制参加させられるよりは、マシだったのかもしれない。俺は佐藤のようにリーダーシップがあるわけでも、他のクラスメイトのように特別な力があるわけでもない。足手まといになるのは目に見えている。
それなら、こうして一人で放り出された方が、気楽でいい。
(どこか、のんびり静かに暮らせる場所でも探すか……スローライフってやつだ)
もちろん、言うは易し、行うは難し。
まずは今日の寝床と食料を確保しなければならない。
そうと決まれば、いつまでもここに突っ立っているわけにはいかない。
俺は一番近い街を目指して、とりあえず歩き出すことにした。
その、まさに一歩を踏み出した、その時だった。
「お、お待ちしておりました! ユウキ様!」
背後から、切羽詰まったような、しかし透き通るように美しい声が聞こえた。
え? と思って振り返る。
そこに立っていたのは、信じられない人物だった。
「せ、聖女……様?」
純白の神官服を土埃で汚すのも構わず、ぜえはあと肩で息をしているのは、間違いなく、あの「氷の聖女」セレスティアだった。
完璧に結い上げられていたはずの銀髪は乱れ、血の気のない白い頬は、夕日のせいだけではないであろう赤みで上気している。
そして何より、俺を見つめるその蒼い瞳。
玉座の間で見た冷ややかさは微塵もなく、まるで焦がれてやまなかった相手にようやく会えたかのような、熱に浮かされたような潤んだ光が宿っていた。
「は、はあ……間に合って、よかったです……」
「え、あ、あの……なんで、ここに……? というか、ユウキ様って……」
「ユウキ様はユウキ様です! ああ、なんとお呼びすれば、わたくしのこの気持ちがより伝わるのでしょうか!? やはりユウキ、と呼び捨てに……? いえ、それはあまりに畏れ多い……!」
一人で何やらブツブツと悩み始めた聖女様。
状況がまったくもって理解できない。
俺はただ、呆然と立ち尽くすだけだ。
「あ、あの……俺、追放されたんですけど……」
「存じております! あの愚かな王の暴挙、このセレスティア、決して許しはいたしません!」
ビシッと俺を指さして、聖女様は高らかに宣言する。
その勢いに、俺は思わず一歩後ずさった。
いや、あんた、さっきまでその王様の隣にいましたよね!。
「ユウキ様がこの国を去られるというのなら、わたくしもこの国を捨てます。もはや、ユウキ様のいらっしゃらない国に、わたくしが留まる理由などございません!」
「は、はあ……」
「どこへでも、お供いたします。いえ、させてください! あなた様と離れて生きるなど、わたくしには考えられません!」
そう言って、彼女は俺の前に跪こうとすらする。
俺は慌ててそれを止めた。
「ちょ、ちょ、待ってください! 何言ってるんですか!?」
一体全体、どういうことなんだ。
あのクールで、誰にも心を開かないと噂の「氷の聖女」が、なんでこんなことに?
俺と彼女の接点なんて、さっき玉座の間で一瞬だけ視界に入った、ただそれだけのはずだ。
……ん? 一瞬、視界に……?
そこで俺は思い至る。
自分の、あの忌まわしき役立たずスキルのことを。
【好感度操作】
効果:対象の好感度を、本人の意思とは無関係に、最大値まで引き上げる。
発動条件:対象と視線を合わせる。
……まさか。
まさか、あの時。玉座の間で一瞬だけ目が合った、あの瞬間に、この聖女様にスキルが発動してしまったとでもいうのか?
目の前で、俺に行先を尋ねながら、うっとりとした表情を浮かべているセレスティア。
その姿を見て、俺の背筋に冷たい汗がツーっと流れた。
これは、ヤバい。
何がどうヤバいのかは分からないが、とんでもなくヤバいことになっている。
俺が望む、平穏でのんびりとしたスローライフが開始五分で崩壊の危機に瀕しているのだ。
「え、え、え、ええええええええええええええっ!?」
俺の情けない絶叫が、夕暮れの荒野に虚しく響き渡った。
――――
新しくラブコメを書いちゃいました!!
今回は複数ヒロインが登場し、魅力的です。ぜひとも推しを見つけてもらえると嬉しいですw
今作も完結保証いたします!!
では、ここで最近言わなくなった一言を。
皆様の応援が励みになり、力になります。
作品のフォロー、★の評価・レビュー
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