解脱クロニクル

坂の下はカカシ

第1話 変態クロニクル

世界に不可解な出来事は今まであったであろうか、未解決事件や都市伝説なんてものは誰かが視覚で確認すればどれも簡単に解決できるんだ。でももしその謎のことを全て知り尽くしても解決できないとしたら?もし解決できないとしたら、それは単なる情報の欠如ではなく、俺たちの現実認識を根本的に揺るがすものではないだろうか?


俺、鈴木マキトは今日からぴかぴかの高校一年生。待ちに待った共学ライフを楽しみにしていた。中学受験でそこそこ頭のいい男子校に行ったが、青春を追い求めていた俺には合わずにわざわざ偏差値を落としてまで共学に入った。友達がいなかったというわけではない。むしろ何故か男には好かれる方なんだ。


最初に親にこの話を持ちかけた時は、それはもう大変であった。俺の部屋にある漫画コレクションを、俺が中学校に行っている間に一枚一枚ページを、ご丁寧に全部破っていただいた。流石にそこまですることはないだろう。

でも何とかその後、説得に説得を重ね、今日に至るってわけだ。


高校の最寄り駅に着いた時に圧倒的に可愛い女子、所謂美少女を見つけた。清廉潔白な見た目で、髪は綺麗な黒、下ろしたら腰まであろうその絹のような髪を、ワインレッドの細長いリボンで一束に結び、ポニーテールにしている姿はもう、芸術であった。

それに、俺と同じ高校の制服をしている。あの子と同じクラスになれたらどれだけ幸せだろうか。そんなことばかり考えていたが、ここはあえて興味のないフリをするんだと、なぜか思った俺は、学校への最短距離を迂回して学校へ向かった。


俺は学校の前に到着し、正門の掲示板に大きく張り出されたクラス分けの表を見た。まあ女子と男子は大体半々ってところだな。まあ3年間女子のいない環境で育ってきた俺にとって、女子がクラスに一人いるだけでもう満足であった。

そう思いながらウッキウキで校舎に入り、まだ新品で踵が硬い上履きを履くのに苦戦しながら、教室へと向かった。


(さあて、どんな可愛い子がいるんだ?)

俺は鼻の下が伸びている。もう顔のことは諦めているから、第一印象はこの際どうでもいい。俺は大事なのは性格だと思っている。

そうして俺は教室に入った。鼻の下は自分では伸ばしていないが、さっきの余韻でまだ猿みたいな顔をしているんだろう。


まだ席表は黒板に張り出されていないからか、俺含めそのクラスについた新入生四十人は席に座らずソワソワしていた。一人を除いて。

その一人はあの圧倒的美少女であった。俺は男子校のせいで目がバグって、世の中全員の女性が可愛く見えてしまっているが、この子はやはり別格だ。名前はまだわからないが、そのクラスにいた男子全員が恋に落ちている。目を見ればわかるんだ、目を。でも残念だったな俺と同じクラスの男子諸君。俺が一番最初にあの子の視界に入っているんだ。


それにしても気の強そうなやつだな。だって、窓の縁に一人だけ足を組んで座っているのだから。彼女はもう既に制服を着崩していた。入学初日なのになぜか、くったくたの上履きを履いて、胸ポケットから白の有線イヤホンのコードが出ていた。

そうしていると、女教師が入ってきた。


「ほらお前ら席につけー」

と言って、前の黒板に席表を貼り付けた。一斉にみんながそれに押し寄せるので、後ろの方に突っ立ていた俺は人が席に座って人が捌けるのを待っていた。すると、先生が入ってきても全く動かなかったあの女子が、突然窓の縁から華麗に降りて、前の黒板へと向かった。


「ほらちょっとどきなさいよ!」

そう大声で言うと、みんなが一斉にはけて道がてきた。その女子は、驚いて呆然と立ち尽くしている奴らを尻目に、堂々と前の席表を見て一番乗りに席に座った。彼女が通ったあとの残り香を、前にいた男子全員が嗅いでいたのは、本当に滑稽であった。カバのように大きく開いた鼻でわかるんだよ、鼻で。


そうして俺は、大体全員が着席し終わった時に、前の座席表を見に行った。

(えーっと、よっしゃ一番後ろだ!)

俺は授業なんて真面目に受けにこの学校に入ったわけではい。後ろの席で隣の席の女子と、先生や他のクラスメイトにバレないレベルの、控えめだが背徳感満載の恋愛劇を繰り広げる、これが俺の目的。


俺は席表を見たのが一番最後だったので、他のクラスメイトは全員着席していた。俺は全員の視線を感じながら後ろの席に向かった。ほらあるだろあの入学したての時に他のやつのこと見ちゃうやつ。


そうして俺は最後列の、窓側から見て二列目の机上にスクールバッグを置いた。確か隣は名前なんだっけと思いながら横を見ると、あの女子なんだ。

「あ、よろし」

よろしくの途中で彼女は

「気安く話しかけないでよ!まず、あなた駅にいた時私を舐め回すように見ていたでしょ!」

その堂々たる告発は、入学初日でまだ緊張の走るクラスの空気をぶち壊した。

「ちょ!声大きいよ」

俺が小声で諭した時にはもう遅かった。クラス中が俺をゴミを見るような目で蔑んでいた。

そう彼女が言った後、先生はすぐさま

「それは本当なのか、えーっと」

席表を見ながら俺の名前を探っていたようなので、俺は親切に

「鈴木マキトです」

「本当なのか!鈴木マキト」

「いやちょっとは見てましたけど、さっきだってクラスの男子全員が彼女のこと見ていたじゃないですか!」

男子たちが一斉に俺の方を見た。確かに今、他の男子を売るような発言をしたが、実際そうだっただろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る