冷静沈着完璧美少女が俺だけに『甘々に甘えてくる』のだがどうすればいい?

あんホイップ

第1話 甘々な美少女

 人は…何かに甘えたくなる生き物である。

 と…俺こと真田恭弥さなだきょうやは考える。


 何に甘えるか、それは人それぞれだろう。

 例えばペットの犬や猫だったり、彼女、彼氏とか家族、妹、弟、兄、姉かもしれない。

 もしかしたら無機物の可能性もある。


 甘えるということは、ストレスが緩和されるのか…は詳しいことはわからないが良いことであることは間違いないと思う。


 だけれども知っているかな…?この世には甘えるよりも甘えられる方が好きな人もいるんだぜ。


 例えば俺とかね…


 と…前置きはこのぐらいにしておこう。


 一応言っとくけどこの物語は派手なバトルやハラハラするようなホラー展開や読者を後からハッとさせるような伏線を張る推理小説のようなものではない。


 残念ながらただの普通の高校一年生…俺の物語だ。真田恭弥物語。

 平たく言うと小話であり、馬鹿話ある。

 せめて土産話ぐらいにできれば良いのだが…

 

 まあ、気長にゆったりと力を抜いてみていただきたいものだ。


 これは俺と数人の美少女の何ともはちゃめちゃな物語である………

 


 

◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇


 「ふわぁ〜」


 眠い…眠すぎる。

 眠すぎて、欠伸が止まらない…

 今日通算13回目の欠伸である。


 俺の席から窓越しで見える雲は自由気ままにのんびりと空に浮かんでいる。

 いいなぁ…雲は気楽そうで…できるなら、俺もああやって雲のようにただ自由にのほほんと空に浮かんで流されたいものだ。


 現在時刻は朝8時20分頃。

 あと10分後に朝のホームルームが始まる。


 はぁ…今日も気怠い学校が始まってしまうのか…とため息を一つ溢す。

 この花桜西高校に入学して早2ヶ月。

 高校生活にも多少は慣れてきたところだ。

 だが、中学時代に比べて多忙すぎる。

 高校生活は楽しいは…楽しいけれど…充実はしているけれど…なんともなぁ…疲れるものだ。


 「あら、今日も相変わらず間抜け面ね… 真田さなだくん…」


 そんなことを考えていると隣の席の冷静沈着完璧美少女こと水瀬美乃梨みなせみのりは相変わらず凍りつくような冷たい鋭い目で俺を見て言い捨てた。

 

 水瀬美乃梨の異名は冷静沈着完璧美少女と呼ばれている。

 成績優秀、運動神経抜群、素行もいい。

 見た目に関しても、透き通った肌、息を呑むような美しい黒髪、目を洗浄するかのような美しい顔立ち、どこかのモデル並みのスタイル…ほら、軽く水瀬美乃梨という1人の人間を紹介するだけでこんなに長くなってしまう。


 要は、完璧!美少女!ってところだ。

 皆が考える1番可愛い美少女を思い浮かべて出てきたそれがこれだ。


 「……だって……眠いんだもん…ふぁ〜」


 俺はまた欠伸しながら言い訳をした。

 これで14回目。

 眠いものは眠い。

 人は眠気には勝てない…この世の摂理の一つである。


 「しっかり寝ないのがいけないのよ…それで授業中に居眠りでもしたら勉強についていけなくなるわよ?」


 水瀬は呆れたようにため息まじりにそう言った。


 「でもさ?水瀬さん、人は眠気には勝てないものでしょ?ほら、食欲に人が勝てないように睡眠欲には勝てないのですよ…」


 俺は自己理論的な非論理を述べた。


 「もちろん、人は欲には勝てない…それはこの世の理だけれども、それをどう扱うかは、制御、管理するかはその人次第でしょ?あなたの頭みたいに論点がズレているわよ?」


 水瀬は棘のような言葉で軽く俺を罵りながら論破した。

 俺のあさはかな論理も一瞬にして粉々に粉砕されたのだった。

 相変わらず…ツーンとしている。


 そういう普段の態度から彼女…水瀬が冷静沈着と言われている理由でもある。

 普段の彼女は基本こんな感じだ。

 仲の良い本当の親友や友達以外には冷たく、冷静な態度で接する。

 そして異性に関しても全くと言って興味がない。今までに水瀬に告白した男子は山ほどいるが誰1人としてOKされたものはいない。

 冷たく、冷静沈着に断れていった。


 まさに冷静沈着完璧美少女…それが水瀬美乃梨である。


 


 昼休み、学食にて。

 今日も食堂は生徒達で大変賑わっている。

 俺は友達と一緒に学食を腹に蓄えていた。

 因みに、今日はミートソーススパゲッティだ。


 「いや〜水瀬さんって本当に鉄壁だよな〜」


 俺の向かいに座って、ナポリタンを頬張っていた数少ない俺の友達の1人、武藤弘むとうひろしはそう言った。


 「だよな〜昨日も2年生のイケメンな先輩に告白されたらしいけど、ことごとく断ったらしいぜ…」


 俺の隣の席の田山悟たやまさとるは武藤の言葉に「うんうん、わかるわかる」と首を縦に振って共感していた。

 こちらも俺の仲の良い友達。

 因みに田山の昼食は西洋風オムライスだ。


 なるほど…鉄壁とはそういうことか。

 まあ、何度もイケメン君が水瀬に告白してはことごとく粉砕されているのを知っているので今更、そんなことを聞いたところで特に驚きはしない。

 まあそうだろうな…ってのが率直な感想である。


 「あんな鉄壁な美少女を誰が落とせるっていうんだよな…」


 武藤は肩を落とした。

 君の肩だけは水瀬と違って簡単に落ちるものだ…なんて俺は横目で武藤を見ていた。

 

 「でもよぉ…真田はいいよな」


 田山は不意に俺の名前を上げた。


 「へっ?」


 どうしてこのタイミングで俺の名前が?

 イケメンくんでもないフツウくんの名前が?


 「だって、真田が唯一、水瀬さんと話している男子だぜ?」


 田山は羨ましいなぁと訴えかけるような目つきで俺を見つめた。

 なんだ…そういうことか。


 「いや…まあ、そりゃ隣の席だし…てか話すって言ってもほぼ厳しい指摘とかばっかりだし…お前らが思うような会話はしてないよ」


 事実そう。

 側から見れば羨ましいと思うかもしれないが、俺にとっては別に喜ばしいことでもない。

 いつも辛辣な言葉を集中砲火されるだけだし…羨ましがられる程でもない。


 「まあ、真田は水瀬さんの隣の席というだけで豪運だよ…ちくちょう!俺も水瀬さんの隣に席になりて〜」


 武藤は悔しそうにナポリタンを啜った。

 代われるものなら代わってあげたいが…


 「だけどもさ…この学校ってめちゃくちゃ可愛い子ばっかじゃね?」


 田山は周りを見渡して言った。

 たしかに、水瀬はもちろんとしてクラスの中だけでも可愛いと思う女子は沢山いる。

 学校内でも平均して顔立ちが良い女の子は多い印象だ。

 どうやらこの学校は可愛い子が多い学校のようだ。他の学校の事情は知ったことではないけれど。


 「たしかに、それはそうだな」


 俺は口を合わせた。


 「別に水瀬さんが駄目だったとしてもチャンスは沢山ある!そう思うぜ俺はぁ!」


 武藤は張り切って…いや割り切って言った。


 「あ〜水瀬さんみたいな人って付き合ったらどんな感じになるんだろうな〜やっぱりベタベタになるのか…それともあの感じを貫き通してツンとなるのか…う〜む…さっきやった二次関数よりよっぽど難しい!!」


 田山は頭を悩ませた。


 「やっぱりあの水瀬さんでも子猫のように甘えるんじゃないか?」


 武藤は、そう考察する。


 水瀬…甘える…ねぇ…

 

 実は俺は知っている。

 俺だけは知っていた。


 あの水瀬の…水瀬美乃梨の裏の姿を…いや、真の姿と言うべきか…


 水瀬美乃梨という冷静沈着美少女のことを…


 

 

 放課後である。

 俺は普段、部活動や委員会には入っていない。

 だから放課後に学校でやることは全くないので、真っ直ぐに我が家に帰宅する。


 「ただいま〜」


 と言ってもおかえりと返ってはこない。

 俺の帰宅時間には大体家族はいない。

 母、父は仕事。下の姉妹は習い事や塾。

 てことで、今の時間は完全に我が城ということだ。


 大体夜19時過ぎにならないと家族は帰ってこない。

 それまでは俺はこの家を自由にできるのだ。


 まあ、俺が家ですることはだらだらアニメや映画を見たりゲームをしたりと普通のことばかりしていた。

 こんな人生でいいのか?ってたまに我に帰ることがある。


 「さて」

 

 俺は気怠い学校が終わったことへの喜びの舞を踊ろうした。


 「ピンポーン♪」


 踊ろうとした矢先、家のインターフォンが鳴った。

 今日も…か。

 

 「はーい」


 俺はそう声をかける。

 ドアの前…もはや開けなくても誰が来たのかかがわかる。


 「あっ…どうも…今日も来ちゃった」


 ドアを開けると、ある美少女がビニール袋片手に立っていた。

 それは女神…ではなく水瀬美乃梨だった。

 冷静沈着完璧美少女の水瀬美乃梨が俺の家を訪ねてきたのだ。


 「ああ…水瀬さん…どうぞ上がって」


 慣れたように俺は水瀬を家へと招き俺の部屋へ案内する。

 実際、水瀬が俺の家に来たのは初めてではない…どころか何十回目とかそんなもんだ。


 「ふぅ…」


 そう吐息を吐いて、水瀬はいつものように俺のベットに座った。


 「えと…水瀬さんは何飲む?いつも通りコーラ?」


 俺は水瀬に一応聞く。


 「うん…あっそれにコーラとポテチ…私の家から持ってきたよ」


 水瀬がそう言って指先す方向の机の上にはビニール袋が置かれてあった。

 その中には水瀬が言った通り、コーラとポテチが入ってあった。

 水瀬が気を利かせて持ってきてくれたのだ。


 「いつも、ありがとうね水瀬さん」


 水瀬は俺の家に来るたび何かしらのお菓子やジュースを持ってきてくれる。

 礼儀正しいというか、しっかりとしている。

 まあ持ってきてくれることは、感謝、感激である。


 「むっ…恭弥…家にいる時の私の呼び方は…?」


 水瀬はムッとした顔でこちらを見た。

 まずい…つい水瀬のことを学校にいる時の呼び方で呼んでしまった。


 「あっ…ごめん、つい学校のテンションだった…」


 家の中での水瀬への呼び方は水瀬さんではない。  

 別の呼び方があるのだ。

 正確にはこう呼べと命令されているのだ。


 「……み…みーちゃん………」


 クソ…なんだか恥ずかしい…

 こうやって普段から沢山呼んでいるが、やっぱり1発目はぎこちなくなる。

 そう…家では水瀬のことをみーちゃんと呼ぶようにと強要されているのだ。


 「うむ…よろしい」


 水瀬ことみーちゃんは満足そうにしていた。

 そして、ぽんぽんとベットを叩いた。

 あの合図は…「隣に座れ」という合図だ。


 俺はみーちゃんの指示通りお隣に失礼する。


 「では…ふにゅ〜」


 みーちゃんこと水瀬はそう言って俺の胸に飛び込んできた。


 「ふにゅ!ふにゅ!ふにゅ〜!ふにゅ〜!」


 そして、俺の胸に顔を擦り付けた。

 まるで、甘えてくる小動物のように。

 

 俺はよしよしと水瀬の頭を撫でてやる。


 「フフ〜ふにゅふにゅ〜」


 水瀬はご機嫌に俺に甘えてきたのだった。


 そして、2分ほどスリスリタイムが過ぎると、みーちゃんは俺の膝元に頭を置いた。

 故に膝枕である。

 普通は逆だろ。


 お気づきの通り、今俺はみーちゃん…水瀬に甘えられているのだ。

 いつ、なぜ、こんな関係になったのか…


 あの冷静沈着完璧美少女の水瀬がこんなに俺に本性を露わにして甘えてくるのか…


 時は1ヶ月ほど前に遡るとさ…




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