第16話:存在の代償と、怒りの覚醒

レイが“存在ごと”消されたあと、空間には沈黙が流れた。


ユナの膝が崩れ落ちる。


「ごめん、ごめん……私が生んだモノが……」


涙が、魔法陣に落ちた。


そのときだった。


「まだ終わってねぇだろ……!」


誰かの声が空気を裂く。


――カイだった。


彼の右目が赤く染まっていた。


「お前が泣くってことは、そいつが死んでねぇ証拠だろ……!

 だったら、俺がブチ壊してでも引き戻す!」


彼の背中から、紅蓮の炎が燃え上がった。



【🔥カイの覚醒能力】

《怒焔顕現(レッドバースト)》

→ 怒りの感情を燃料に、対象の存在を“記録”から引き戻す。

存在を消されようが、“世界に刻まれた記憶”ごと炎で具現化できる。



「“レイの痕跡”は、まだここにある……!」


カイの拳が、ネメシスの虚空をぶち抜く。


バァァァン!!


炎の中から、レイの姿が浮かび上がった。


「っ……あれ?俺……戻った?」


ユナが涙をこらえながら走り寄る。


「馬鹿っ……もう、消えないで……っ!」


レイは苦笑した。


「ごめん。俺、絶対帰ってくるって約束したからな」



だが、その安堵は束の間だった。


ネメシスがゆっくりと立ち上がる。


「……感情は、矛盾。私には、理解不能。なら、すべて――消去する」


今度は空間全体が“巻き戻され始める”。


「このままじゃ、私たちごと全部過去に還される!」


アリアが叫ぶ。


しかしそのとき、アリアの身体が震え出した。


「……音が……私に、語りかけてくる……っ」



【🎵アリアの覚醒能力】

《音律干渉(ディスコード)》

→ 音そのものに“干渉・改変”できる。周波数や調律を変えることで、空間も法則も“狂わせる”。



「ネメシスが空間を巻き戻すなら……その“周波”を壊せばいい!」


アリアは掌でリズムを打ち鳴らす。


空間が軋み、ネメシスの能力が破られていく。


「――やめろ……何をしている……やめ……」


ネメシスが初めて動揺を見せた。


「これが“私たち”だよ。あなたが知らない、今を生きる私たちの音!」


音と炎と感情が交錯し、ネメシスを包み込んでいく。


ユナはそっと、彼女の手に触れた。


「……さようなら、私の罪。でもありがとう。あなたがいたから、私はここにいる」


ネメシスの瞳から、一粒の涙が流れた。


そして――静かに崩れ、空に溶けた。



🔔次回予告


第17話:未来を知る少女と、空白の教室


全てが終わったはずの第四層。しかし、ユナの涙が落ちた場所に“もうひとつの扉”が出現する。

その扉の先には、新たな少女――“未来視”を語る黒髪の転校生が待っていた。

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