取り残された世界で
Zamta_Dall_yegna
プロローグ
誰の気配もない地下の洞窟。そこに私はいた。誰も先を見たことのないダンジョンであるため、救出も求められない。
事の発端は、周りを海で囲まれた国、ウナハラに大地震が訪れたことだ。魔術が発展しており、最高水準の魔術師達がいるにも関わらず、予測が出来ない事態だった。地震が引き起こした火事に、瓦礫の落下に、荒れる海。食事もまともに取れない日々が続き、人々は疲弊していた。そんな中、ダンジョンというものが各地に現れた。
魔術師達の考えによると、地下にあったダンジョンの入り口が、地震によって掘り起こされたという。一番浅いダンジョンは地下1階からなるもので、最奥に財宝やら魔術の書が眠ると言われた。人々は話を聞くなり、ダンジョンの最深部を目指した。最深部に到達し、財宝を持ち帰ったものは攻略者として記録に残った。
かく言う私も、ダンジョン攻略に憧れてダンジョンに潜り込んだ人間の一人であった。茶色い目に茶色く肩より下まである髪の毛で、どこにでもいる顔をしていた。特徴的なのは、魔術師にしては珍しい薄茶色のローブを纏っていることくらいだ。
私は魔術師見習いで、船乗りである友人がいる。そのため、ダンジョンに持っていく道具は少なくて済んだ。持ち物は、魔法を使うための酒と、地図作成用の筆記用具、替えの服に携帯食料、十徳ナイフくらいだ。
普通はチームを作ってダンジョン内に行くのだが、私は誘える人がいなかった。友人は忙しそうで誘えなかったのだ。仕方なく、必要な物だけ揃えて潜り込んだ。
行った先は、足跡一つも残っていないダンジョンだった。常夏のこの国らしく、草木は至るところに生えており、伸びきっていてまとまりがない。近くの墓石は苔だらけになっている。一瞬、戸惑いつつ中に入った。
誰も入ったことのないダンジョンの何が問題かといわれると、至る所に未だ発動していない罠があるというところだ。中には、一回でも発動すればそれっきり動かない罠もある。それすら発動していないとなれば、何度も危険な目に合う可能性があるということだ。
―どうか無事罠を避けられますように―
強く願ってから、奥に進む。床は模様のない白い石の板、壁は岩肌のようなゴツゴツとしたもので、もはや洞窟だ。壁の上の方にランプがぶら下がっており、灯りはそれだけだ。右手で壁を伝い、迷子にならないように慎重に進んでいく。
手の先に引っ掛かりを覚えて見てみると、何かのボタンがあった。罠かどうか分からない。だが、罠避けの装置もボタンである。迷いながらも押すと、天井から檻が降ってきた。立て続けに、反対側の壁から矢が飛んできて、鉄格子に命中して落ちた。どうやらこのボタンは罠避けようのものだったようだ。
私は安堵して歩みを進めた。下り階段付近まで歩くと、ふと、下から風が吹いてきた。見ればそこには、槍が上に向かって伸びていた。銀色の先端が鋭い光を放っている。近くにボタンは無く、あるのは槍の畑の真ん中にある細い道一つだけ。バランス感覚には自信があった。船乗りの手伝いを何度かしていたことがあったのだ。海上で、船の中を歩き回るのには必要な能力なのである。
綱渡りの如く、慎重にかつ少し早く細い道を通り抜ける。すると、下り階段にたどり着いた。
地下2階まで降りると、先程と景色はほとんど変わりが無かった。変わっているところは、罠らしきものが遠くにチラホラ見えるくらいだ。気が高ぶるのを感じる。
―上見て、下見て、壁伝いすれば大丈夫だ―
そう自分に言い聞かせて、落ち着きを取り戻した。
それからは、上を見ていたために降ってくる矢を避け、下を見ていたために罠らしきもののスイッチを押さずに済んだ。
―このままいけば、このダンジョンを攻略できる―
私は自分の考えに自信しかなかった。
前の罠から数歩奥のところに、レバーが壁に付いていた。傾ければ良いのだろうか。取り敢えず動かそうと、レバーを傾けようとするが、固くて中々下までつかない。網を引っ張るように、下からレバーを引っ張ると、すぐに降りた。
すると、辺りの蝋燭の火が一気に消えた。視界が闇に包まれて前後が分からない。レバーを上げようとしたが、何かに引っ掛かっているのか、動かない。私は諦めて、壁伝いに奥へ向かうことにした。
しばらく歩いて、下り階段が見えた。階段の横には松明があるので、良く見える。私は足を速めてそこへ向かった。
ふと、浮遊感に包まれて闇に逆戻りした。一瞬気を抜いたのが仇となったようだ。私の体は深く落ちていき、床に伏した。
落ちた先では、物も装置も置いてない。深さは6mくらいで、容易に登れる高さではない。試しに、足場を魔法で作って登ろうとしたが、魔力が枯渇して結局落ちてしまった。見習いなので、浮遊魔法も使いこなせず、無駄な体力を消費していた。試しに大声で人を呼ぶことにした。もしかしたら、人が来ているかもしれないと思ったのだ。
「誰か、いませんかー! 」
返事はなく、足音一つも聞こえてこない。どうやら、私一人しかいないようだ。
私はこの絶望的な状態を打破するべく、色々な魔術を考えて生み出した。地図作成に持ってきたノートは、魔術のために何ページも消費され、ペンのインクはどんどんと減っていった。
体感で5日経った後、ようやく自己流の浮遊魔法が完成した。落とし穴から脱出し、下り階段へ向かった。
地下3階まで降りると、薄暗い空間が広がっていた。中央に台座があり、そこには「血を捧げよ」と書かれていた。私は軽く親指の付け根を十徳ナイフで切った。台座の少し凹んでいるところに血を垂らすと、台座の後ろに部屋が下から出現した。私は、親指を止血してから部屋に入った。
中に入ると、ガチャリと音が鳴ってドアが閉まった。ドアが開くか確認したところ、開かなかった。どうやら外側から鍵が掛かったらしい。
室内はそこそこ広く、大人の男性が6人くらい横になれるくらいの大きさだった。白い空間に、木製の簡易ベッド、黒い机と椅子が置いてある。無機質なその空間に閉じ込められた私は、荷物を広げて脱出方法を考えることにした。
そして、冒頭に戻る。人がいないのは既に確認済みだ。ドアも鍵穴も魔法を受け付けないので、魔法で無理やり開けることはできない。十徳ナイフでピッキングを試みたが、上手くいかなかった。やはり、魔術の開発を行うしかないようだ。
数日経つと、そこは私の住居と化していた。衣服の洗濯や食事等の家事を魔法で行っていたため、住むのに困ってはいなかった。ただ、財宝やら魔術の書が見当たらない上、外に出られないことにより、どんどんと精神と道具が消費されていった。
ある日、外界と連絡が取れるようになった。魔術で、疑似電話回線を作ることに成功したのだ。しばらくして、救助に来てくれたため無事に脱出が出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます