友達作り③ イケメンと委員長ゲットだぜ!
冷房の効いた三年一組の教室。
夏休み直前ということもあり、クラスは活気づいている。
学校から持ち帰るものが多くて、みんな荷物がいっぱい。家から持ってきた紙袋に入りきらないため、どうにかして隙間なく詰め込むべく悪戦苦闘。ちょっとしたパズルゲームをやっている。
まったく、こういうことになるから担任は『数日前から少しずつ持ち帰るように!』と念を押していたのに……クラスの半数がこのありさまである。おかげで、クラス人気ナンバーワンの超絶金持ち委員長も不満そう。彼女も数日前からズボラな生徒に忠告を繰り返してきたのに、その甲斐無く今日このありさま。ずっと腕を組んで睨みを利かせている。取り巻きもなぜか同じことをしている。
それでもみんな楽天家。男は男で集まり、女はグループごとに集まり、和気あいあいと談笑しながら袋詰め。
みんなが帰らないと委員長の仕事が終わらないんだから……もうちょっと急げと言いたい。でもごめんね、委員長。今日だけは言えない。私は、もうちょっとゆっくりしてほしいと思ってます。
なぜなら、この展開を読んでいた私は、これから結構とんでもないことをする予定だからです。
練りに練った計画は、あくまで参考程度に。
基本アドリブ重視で、超絶ヤバすぎる勇気を出して……実行に移す。
作戦名は『
「すぅ────ふぅ…………よよ、よしっ! っ────!!」
席から立つ。周囲の女子が不思議そうにこっちを見たけど気にしないキニシナーイ!
やっぱり無理。一旦廊下側に出て、教室の後ろの戸からもう一度入りなおす。
『……?』
なにしてるんだろうこの子は? という目で見られた。そりゃそうだ。でもそれでいい。
どうせこれから同じ目で見られるのだ。その練習になった。さぁ一直線に向かおうぞ。
このクラスで人気ナンバーワンの男子生徒に、声をかける!
優しいイケメン。困ってる人を見たら放っておけないタイプのヒーロー。末永くお近づきになりたい。でもベタベタすると女子全員を敵に回す。なので喰らえ! 姉貴直伝の処世術ぅ……っ!
「か……カネナくん! ちょっとお話があります!」
「……? なんだい?」
整った顔立ち。白い歯がキランと光る。爽やかな笑顔は凛々しくて素敵。
そんな評価をする女子が圧倒的に多い。当然ながら同意見。高嶺の花だ。
「ふぅ……まずは保険をひとつまみ。──馬鹿だと思うだろうけど、私は友達百人を作らないといけないの!」
「そうなんだ?」
「だから私と連絡先を交換して! 電話番号を変える時も、嫌じゃなかったら新しいの教えてね!」
「それは、構わないけど……」
────ハイ! イマ! クラスの女子全員から!! 地獄みてぇな視線の針を刺されましたァッ……!!
当然ながら、男子の会話に混ざっていた田中くんもこっち見てる。同じく幼馴染の
「で、どうなの!? 男ならハッキリ言ったらどう?」
「え……ああ、うん。もちろん、いいけど……?」
良かった。スマホを取り出す。
背中に包丁が投げつけられる。後頭部に出刃包丁がブッ刺さった。ナタで首を切られた気がする。うっわぁ……よくバトルマンガでさぁ。達人の剣気? だけで、自分が殺される幻覚を見せられるってシーンあるじゃん。あれってこんな感じなんだなぁ……って。もっとうまい方法があるのかもしれないけど、今の私はこれが最適解だと思ったんだよぉ……。
だってさぁ。隠れてカネナくんと連絡先を交換したら、絶対にバレて袋叩きに遭うしぃ?
だから私はカネナくんに脈なんてありませんよーって公開するため、あえてこの場を選んだのだよワトスンくん。
「あ、ごめん! 今日はスマホ持ってきてなかった……」
「えっ!」
まさかのハプニング!
「なぁ、ペンとメモ貸してくれない?」
田中くんがシャーペンを渡して、鈴木崎が紙の切れ端を渡す。カネナくんは「なんで一枚だけ? もう一枚くれよ」と言った。どういうことだろう。彼はスラスラと電話番号を書くと、ペンと二枚の紙を「はい」っと、にこやかに渡してくれた。
ああ、そういうことか。だよね。私も二枚目の紙に自分の電話番号を──あんま覚えてないっつーか頭回んないから連絡帳アプリを開いて──書いて「はいっ!」と、にこやかに手渡す。ああ、指が触れ合っちゃった。
「……でも、僕だけでいいの? 友達百人も作らないといけないんでしょ?」
「──よくぞ聞いてくれました。こちらのリストをご覧なさい!」
その質問のおかげで、私は後ろから投擲されるナイフの雨あられを、もう少しで終わらせることができる! 脈なしアピール完了まで、あと一歩だ!
全校生徒の名簿を手書きで書き写したリストをかざして見せびらかす。電話番号を交換した人の欄には取り消し線を入れて、交換できなかった子はバツを書いて消している。
このリストは四月から七月にかけて少しずつ埋めていったんだ。どうだ、すごいだろう!
「おお! スゴいね……! あ、田中も交換したんだ。鈴木崎は幼馴染だから交換してて当たり前だよね。へえ……スゴい! 壮観だね!」
「うん! 委員長とも先月交換したよ! カネナくんとも交換したから、取り消し線を書いてーっと……カネナくん、みんな、ありがとね!」
「うん!」
……。
…………あっ。なんで急にこんなこと始めたのか、そういう理由は聞いてこないんだ。
まぁそうだよね。深掘りするほど私に興味ないか。じゃあ計画通り、ここはアドリブで……。
「ところでさぁ。なんでこんなことをするハメになったか、愚痴を聞いてくれますぅ~?」
「うん。いいけど?」
「うちの彼氏がさぁ! 『将来のためにやっとけ』って言うんだよー!」
────彼氏。
クラスの全員が息を呑む。
「えっ!?
田中くんが馬鹿みたいな大声で驚いた。
まぁそうだよね。いないと思ってたよねきっと。でも正解。本当はいないんです。
つまり、彼氏がいるという発言は、まるっきり嘘なんです。真っ赤な嘘なんです!
でもそうじゃないと! こんなことを言わないと! 脈なしアピールできなくて!
二学期の初めから陰湿な攻撃を受けるに決まってる! だから! これは! 身を守るための正当な嘘!
「────四弓さん」
ハイ。委員長が話しかけてきました。急に体がガッチガチになる。本能が怯えている。
「その彼氏さん、どういう人なんですか? わたくし、恋バナに興味がありまして」
ほらぁ。やっぱ嘘かどうか確認しに来るじゃーん……。
そんじゃ、ほんっとうに、すみません。先輩……きちんと『彼氏役としてみんなに紹介していいですか?』って許可は取ってあるけど……それでも謝罪します。
でも勘違いしないでください。
私、本気で先輩の女になりたいと思ってるんで! だから勘違いしないでよねっ! これは利用するってだけの嘘じゃなくて、ちゃんと外堀を埋めるっていう狙いも含まれてるんだから……っ!
「大学生」
ワンパン。
どういう人か聞かれたので、ワンパンでKOするレベルの属性を答えてやった。
我ながらオーバーキルだったかな? 今度は委員長が目を見開いて固まっちゃった。
「────ふぇ? い、いま、なんと……?」
「大学生。ちょっと前からお付き合いしてまして……とっても優しくて、賢くて、プラトニックで、怖くなくて……めっちゃイイ人! もう今の私はメロメロ! あ、写真とか見ます? まぁ私が見せたいだけなんですけどぉ~!」
……うん。
なんか、今度は田中くんの方を見るのが気まずいな……だって先月告白されるのは想定外だったし……いやでも別に悪いことは……したか? いやしてないだろ。でも引け目を感じている時点で、誰も悪くないけど気まずいものは確実に発生しているわけで。
ならばここはやりたいことをしよう!
「あ、そうだ田中くん。ちょっとこっち来て」
「……えっ!?」
肩に手を回して連れ出す。誰にも聞かれないよう小声で耳元にささやく。
「その、なんか謝っといた方がいいかなって……」
「な……なんで?」
「なんででも……友達なのに、彼氏いるの、黙ってたし……」
「あっ……いやでも、そこまで言うのが友達ってわけでもないと思うし……全然普通のことだと思うよ?」
「あ、ほんと? ありがと~! えへへー、なんか気にしすぎちゃった!」
「はは。うん。それは気にしすぎだよ。俺は大丈夫だから」
……まぁ、気にしすぎってことはないと思うけど、これ以上は気にしなくてもいい事柄のようだ。
田中くんは大丈夫。これ以上のおせっかいは、男のプライドとやらを潰しかねない。
ならば私は自分の戦場に戻るとしよう。
「ごめんなさい委員長! ちょっと田中くんに急用があることを思い出しまして! まぁそれも終わりましたから……はい、これが写真です!」
「…………それなりにカッコイイですね」
「でしょー? でも……委員長って面食いなんです?」
「っ!?」
「あ、いえ! 顔を重視するのは当然ですよ!? ただ雰囲気的に、この人はなんていうか……かっこいいとかブサイクとか云々より、真面目系で草食系って言われるかなー? と、勝手に思ってまして……!」
「……ま、まぁ、そういう雰囲気はありますね……ただ、外見だけで人は判断できませんから……」
「さっすが委員長! 実はこの人、この顔で割とガツガツでー!」
「あら、そうなんですか? ……つかぬことをお伺いしますが、不純異性交遊などは……」
「まったく! ありません! なんなら手を出してきてほしくないし、手を出したくもない! そういうのより恋愛を楽しみたい! そんな私の願望を叶えてくれる、超イイ彼氏でーすっ!」
「……そうですか。おせっかいですが、恋愛にうつつを抜かして受験をおろそかにしないよう」
「はい! それは彼氏からも耳にタコができるほど言われておりますっ!」
やった! 委員長と恋バナできた!
いつも何かやると叱られるように指摘されるから怖い怖いって思ってたけど、ちゃんと私を心配した忠告も兼ねて普通にお話できるじゃん!
……気づけば、私に刺さる刃物は鳴りを潜めていた。
ぶっちゃけ、委員長から突き刺さる槍が死ぬほど痛かったんだけど……ふぅ。仲直りできて何より……脈なしアピールできて何より……もしできてなかったら、きっと────こ、こ、殺されてた……っ!!
「ところで、四弓さん」
「ハイ!」
「なぜ『友達百人作ること』が、将来のためなのでしょう?」
「あ、それはですねー。『その理由を考えるのも授業の一環』らしくて……」
「授業?」
「あ、家庭教師もお願いしてるんですよー。だから受験勉強はバッチリですっ!」
「……そうだったのですか。なるほど」
もちろん先輩から、そんなことは言われてない。
家庭教師をお願いしてるのは真実だけど、友達百人作ると決めたのは私の意思だ。
そもそも連絡先を交換する程度で友達になったとは思ってない。一度に百人と交流を持つのなんて不可能だ。
つまり今回の狙いは、カネナくんと委員長のふたり。人助けを当たり前のようにするヒーローとヒロインのおふたりと、お近づきになりたかったのだ。
かといって、せっかくほかの子の連絡先も知ってるわけだから。これを活かさない手はない。たとえば今さっき、一度に百人と交流を持つのは不可能といったが、朝の挨拶程度なら可能だ。楽勝である。そこから雑談する仲にまでなれば、大学生になっても社会人になっても、同窓会などで会う事があれば、関係が継続する可能性は飛躍的に上がるというもの。
「……ちなみに、これは後学のために聞きたいのですが……お、おデートは、どの程度の頻度で?」
「月一!」
「……! そんなに……少なく? いえ、大学生活で忙しいですし……それくらいですか……」
「まぁ少ないって思いますよねー。でも私はこのくらいの塩梅が好きなんですよー! といっても忙しいってこともないですよ? 昼過ぎに電話すれば、会おうと思った時に会えますし。だから実際には……割と頻繁に会ってますね! それもデートに含めると、ほぼ毎日? いやでも一週間会わないことも普通にあるし……だから、不定期? としか言い様がないですね!」
「あら、そうなんですか……でも、そうですわよね。会いたいと思った時に会う……それが健全だと思います。変な義務感があっても困りますから」
「! はいっ! うちも、ほんとにそう思いますっ!!」
「──! ……ふふ。それで? 四弓さんは、午後……もしや、会いたいと?」
よくわかんないけど、委員長はくすっと微笑んで聞いてきた。
わぁ……なんか今のすっごく、友達っぽい掛け合いだった……それが嬉しいのもあるけど、数日ぶりに先輩と会える嬉しさも込めて答える。
「はいっ! そりゃあもう!」
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