友達作り② 同級生に告白された!


 桜は散った。春は「あっ」という間に過ぎ去った。

 雨が降り続く。服の裏がじめーっとするイヤーな季節。


 でも、放課後の体育館裏ではイイ感じ。ちょっとドキドキしてきた……。


四弓しゆみさん……好きですっ! 俺と、付き合ってください……っ!」


 息が詰まる。やっぱりドキドキしてきた。

 わたし、いま、青春……してるようです。


『…………っ』


 彼は田中くん。最敬礼のお辞儀で、交際許可の握手を求めてくる。


 品定め開始。さっぱりとした黒髪が似合うサッカー部員。

 素朴で活発で笑顔が可愛くて……とにかく普通にイイ人。好ましい人柄。


 そして、私とは中一の頃から同じクラスメイト。割と奇跡的な確率だ。もしかして、それで運命とか感じちゃってくれてたんだろうか? でも……うーん……。


「──……ごめんなさい。もしよければ、これからも友達でいてね?」

「っ──、──……そっ、か。はは! 分かったよ。なんかごめんな?」

「ううん」


 ちょっと気まずい。かなり気まずい。

 だから話題を出そう。でも何を? 頭の中が真っ白だ。断った罪悪感が行ったり来たり。


「──あのね……私、今ちょっと交際とか、そういうの、受け付けてなくて……」

「えっ……そうなの? なん──って、聞いちゃダメか。ごめん、今のナシで!」

「はは、ありがと! でも聞いてほしくなかったら、こんな話はしてないよー?」

「……じゃあ、俺が振られた理由? かは分かんないけど……できれば聞きたいなー? って!」


 ちらっ? ちらっ? と、わざとらしくニヤけて聞いてくる。

 あー、逆に気を使われた。やっぱり彼はイイ人だ。あなたならきっと素敵な人と巡り会える。なんなら私が紹介する。この学校には身も心も美少女なベストスリーがいるじゃろ? 好きなのを選びなさい。人柄博士がひとりプレゼンしてやろう。


「うーん……って感じ」

「え……つ、付き合ってたこと、あるの!?」

「あるよー? でも思ってたのと全然ちがう対応されて、なんかね~。もう……すぐだよ、すぐ! 超速攻で別れた!」

「……──」

「きっと田中くんなら大丈夫なんだろうけど……ごめん。なんか、まだ怖くて」

「!」

「だから、もうずーっと友達のままのほうが気楽かな~? って。まぁ大学生になったら、私と田中くんがそういう仲になることもあるかもだしぃ? ──って、まった、なんかこれキープ発言みたい!? ごめん今のナシでッ!!」


 かなり正直に打ち明けた。

 ちょっと失言したけど。ああもう、一言多いのは禁止っ!


 さて。

 これで疎遠になるなら、そういうことだ。

 これで友達関係が続くなら、うれしいことだ。


 できれば後者がいい。前者だと……ちょっと寂しくなる。

 ああ、この人は私に友情なんて感じてなくて、異性の下心しか持ってなかったのかな~? って。もっと言うと────この人は私のことを、ひとりの異性として見ていただけで……ひとりの人間としては、あまり友好関係を作りたくなかったのかなー? などと。


 そんなことを、思ってしまうのです。


「……なら、まぁ、期待はしないでおくよ」

「うん! そうして!」

「で……これからも友達でいよう。もちろんイイ友達でね!」

「────」


 言われたことは、超うれしい。とびっきりの笑顔で言われた。

 ただ、ちょっと違和感。なんかめっちゃ気を使われた感じがするんですけど? なんだろう。まさか恋愛がらみで重い過去があると思われた? 別にそこまで深刻なアレはナッシングなんですけど……もしかして勘違いさせてる? ……まぁ別にそれでもいいか。優しくしてくれるならそのままに……って、あ。これは悪い女だ。私。


「あ……ありがとう。ほらだってこういうの、ちょっと気まずくなって、友達じゃいられなくなる流れでしょ~?」

「そ、そうだね……」

「その点、田中くんは勇気あるよね! 気まずくなるの嫌で二の足踏んだりとかなかったの!? 私はあるよ!」

「──……この六年間、今日までずっと……踏んでたよ」


 ……お、おう……、────えっ?


「はは! 一目惚れでした!」


 彼は後頭部をかきながら、ぺかーっと太陽のような笑顔を向けてくる。


 思わず胸の中で拳を作る。腕が震える。

 私は、ちょっと怖いっていう、その程度の怯えで……とても素晴らしい人を、逃がしたかもしれない。


 でも構わない。もう決めたこと。

 私には私のプランがある。それに彼との友情が続くなら、いつかそれが恋に変わる将来チャンスもある。それこそ大学生くらいに!


「……──て、照れるな~?」

「はは! 振られた仕返し! じゃ、また同じクラスでね!」


 私、今どんな顔してる?

 ちょっと勝ち誇ったような田中くんの横顔を見るに……たぶん、赤くなってたんだろうなぁ。


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