2話「試練の山」(1)

「ジャック、起きて。もう少しで着くから」

「うぅ?」


村を出てから二日後。俺とリーシャは馬車の荷台に載っていた。

いつの間にか疲れて寝ていた俺はリーシャに肩を揺すられて、目を覚ます。


「もう、着いたのか?」

「ここで止めてください」


リーシャがそう言うと、馬車が道の途中で止まる。俺とリーシャは馬車から降りるが、辺りは広大な草原だけで他に何もない。


「ここまで乗せてくれて、ありがとう」


リーシャがお金の入った小さな袋を渡しながらそう言うと、馬車を運転していたお爺さんは麦わら帽子を取り、ニッコリとした笑みを見せた。


「いえいえ、こちらこそ。民を守ってくださる剣士様のお役に立てて何よりです。それではお気をつけて」


そう言って、馬車は道を引き返して去って行った。


「ところでリーシャ、試練を受けられる場所ってどこなんだ?」

「あそこだよ」


リーシャは小声で前方に指を指す。その先には全体が真っ赤に染まった、気味の悪い大きな山が見えた。


「あそこはデスマウンテンと呼ばれる火山よ」

「デスマウンテン?」


リーシャはその火山に指を差しながら、淡々と説明をする。


「そこで丁度、今から剣士になる為の試練があるから。試練の内容は私もよくわからないけど、結構厳しい筈よ。ジャックはまだ素人だからとりあえず無理はしない事」

「!?」


リーシャがいきなりたくさん喋った。俺はその様子にちょっとだけ驚き、後退りをする。


「う、うん、わかった。本当にありがとう。いろいろ手伝ってくれて」


リーシャは相変わらず無表情のまま、火山に視線を向けたまま、さらに喋り続ける。


「山に試練を管理している人がいるからその人に声をかけてみて。その人に私の名前を伝えれば試練を受けられる筈だから。私はここで待ってるから、とりあえず...が、頑張れ...」

「う、うん」


リーシャは歯を強く噛み締め、眉間にシワを寄せて自分を睨みつけるような表情でそう小声で言ってきた。


(なんだ、この引きつった顔は!?)


リーシャは表情を作るのが苦手なのかもしれない。とにかくずっと真面目な顔と態度。表情が硬いままで、微笑み一つ見せてくれない。


そして俺はリーシャと一旦別れて、山に向かって1人で歩いていく。


(試練を受けられるってのはわかったけど、どんな試練かわからないから不安しかない。だけどとりあえずやってみるしかない)


そして俺はたった一人、大きな灰色の石が無数に転がっている道をひたすら歩いて行く。


(なんて酷い道だ。それにこの周辺の地域は草や木がまったく生えていない。少なくとも人間が住める環境でない事が一目でよくわかる)



————-



リーシャと別れてからから約三十分後。なんとか自力でデスマウンテンの麓まで辿り着く。


山脈の入り口まで来ると、黒く焦げたように脆くなった木製の看板が地面に突き刺さっている。其処には掠れた文字で【デス・マウンテン】と書かれていた。


「ここが山脈の入り口か……」


山道はかなり細く、人が一人通れるぐらいの道幅しかない。

それに鉄を溶かしたような焦げた匂いもする。


しかも山の道はかなりの急斜面で、角の尖った大きな岩がゴロゴロと沢山転がっている。


(取りあえず、登って行ってみるしかないか)


螺旋状にグニャグニャと、うねっている真っ赤な山道をひたすら歩いて登って行く。


上に行けば行くほど空気が段々と薄くなり、呼吸しづらくなってくる。

そのうえ、標高が段々と高くなっていくに連れて道幅が狭くなる。


山道には赤い色に染まった岩が沢山転がっており、上るのがとても大変だ。

慎重に歩いて行かないと転んで大怪我をしてしまう。


(なんて険しい山道だ。だけど、これぐらいでへばっていたら駄目だ。何が何でも絶対に試練の場所までたどり着いてやる)


途中、道から外れた至る所に、様々な生物の頭蓋骨や、体の骨があちらこちらに散らばっていた。よく見ると、人間の骨らしき物も転がっている。


(なんだ、この骨の山は……)


まさにデス・マウンテンという名前に相応しい光景が目の前に広がっていて、自分は固唾を飲んだ。


(こんなところに長くいたら窒息死してしまいそうだ)


それに段々と酸素も薄くなってきている気がする。


(こんな環境の中で行われる試練というのは一体どういうものなのか。まったく想像すらつかない)


そして約三時間後、俺は息を切らしながらなんとか中間地点を示す看板の場所まで登って来た。


(はあはあ……試練の場所にはまだつかないのか?)


この山の付近一帯には水も自然の緑も一切見当たらない。

所々に巨大な茶色い岩と、真っ赤な土や石ころが広がっているだけ。


山道の途中、土の中から少量の真っ赤なドロドロとした溶岩が、外部へと溢れ出ていた。

この山の光景は、まさに地獄そのものだった。


俺は辺りの光景を気にしないようにひたすら山道を必死に歩いて登っていく。


山道を歩き始めてから約一時間後。

ふと山の上を見上げると、山道の途中に大きな赤い旗と人影が見えた。

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