第22話「真の敵」

「やっ……た……!」

「お見事だったわね? 札が室内を燃やさせない力を発揮して炎が妖怪だけを狙えたところにも色々と称賛はあるんだけど良いわ。取り敢えず妖怪は倒せたじゃないのよ」

「う、うん……!」


 理穂から溢れた安心感が抱けたような笑みは私にも十分すぎる気持ちとして伝わった。何せ理穂は立ち向かえたのだから、これから受ける依頼でも同じことが出来ると信じている。


 今回は札を使用して妖怪退治を決行したことでスプリンクラーですら反応しなかった。部屋が濡れるだけでも大きく後始末は大変だったと思われる。だから、妖怪退治が理由でも効率良く遂行することを目指したいと心に教訓として留めた。


「それじゃあ依頼人のところに戻って報告しようかしら? きっと喜んでくれるはずよ?」

「分かった!」


 そんな感じで私たちは話を伺った部屋に戻った。そこで私たちが目撃した光景は凄まじく悲惨で心がへし折られるような衝撃を与えられる。


「今戻りましたぁ~!」

「もう妖怪から受ける被害は問題——え?」


 私たちが話を伺った部屋に戻ると生臭い血の匂いが鼻に刺す。さらに部屋が真っ赤を彩るような染まり方が見て分かった。


「——血?」

「きゃぁぁぁあああ⁉」


 すると、理穂が悲鳴を上げた瞬間に霊力が背後から感じられた。それに早く気付いた私は理穂を庇って前に立つ。


「もう遅いだろぉ!」

「ぶぅっ!?」


 私が強烈な一撃を腹部に食らって理穂を巻き添えて吹っ飛ばされた。直撃させられた私は大きくダメージを負ってしまう。理穂は私に巻き込まれて軽く吹っ飛ばされてしまうが、すぐに立ち上がる余裕は残っていた。理穂が立ち上がって前を見た時に視界が捉えた一人の女性を即座に警戒して防御態勢を取る。しかし、攻撃が来ることはなかった。


「だ、誰……⁉」

「私は依頼されてとある塾の講師を殺すために来た。すでに依頼は達成されたが、本来の殺害手段を破ったお前たちを片付けてから帰ろうと思ったのよ」

「あれはお前が隠した妖怪だったのか⁉ 何で妖怪を隠して殺そうと思ったの?」

「だから、依頼されたから殺害するための罠を仕掛けたんでしょ? それよりも連れが伸びちゃって戦えるのはお前だけだな?」

「う、嘘っ⁉」


 肝心の私が先に行動不能を強いられてしまう状況下が作られてしまう。理穂は交戦が挑めそうな奴が自分だけだと知ると焦りが生じる。

 妖怪を相手するだけなら勝利にも希望が持てる話だが、相手は人間で凄いベテランを思わせる実力が窺えて侮れない状況に陥る。これだと呆気なく殺される可能性が理穂を恐れさせる。


 そんな中で理穂は交戦を強いられるが、今は受け入れられる状況じゃなかった。それが理由で交戦する態勢が取れない。自分が戦うしかない状況を受け入れる勇気が持てないせいで相手から向かって来る展開を招く。


「行くよ?」

「——はっ⁉」


 相手の一歩が踏み込まれる。それは理穂でもちゃんと取られられていた。しかし、恐怖が内心を支配して行動できなかった。

 一気に迫って来る敵から咄嗟の防御態勢を取るが、それでも裏を読まれて攻撃が真面に決まる。防御する箇所と見せ掛けられた時に咄嗟の変更が間に合わない。防御が遅れて腹部を強打されて大きなダメージを受けてしまう。


「ぶぅっ!?」

「ほう? 今のも回避できない訳か? これはチャンスだよな?」

「ゲホッ……ゲホッ⁉ ど、どうしようぉ……」


 理穂は迷った。ここで立ち向かう勇気を出せない時点で勝利するなんて無理な無理だと思っていた。それを覆す展開を迎える奇跡が起こることを願った。


「お願いだから起きてよぉ。珠美ちゃんしか倒せないんだからぁ……」

「おいおい。お前は戦わないのか? それだと巫女装束を着ている意味がないかもな? その巫女装束は【清原神社】のところで着られる奴だろ? 清原の巫女が戦えないとは堕ちたもんだなぁ?」

「そ、そんなぁ……」


 私と同じ巫女装束を着衣している事実を後悔した理穂は早く起きて欲しいと願う。しかし、一向に起きない現実を前に再び攻撃が仕掛けられる。


「次で終わらせるわ?」

「こ、来ないでぇ……!」

「いやいや、行くしかないでしょ!」

「ひぃっ!?」


 そんな風に宣言された上で相手は接近して来る。攻撃を直撃が可能になる距離を詰めて来た相手が拳を振るって繰り出す。もう駄目だと思って目を閉じた瞬間に奇跡は一度だけ起こってくれた。


「ふっ! まさかお前が起き上がれるなんて思わなかった!」

「——えっ?」


 目を開いた先に映った光景は驚愕だった。転がって倒れていたはずの私が理穂に向けられた攻撃を防いでいる姿が窺わせる。

 私は相手が振るった拳をギリギリで手首を掴んで止めていた。これは起き上がって即座に出来るようなことでもない。それを目前でやれてしまうところは本当に頼れる人だと理穂は思わされた。


「理穂は殺させない。それと私は殺されない」

「何と言おうが勝手だけど、口だけで実現できるほど甘くないよ?」

「そうでしょうね? けど、実現させて見せないとお母さんに顔向け出来ないんだからね!」

「なっ⁉」


 シャキン!


「この刀で斬られたいかしら? 私の霊術でいつでも刀が手元に持って来れるのよ。これで貴方の首を撥ねてあげても良いわ。どうする?」

「ちっ。さすが清原の巫女は違うみたい。だけど、撥ねさせる訳ないだろぉ!」


 相手は即座に空いた方の掌から空気砲を放つ。それは溜め込まないで少威力で放たれた。それが私に直撃して相手を解放させる隙が生じた。

 相手が出来た隙を利用して後退した。後方に距離を取って私と対峙した状況を作った上で交戦が激化を予測させる状況が窺えた。


「それが貴方の異術ね? どうやら空気砲を放って攻撃する異術を駆使して戦うのかしら? それなら攻略は容易いかも知れないわ!」

「それはどうかなぁ!」


 相手が掌を集中させて強力な空気砲を放つ。それは避けてしまえば理穂に直撃する。

 理穂が置かれた現状は即座に回避できる状態じゃない。それが理由で私は正面から受け切るしかないと判断した。


 ドカーン!


「はっはっは! やっぱ仲間は見捨てられなかったんだぁ? 無様に直撃したじゃん! これで私の勝率が上がったわ!」

「——ぐっ。防御手段が乏しいせいで受ける他に守れる方法がなかったわ……」


(お父さんが結界術を取得した方が良い理由が少し分かった気がする。こんな事態を迎えるなら取得は目指して置けば良かったわ)


 さっき程度の攻撃ならギリギリで耐えられるかも知れないが、あれが【暗黒閃光】だった場合は死んでいた気がした。こんな事態に対応できる防御策は結界術だったことに気付いて今から欲しくなって来た。しかし、結界術の取得は帰ってから取り掛かる方針を通す他にない。だから、目前の相手を倒して事件が解決させる必要性が迫られる。


「行くわよ!」

「来いよぉ!」


(一般人なら【天牙一閃】で向かえば倒せる。確実に仕留めて事件は終わらせるしか被害者が報われない。それと私たちが生き残る方法は戦闘不能状態を作ることが最善だと考えるのが普通だろう)


 そこで私は【天牙一閃】を打つ構えを取った。これは少し強いぐらいで避けられる技じゃない。だから、一瞬で蹴りを付ける決断を胸に抱いた。


「すぅぅぅ~——はぁっ——っんぅ⁉」


 びちゃっ!


「——え?」


 それは腹部に生じた痛みだった。気になって腹部を見た時に衝撃が走る。


「な、何で……?」


 腹部は何か鋭い刃物で突き刺されていた。それも背中から貫通しているみたいである。これは凄まじく恐怖を抱かせる瞬間とも言える。


「良く気付かれないで潜めた! 私が隠した妖怪はもう一匹いたんだよ? 驚いたでしょ? 随分と無様に決まっているようで嬉しいんだけど」

「く、くそぉ!?」


「あらかじめ隠して私の後ろを張っていたなんて有り得ないわ。けど、腹部が刃物で貫通されている理由とさっき気付いた妖力から確かに潜んで窺っていたみたいじゃない……)


 さらに突き刺されて気付いたことがある。私を刺した刃物は麻痺成分が盛られた可能性が秘められている。それを踏まえて私はしばらくは動けない状態が続くのは分かり切っている。


「こ、ここまでか……」


 そんな感じで死を覚悟した。この状態で覆す方法を見付け出すことは困難だと言える。それが分かっていたから自然と涙が零れた。


(それよりも理穂はどうしたのかしら? もし出来るなら助けて欲しいわ)


 そして私が打てる最終手段として理穂を戦わせる策しか残っていたなかった。だから、声を掛けて最後に頼まれてもらう決意を示した。


「お願いだから理穂ぉ! 貴方に戦ってもらわないと二人で死んでしまうわ! ここは貴方が代わりに戦うしかないんだからね! 頑張って立ち向かってぇ!」

「た、珠美ちゃん……」


(どうやら理穂は無事みたいね? でも、今の状況で理穂が戦わないと私たちは殺されてしまうわ。だから、どうか代わりにあいつを討ってくれないかしら……!)


「理穂ぉ! ——ゲホッゲホッ⁉」

「珠美ちゃん! そ、そんなぁ……」


 そうやって私が膝から崩れ落ちて意識が霞んで行く。これで麻痺効果が解けても動けないことは確定事項だと言える。


 残された可能性を託して私は意識を失った。意識が失われた後から起きた一件は私に認知されない交戦が繰り広げられると嬉しいと思った。


そして私は暗闇で自らの存在を感知した。そこは暗くて周辺が見渡せないような空間だった。


「わ、私はどこにいるんだろう……?」


 記憶が上手く掘り返せない状況下で思い出そうと頑張ってみる。けど、結局は思い出せたことなんてなかった。


 すると、そこで背後に強い霊力を感じて振り返る。振り返った先に見たものは昔の人が着ているような服装を纏った男性が不思議と笑顔で見詰めて来る。


「どうやら僕と巡り合える日が来たみたいだね? お前は本当に成長したよ」

「あ、貴方は誰……?」

「僕は清原定義。清原神社の初代神主を務めた者だ。お前の祖先だと言えば分かるかな?」

「ええっ⁉ 定義様ぁ⁉ ほ、本物ですか……?」

「もちろん。こうしてお前と話せるのも僕が加護を与えて見守っているからだよ? ずっと傍で成長と活躍を見させてもらっていた。ちゃんと僕の意思が継がれていると安心できるのはお前たちが繋いてくれたからだ」


 定義様は私たちが紡いで来た意識に感謝するような一言を送ってくれた。これは私としても嬉しいことで大きく続けて行きたいと思える瞬間だった。


 そんな気持ちが抱けた時に定義様が急に険しい表情を浮かべて今から必要だと言えることを告げた。


「そこで良く聞きなさい。珠美は次期当主に選ばれた人材としてよりも重要な話をする。それはお前が意識を失ってしまった間に戦ってもらっている親友を助けるために早く目覚めないといけない。だから、さらなる加護を受けた後で目覚めるんだ。そして戦いなさい。お前なら出来る!」

「わ、分かりました!」

「それで良い。それじゃあ加護は受けられたはずだろう。行って来なさい」

「行って来ます!」


 そんな感じで私は再び光が見える先を向かって走った。走っている途中で光は私を包み込んで意識を取り戻せた。


「はっ!」


 私の意識が戻った。その後で私に背負わされた責務を果たす必要性がある。それは私を追い詰めた相手を倒すことだった。


「くっくっく! 対抗したって無駄よ。さっきの女と同じ場所に送ってあげる」

「くぅっ⁉︎ も、もう駄目……」


(理穂が危ない……! 早く助けないと!)


 刀を握り直して立ち上がる。すると、背後から再び妖力が感じられる。背後を取られた状態は未だに変わらないらしい。

 しかし、私は新しい加護を使って妖怪から攻撃を防御する。


 バキンッ!


「その刃物は結界術を破れない。これは絶対防御を誇る異術として知られている。これなら背後でも攻撃は防げるわ!」


 結界術が攻撃を通さないで弾いたところを振り向いて即座に妖怪を斬った。中から紫色の血が飛び散って跳ねる。


 そして意識は再び正面の相手を捉えた。この一撃を放つ前に倒されたことで仕留めきれなかったが、今から絶命させる攻撃を打ち込める。


「天牙一閃!」

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