第三章「新たなる仲間の登場」
第17話「ギャルからの依頼」
私は以前に担当した一件の後で参加しなかった授業の分だけ補習を受けさせられた。補習で埋まった時間が修行に努めることを許さなかった。そこで早く補習が終わらせられるように頑張った。
学校に通う間はどんなに修行が大事でも削る必要性が求められるなら実現してしまう。それを思い知っても行かない選択は出来なかったはずだ。だから、そこまで後悔はしていない。とにかく頑張って補習を終わらせるための努力に尽くした。それが積み重なって私は補習の全てを五日間で終了させた。それに到達した瞬間が凄く嬉しくて解放された気分を持つことが出来た。
「凄いよね? 珠美は努力家として輝く女の子かも知れない!」
「そんなに褒めたって何も出て来ないよ?」
「良いに決まってんじゃん! それよりも早く教室に戻らないと授業が始まる!」
「分かったから叩かないで」
私は柚木理穂と言う女子高生ギャルと一緒に教室を目指した。理穂と昼食を取る機会などは殆どないが、今日は少し用事があって話した時から仲良くなってしまった。理穂の心情はいつも明るくて周囲を惹きつける魅了が自慢らしい。しかし、何の異術にも恵まれなかった彼女は私に抱いた興味と依頼の話をさっき聞いて来たところだった。
「ここだよ? アタシの家は新築だけど出るんだよね? 早いうちに除霊して欲しいんだよ!」
「分かった」
(凄い霊力が溢れている住居ね? きっと少なからず霊が取り憑いているわ。祓ってあげないと駄目だ)
そんな感じで私は取り敢えず家に上がらせてもらった。中は普通に綺麗で広い新築と言うイメージの強いお家だった。そこに取り憑いた悪霊が被害を及ぼす前に頼ってくれて良かったと思うばかりである。
「どんな感じなの? 夜なんて凄い音が聞こえて眠れないぐらい酷いんだよね? それで達成報酬は払わないといけない系?」
「それは取らないのが巫女の役割なの。取り敢えず悪霊はいるみたいだから今から祓って置くわ。下で座っていて待って欲しいな?」
「了解。アタシは一階で待機」
そうやって私は理穂を一階に待機させてから二階の怪しい霊力が漂う場所に向かう。
今回の一件が義廻の仕業であると踏まえて理穂に追跡機能が付いたブレスレットを腕にはめてもらって梨う。これで私が義廻に負けても理穂が助られる。理穂は見た目が可愛くて凄い満足していたみたいではめてもらうことに抵抗はなかった。
後は二階から漂う霊力の正体を暴いて祓うつもりで階段を上がった。上がって行くうちに霊力が強くなって悪霊の気配が大きく感じ取れるまでの距離に迫った。
「この部屋だな?」
そこは理穂の隣室で誰も使っていない部屋みたいだった。実際に中を入ることは許可してもらっているので、私はゆっくりと扉を開けて進んで行った。
「失礼するわ! ——んぅ⁉ こ、これは……」
部屋は暗いが奥に潜んでいる悪霊に驚愕した訳じゃない。義廻は来ていない様子だけど悪霊ならどうにでもなるから早いうちに除霊を始めたいと思った。以前みたいに後から義廻が訪れるケースも考慮して先を見据えることで最悪のパターンを削る方針が一番に徹するべき解決策だろう。とにかく除霊して理穂の安全を確保したいと行動に出た。
「この部屋から異様な霊力が感じる。ここは確か理穂の隣室だったはずだよね? きっと中に悪霊がいるかも知れない」
そんな風に感知した霊力を辿った先の部屋に入る。扉は少し固く閉ざされた感じで開けにくかったが、多少の霊力で閉ざされる理由を解いてから扉を開いた。すると、部屋の奥に一人の女性が立っていた。
「ダァレ?」
「私は巫女の責務を果たしたくて来た者だ。お前は何で美穂に憑りついた? 訳を説明できないのかな?」
「アタシノウチカラデテイケェ!」
「強い怨念が残っているわね? 一軒家が建つ前に何かあったのね? それも以前から住んでいた女性の線が高い。けど、この家はもうお前がいても良い場所じゃない! 祓わせてもらう!」
「ワ、ワタシヲオイダスノ? イ、イヤァァァアアア!?」
悪霊が異様に身体の寒気を感知するほどの冷気が放たれる。悪霊でも現象が操れる奴は俗にいる。私の入った部屋が寒帯地域ほどの温度まで下がっている点を踏まえると霊術が扱えた可能性が考えられる。
(もしかして霊術を持ちながら扱い方を知らないうちに死んで行った人物ね? それも冷気を放出する類だったはず。しかし、死んでいるならどうしようもないわ! ここで祓う選択肢はない!)
すぐに護霊刀を手元に転移させて構える。そして即座に構えた護霊刀で【天牙一閃】。放つ。
「はぁっ!」
尋常じゃない速度で距離を詰めて悪霊が本格的な攻撃を仕掛ける前に斬った。刃が悪霊の身体を両断した後で周辺の冷気が収まって常温に戻る。これで悪霊はいなくなって残る仕事は理穂の安全確認だった。この状況を作り出した人物が存在するかも知れない可能性を考慮して理穂がいる一階に降りた。
すると、そこで目撃したのはスマホを弄りながら何気ない様子で友達とやり取りをしていた理穂の姿があった。
「無事だったわね? 良かったぁ」
「え? アタシは別にどうってことないんだけど? そんなに深刻だったかな? それだと困るんだけどぉ」
「大丈夫よ。悪霊はいたけど、私が祓っておいたわ。後は安心して暮らせると思うよ?」
「本当に⁉︎ マジでありがとう! 本当は霊媒師に頼ろうと思っていたんだけど、金がなくて雇えなかったんだ。そこで珠美が幽霊でも倒せるとか結花に話を聞いて頼ったんだよねぇ。本当に感謝してるわ!」
「はぁ。困っている人を助けるのが巫女の役目だから、あまり気にしないで今後も頼ってくれても良いからね?」
「その時はまた呼ぶからよろしく!」
そうやって私は簡単にも思える仕事をこなした。実際に大した体力の消耗にもならなかった点が大きく私の修行とも言えないだけの労力でしかないことを思い知らされる。だけど、困った人の笑顔は救った時の達成感を味合わせてくれるから巫女の仕事は好きだった。
そして帰宅した後の家で電斗が筋トレに励む姿が見られた。そこに私も今から加わることに決めて服装を着替えた。
「すぐに入るね!」
「大丈夫か? 仕事があったんだろ? 身体を休めなくても明日は学校に行けるのかよ?」
「もちろん。トレーニングだけで疲労困憊になる訳がないでしょ?」
「疲労困憊とは言ってない。さすがに鍛えて来た肉体は簡単に崩れないからな」
「それが分かっていたなら心配しないでよねぇ!」
「はいはい。早くしないと飯の時間だ。静香さんは凄い時間にうるさいから守らないと怒鳴られる心配がある」
「それはちゃんと分かっているから問題ないわ!」
そんな感じで電斗の心配はいらないと言い聞かせて修行を始めた。トレーニングは指定された時間内に終わってちゃんと夕食を迎えることが出来た。実際に私は時間に遅れることはしない意識を常に持ち合わせて修行に励んでいる。だから、少しでも間に合うと確信が持てる時はトレーニングを欠かさないように決意していた。しかし、それが間に合わなくなった時が大変だと電斗は言う。そこが電斗の杞憂だと私内心で思っていたが、いつか無茶して身体を壊すかも知れないと気遣う意味で修行の時は見てくれているらしい。その気持ちは分からなくもないが、それで修行が疎かになる事態は避けたい。
次の日。昨日の放課後に依頼して来た理穂が真っ先に挨拶を交わすための声を掛ける。私は特に拒むこともない返事を送ると理穂は除霊の後からぐっすり眠れるようになったと報告をもらう。それが私に歓喜を与えて今後の活動に精が出る瞬間だと思えた。
「今度はアタシが珠美の家に行っちゃ駄目なのぉ? 凄い遊びに行きたいんだけどぉ!」
「さすがに無理があるよぉ。うちは他人が上がることだけは禁止しているからごめんね?」
「え~。そんなに厳しいご両親なの? それはアタシの時と変わらないなぁ。けど、珠美は喫茶店でコーヒーとか飲みたくない? アタシが連れて行ってあげるよ!」
「ごめん。普段は放課後だと修行で忙しいんだ。だから、放課後は誰とも遊べないんだよね?」
「そっかぁ。残念……」
理穂が断れた瞬間に表情を暗くする。その表情は凄くショックを受けているような心情が読み取れる。けど、そんな表情が浮かべられてもうちの事情は変えられないのだった。
「ま、良いや。それじゃあ学校にいる時は一緒に何かしよう? それも駄目なんて言わないよね?」
「もちろん。それで良いなら問題ない」
「やったぁ! 今日からアタシたちは友達だねぇ?」
そうやって私と友達になれたことで大喜びする姿を大いに見せて来る。それはまるで過去に友達として過ごした美佐のような存在感だった。理穂がいてくれたお陰で空きっぱなしだった傷口が少しだけ埋まって行く感じがした。
「気の毒すぎるよ。美佐ちゃんは最低な魔術師に殺されちゃうなんて……」
「うん。これも私が弱いから行けないんだ。だから、もっと強くなりたい」
「ふぅん。そうなんだぁ? それなら私にも手伝えるかも知れないな」
「その気持ちだけでも嬉しいよ。だけど、そこまでしてもらう訳にもいかない。理穂に背負わせて良い話じゃないから」
「その件なんだけど、実は隠していることがあるんだよね? 以前は除霊なんて頼んだけど、あれも自分で解決させられる話だった。私だって異術が扱えるからね?」
「え?」
そこで理穂が口にした一言は一瞬だけ耳を疑った?けど、それはきっと冗談なんだと思って冷静に対処する。
「ごめん。それは何かの冗談かな?」
そんな風に冗談半分で言ってしまったことを問い詰める。もちろん責めている訳じゃない。ただ冗談は止してもらいたいから素直に認めてもらいたかったのだ。それが今後の関係を保持するために必要だから求めた。
しかし、理穂は本気で異術を扱えるのだと続けた。そこで対峙した理穂の瞳は真剣に私と合わせて訴える感じの眼差しを送った。そして思い掛けない行動が見られる。
「いや、本当だよ。信じて欲しい。けど、何もしないで信じてもらうことだけは避けたい。でも、その話は内緒にして欲しいから誰にも見られないところで明かしちゃ駄目かな?」
「ほ、本気で言っているの?」
「うん」
真面目に理穂は答える。その回答に私は凄く困らされた。この空気は少しまずいようにも思えるけど、理穂が向けた眼差しを信じないなんて出来なかった。だから、取り敢えず確認すると言う意味でうちに連れて行った。
「お邪魔しまーす」
「どうぞ。上がって?」
「うわぁ。凄い和風だね? やっぱり、神社の管理者はこんな感じが妥当なのか?」
「まぁ、それがイメージ的にも浮かべやすいところはあるかな?」
取り敢えず理穂を私の部屋に入れた。事情はお父さんに話しているが、まだ確かではないと告げてある。しかし、それでもお父さんは家に上がることを拒むことはなかった。自分の部屋だけなら上げても良いと許可をくれた。やはり、友達を連れて来られない理由を作った自分にも少しぐらいの猶予は与えたい思いで今日だけは修行を遅らせることを了承してもらえた。
「ここが私の部屋だよ? 普通に他の違う感じだから驚いだでしょ?」
「そうだなぁ? 珠美の部屋も和室みたいなイメージがあったかも知れない。ま、そこまで気にする必要性もないけどね?」
「それじゃあ早速だけど、異術の方を見せてもらえるかな? それが確かめたくて上げる許可をもらったの。もし、本当は異術を持っていなくても別に責めることはしない。けど、今後はそんなら嘘は付かないで欲しい」
「見せれば良いんだろ? ここなら安心して見せられるよ」
そうやって理穂は続けると目前で異術の披露を始めた。そこで驚愕の姿が目撃してしまうことを私は思いらされる。
「う、嘘……⁉︎」
「どうよ? この姿は正直に言わせてもらうと周囲に知られたくない事実なんだよね?」
少し本性に対して嫌悪を抱いている感じの一言が吐かれると私は心当たりを尋ねる。
「これって【九尾】だよね? 日本の神話にも登場する大妖怪の異術が理穂にあるなんて……」
「私は妖怪だったのかと思ってずっと嫌だった。けど、珠美はどう思う?」
「いや、実際に妖怪の力を扱える人間も存在するから変だとは言えない。これは妖術の類かも知れない」
「へぇ? そんな名称があるなんて思わなかったな」
「とにかく異術よ件は内緒にする。でも、こんなことを聞くのも悪いけど、一緒に修行を積んで戦って欲しいなんて希望は聞いてくれないのかな?」
「そんな経験はないからちょっと怖いけど、有効活用が出来ない力を持ち続けるよりも扱えた方が良いとは思う。だから、少しだけ力の使い方が分かった後で決めても良いかな?」
「もちろん! それじゃあお父さんにも話して良いの?」
「うん」
理穂が明かしてくれた事実は今後の戦力に繋がると信じてお父さんと相談した。すると、今後は一緒に修行することを許してくれた。それどころか是非とも同じ環境で修行に励んでもらえることが何よりも良いと理穂に言った。それを理穂は受け入れて今日から修行を共にするのだった。
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