第二章「囚われた少年の解放」
第9話「集落長の依頼」
私は大規模だった事件の後で集まったメンバーたちが纏めてパーティーを開いて祝った。今回は大した内容でもなかったなんてお父さんが口を滑らせる。しかし、実際に全員のメンバーが同じ意見を述べて気持ちの共有を交わした。
その日は深夜の零時までパーティーは続いた。楽典さんの本性がパーティー現場を通して晒されることはなかったが、実際はお父さんに隠してしまう理由が良く分かっていた時点で教えられなかった後悔が抱かれる。
そして帰宅した後に私から入浴を済ませた。明日は予定に食い違いがあって事前から許可してもらった休暇を取り消す事態を迎えた。しかし、私としてはそこまで気にすることもなくて登校した後は親友と共に過ごしたいと思った。
それから三ヶ月間が経過した。この期間は以前の四人が修行を受けるために来た時が少し多く見られた。楽典さんは特に鍛える意味で訪れた訳じゃないことを踏まえて他の人たちが目的を達成させられるように努めた。
もちろん私は双羽と競い合う中で強くなることを達成するやる気が鍛錬で溜まる疲労を過激化させた。しかし、その分だけ以前よりも強化されたことは確かだった。
そんな日々が続いた後の月を迎えた頃に楽典さんがお父さんの話し合いの末に双羽と電斗を連れて呪縛が今でも残る集落を訪問することが決まった。未だに楽典さんの本性を伝えられていたなかった私は少し嫌に思える気持ちを抑えながら集落の存在する場所に向かった。
そこまでは四人で三日を費やして移動する手間を掛けて到着を目指した。途中で心霊現象による被害の出ると言われる場所に寄り道して速やかに解決させる成果を残した。その経験が今度の一件で役に立つだろうと真面すぎる意見を述べた楽典さんが凄く不気味に感じた。実際に実力は十分を極めるレベルに達しているにも関わらず、私の前で見せた言動は戦慄させてしまう結果を招いていた。その点が未だに抜け切れなくてお父さんのいない間の不安が私を蝕んでいるようだった。しかし、それで挫けてしまうなんて巫女としてあってはならないことだと言い聞かせて目的地に到着する。
「着いたよ? ここが例の集落だ。ここで俺たちが目的とする一件を解決して帰ろうと思う」
「え? でも、どこにも人がいない様子からして集落なんてどこにあるの?」
「それは特殊な手段で別空間にある。いわゆる集落を収めるだけの空間を形成する上位異術による作用で普段は見えないところに隠れているんだ。今から集落が収められた空間に転移する」
それだけ説明が施された後で私たちは謎の石碑を前に立たされた。その場所に踏み入れるためには石碑の前で正しい順序を守って儀式を開始する必要性があるらしい。それを楽典さんはやって見せた。
「この石碑に隠された大いなる力の下で我々を聖なる大地の存在する場所まで転移させよ!」
謎の詠唱が終わった瞬間に石碑が光った。そして膨大とも言える不思議なエネルギーが私たちを包んで一瞬で目的の場所に移した。
「どうやら転移は成功したようだな?」
「ここが目的地でもある集落? 凄い広いじゃん!」
(さっきのエネルギーはなんだったんだろう? 凄く神秘的で私の感じたことがないエネルギーだった。きっと霊力や妖力と同じ異術を行使するためのエネルギーだと推測できる。しかし、それの特定は難しい)
そんな疑問を残しながらも、楽典さんが先頭に立って道を案内してくれる。迷わないで行けると言うことは一度でも来た経験があるんだと推測が脳裏に浮かんだ。
そしてしばらく歩いた先で見た光景は非常に異様としか言いようがなかった。それを目前にした時の私たちに向けて楽典さんは一言だけ注意する。
「この先は神聖なる領域だ。あまり勝手に行動を起こさないでくれよ?」
「それってどう言う意味?」
「さっき転移した時に感じたエネルギーが何の異術に使われるのか知っているか? あれは世間でも一部の術師だけが扱える至上異術になる。その名を【神術】と呼称した」
「えっ⁉︎ 神術って伝説の⁉︎」
「信じられない……。そんな異術が存在したなんて……」
この世は幾つかの異術が存在する。それは私の駆使する【霊術】や義廻のような【魔術】などが存在しているのと同じである。その中でも【神術】はまさに奇跡の異術と呼ばれている。
「いわゆる【空間構築】と呼ばれる大規模に作用が及ぶ異術だ。これは以前から俺が直に接触して研究を重ねた異術の一つに当たる。しかし、実際に当人は過去の偉人として名を残した人物らしい。つまり、この集落は先祖が生み出した空間と言うことになる」
「す、凄い……!」
そこに広がる光景はまさに転移する前の敷地では考えられないぐらいの範囲を占めている。空間に新たな領土を作る異術と言うのは本当に凄いんだと思われされる。そう思わせるだけの成果が目前に広がっていた。
「取り敢えず今から行くところが集落長の住居だ。そこで今回の件に関する話を聞いてもらう予定である。しっかり解決に向けて行動しないと駄目だからな?」
「分かった。師匠の期待に応えられるように頑張るね!」
「今回は凄い一件を抱えるかも知れない。それに対して上等な成果を見出さないといけないな」
「私も頑張らなくちゃ!」
各自で抱いた決心は異なっていた。しかし、解決させないといけない問題は同じであることから協力が大事になって来る。そこを考慮した上で私は動きたいと思う。
そんな風に考えているが、実際に今回の一件は特殊すぎる点があった。これから起こることは楽典さんが事前に企てた話に協力するための補佐でしかないと言える。それは集落長から聞かされる依頼内容が大きく関わっていた。
「例の一件を担当している楽典だ。集落長に会わせてくれないか?」
「どうぞ中にお入りください!」
「失礼するよ」
そうやって入る許可を得た後で私たちは揃ってお邪魔させてもらった。そこで迎えてくれた人たちは最近の流行りを取り入れた服装ではないことは見た目で分かる。これが一般社会から一脱した存在と言う訳である。
「よくぞ来てくれた。わしらのためにいつもすまんな」
「別に大したことでもない。それよりも以前から依頼されていた件をこの三人にも話してもらいたい。こいつらも協力してもらうまたの人員とした連れて来たんだ。構わないだろ?」
「もちろんだ。それじゃあ一連の話を聞いてくれたえ」
そんな感じで集落長と対面した時に依頼で受ける予定での一件を話してもらった。
内容は千年前から生き永らえた忌子と称された少年の殺害だった。実際に殺害の執行は千年前に言い渡された話だっだが、何と少年はいつの日か訪問して来た謎の呪術師から不老不死となる呪いを受けて殺せなかったらしい。その呪印を解いて殺害を実行して欲しいと言う依頼が私たちの受ける依頼だと聞いた。しかし、私はそれを受けたくはなかった。何故なら殺すことに関して抵抗があるからである。それなら私ではなくて違う人に受け持ってもらえることを希望したいと思った。あまり、一人を殺して欲しいと言った希望は聞き入れたくない。私の強い希望では誰も死ぬことのない末路を辿ってほしいのだ。必要以上に殺すなんてことはしなくて良いと考えている。だから、私は連れて来ないで欲しかった。
「話は理解してもらったと思う。そこで否定したい者は名乗りでなさい」
「はい。私は抜けたい。だって人を殺して不快になるなら携わらない方が自分のためだから。そこに強要させる意思があっても私の気持ちは変わらない。だから、貴方たちで勝手にやれば良い」
「君らしいな? それなら抜けても良いが、後で協力して欲しくなる時が来る。その時は参戦しろ」
「場合による」
「ふっ。まぁ、良いだろう。他は大丈夫か?」
楽典さんが双羽と電斗を見返しながら尋ねる。すると、そこで電斗が楽典さんに意見する。それは私と同じ考え方で捉えた意見だった。
「申し訳ないが、人を殺すために術師をしている訳じゃない。そこが考慮されていないなら、今後の活動で貴方に付いて行かない。そこにちゃんと意義を持たせない理由が提示された時は仕方がないと思う他ない。しかし、こちらは殺すと言う概念に抵抗を持つ理由としては現代におけるルールを違反しない程度の活動を心掛けて来た時から備えた思考なんだ。そこを意とも簡単に崩されては困る」
「ほう? 君の意見は素晴らしいが、俺たちは殺す必要性が求められた時にどれだけ躊躇しないで執行できるかも欠かせないと思うんだ。まだ分からなくても良いけど、いずれ戦争が政府の手で蘇らされた場合は殺せないと嘆くのか? 今から慣れて置く方が殺したい時に執行しやすくなる。それに俺は世間のルールと掛け離れた存在だ。そこで現代の甘いルールを持ち込まないでくれ。聞いている俺が不快になる」
「くっ! それだから争いが終わらないんだよ。だが、良い。その代わりに今回は退かせてもらう」
「分かった。けど、腹は括って置くと後の結末に順応しやすいだろう。残るは双羽だけだよ? 早く決めてくれないか?」
「私は殺す側よりも見学だけしたい。どうやって不老不死が解かれるのか知りたいと思って殺す前の段階を見るじゃあ駄目かな? やっぱ殺害を実行するなら無抵抗は対象外だよね? けど、それが一般と離れた人からの依頼なら師匠が手を下して? お願いします」
「分かった。それで良いだろう」
楽典さんが連れて来た三人は全員が一致で殺さない選択をした。それに楽典さんは特に思い悩む様子は窺えなかったところが少し今後の関係性を続けて行く上で不安だった。それ以前に千年も殺せなかった人間の始末をどうやって遂行するのか疑問に思う。取り敢えず呪術が行使されて肉体が幾ら失われても再生する特異体質はどんな異術を用いても破れなかったらしい。この理屈に興味を抱いて研究を重ねて来た楽典さんでも解明は出来なかったと言う。そこで試しに私たちを少年のところまで案内してもらった。
「本当に会わないと駄目なの? 殺す予定の人間と会いたくないわ」
「殺さなくても良いことを条件に呪術とはどんな効果がもたらされているのかぐらいは見て置いた方良いだろう。今後もこんな状況に立ち会う可能性は高い」
「俺は別に構わない。それよりも呪術で生かされて来た肉体の状態を見たい。そこから謎の解明に繋げられるかも知れない」
「電斗は研究員じゃないんだから興味を持たないでよぉ」
「仕方がないだろ。色々と異術は直に見て知りたいんだからさ」
電斗は呪術に関する知識は少しだけ持っているらしい。やはり、異術の中でも特に異質で特殊効果をもたらすところに関心が向いてしまうのだと本人は発言する。しかし、それを聞いた私も呪術は未だに見たことがない点に気付いて関心を持った。そこで呪術を用いられた人間に影響する効果の実態を確認したいと私の内心でも思えた時に同行を決める。
(どんな人なんだろう? 千年も生きて来たにも関わらず、殺害を求められると言うことは自由が保証される訳じゃないと予測できる。千年の生存は監禁されていたらしいからそこまで真面に話せない可能性が考えられるなぁ~)
私たちが案内される場所まで五時間を有して到着する。そこで私たちが見た光景は明らかに不自然と言える大きな檻が設置されていた。
「ここが例の少年が囚われている監獄です。通常なら集落で定められた掟に逆らった者は全員が死亡するまで過ごすための場所になっています」
「まだ彼は地下の最下層に閉じ込められているのか?」
「はい。もちろんです。しかし、毎度のように天気が変わる現象を引き出して集落の環境を破壊する行動に出ます」
「囚われている奴が異術を施せるのかな? 単純に自然が起こしているとは考えられないの?」
「それはないでしょう。この集落は非常に穏やかな天候に恵まれているため、普段は奴が異術を発動した後に荒れる模様が窺えます。実際に奴の異術は発動している間は天力が周囲の村人が感知できるんです。だから、天候の不具合は奴の仕業で決まっているでしょう」
「それは俺も確認した。実際の少年は意識が戻った途端に異術を発動させて天候を荒らすところは実物を見せてもらった。さすがに凄まじい天力を授かっていることは確かだけど、彼は何も飲食しないで生きて来たが故に意識はあっても言葉を交わせない状態にある。つまり、異術の解除または不発を指示する言葉が分からない。だから、殺して葬った方が良いと決断が下ったんだ。本当に困りますね?」
(天候を変えてしまう異術か? それは凄い広範囲に及ぶ異術なら相当の量を保有する必要性がある。ならば、少年を飲食させて復活が出来れば戦力になるはずだよね?)
「そこは敢えて機能させる方針は駄目なんですか? だって天候が自在に変えられるなら利用する他に有効活用なんて出来ないじゃん。殺すのは勿体ない気がしてならない」
「駄目です。こいつは千年前に囚われた理由は沢山の村人を惨殺した犯人だから解放させることは出来ません。きっと解放された瞬間に村人たちが殺される可能性が高いです。そのリスクを負ってまで解放は出来ないでしょう」
「ま、マジかよ。凄い悪党じゃん」
「取り敢えず殺したい理由は分かったはずだ。捕らえる時も有力な術師が三人で総力を尽くして倒したぐらいの戦闘能力が備わっている。そいつから安全を勝ち取りたい一心で呪術の効力を無にすることが依頼内容だ。ここで奴を生かす余地はある訳がない」
楽典さんは殺すことにちゃんと理解した上で求められた結果が現在に至るみたいだ。それでも私は殺せる勇気がない。殺すことを仕方なく実行する時は死闘の中が妥当だろう。だから、殺害は楽典さんが担うことで決定だと思った。
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