天命の巫女

紅薔薇棘丸(旧名:詩星銀河)

第一巻「奇譚開幕」

序章「脅威の魔術師」

第1話「試練の始まり」

 私は少し周囲の人たちと異なった家系に誕生した。それは平安時代から存在した清原神社と言う場所に子孫の中で受け継がれた【巫女】の家系が私の異なる点だと言える。

 主に巫女は自分たちが祭る神に仕える役割が受け継がれて現在は私が次に託される予定が組まれていた。

 実際に私の家系が営んでいる巫女の役割は大きく二種類に分けられる。神職の補佐を行う祭司係と妖怪退治や除霊をメインに活動する救済係である。

 これらの中でも私は後者に該当して見習いになった時から【霊術】を扱った戦闘訓練が日々に組み込まれて来た。特に妖怪退治は害を成す自然発生した化け物と交戦して祓う行為を指す。そおで妖怪を倒す際に必須とも言える【護霊刀】の操作と霊術を扱った戦闘技能が必要だった。これらを九歳の誕生日から扱えるように修行が始まって現状は大抵の妖怪なら祓えるぐらいの巫女になっていた。しかし、私が巫女として活動が許される範囲は都内だけに絞られる。すでに一人前の巫女に相当する母の活動は全国を回るだけの範囲を任命されている。早く母みたいに一人前として認めら

れる巫女になりたかった私は周囲に意識を向けながら生活を送る習慣が身に付いていた。


 今日も昼食の時間を親友でもある須藤美佐と一緒に屋上で会話しながら食事を取って次の予鈴が鳴るまでを過ごす。今日の昼食はいつもと同じ購買部で買った唐揚げ弁当だった。それに牛乳を加えてお馴染みの食事が私のお腹を満たす。これで五時間目の授業は安泰を辿れる。


「ねぇ、最近は巫女修行の調子はどんな感じなの?」

「そりゃあ大変だよ。だってトレーニングは不可欠で体育の成績はお陰様で常にトップを維持して男子が羨んで来るぐらいだもん。男子が相手でも喧嘩は負けたことがないのが自慢できるほどに強くなっちゃったよ」

「それは少し頼もしいなぁ~。だって親友に屈強で強い子がいたとすると一緒にいる間は無敵状態ってことじゃん!」

「はぁ。呑気だなぁ~」


 私は隣で純粋に笑いながら安全が保証されているように言った美佐に呆れてしまう。そこまで巫女と言う立場を一般人に駆使することは禁じられている事情は美佐だに伝えてあったはずだ。もし、暴力なんて振るった時は神主さんに叱られることが容易に予測できる。しかし、相手が妖怪に憑りつかれていた場合は微量の霊力を直に流し込んで体外に追い出す処置は施せたりする。あるいは悪霊の場合も同様の処置で追い出せるから単体になったところを護霊刀で斬って祓うことを神主さんは教えてくれた。

 私の名前は清原珠美。見た目はどこにでもいる普通の女子高生である。それと別とも認識できる巫女の仕事は一般的に知っている奴は俗に存在する。しかし、その実態を目撃した人の割合は少数が普通だった。


「そう言えば珠美に相談があるんだ? 聞いてくれるかな?」

「んぅ? 相談って何?」

「実は私の知り合いで心霊現象に困らされている子がいてさ? 彼女は中学一年生なんだけど、霊媒師に依頼した時から様子が変なんだ。もう一ヵ月は学校に行ってないらしくて部屋に籠った状態で話も真面に聞いてくれない状況なんだよね?」

「除霊を受けたの? それで変わったなら少し怪しいかも知れないな。もしかして詐欺師の場合もある。なら、今日の放課後になった後で訪ねてみようか?」

「ありがとう! その子と凄い仲が良かったんだよね。それが引き籠って出て来ないなんて心配すぎてしょうがないわ」

「分かった。それなら私が見た方が早かったよ。その霊媒師も少し怪しいし」


 そうやって私は美佐が心配していた女の子を訪ねることを決めた。それは効果後に予定した。実際に私たちは部活動は入っていなかったので、放課後は自由に行動が出来るのである。そこで話を聞いた上で特に知って置きたかったことは例の子が悩まされていた心理現象と解決を頼まれた霊媒師の方だった。霊媒師が解決に訪れたはずが、逆に不登校が始まった時期と一致するなら絶対に何か関係しているに違いないと予測した。


 そして私が目的だった子の自宅に案内されると接近した瞬間から凄く嫌な気配が漂っていることに危険が察知できた。


「まずい! これは凄い深刻な気配だ! 早く中に入ろう!」

「ま、マジで!?」


 そんな風に私は美佐を置いて走ると後ろから追うように彼女が付いて来た。事前に母親の許可を取って家に入れる状態を整えて置いた甲斐があったと思いながら二階の部屋まで走った。しかし、そこで最後の段に足を着いた瞬間に部屋から悲鳴が聞こえた。


「うわぁぁぁあああ⁉」

「まずいわ! すぐに行かなきゃ!」


 そこで私は仕方がないので、部屋のドアをぶち破った。私が普段から鍛えた筋力なら一枚のドアがぶち破れることは簡単だった。

 それよりもドアの先で見た光景は怨念の塊が一人の女子を取り込んで力の蓄積を狙っているところである。そこを即座に霊力を込めた掌で女子に触れる。その瞬間に怨霊が取り込む寸前の女子から離れて危機を救った。


「ねぇ、大丈夫?」

「ゲホッゲホッゲホッ! あ、貴方は……?」

「私は清原珠美。貴方の親友に話を聞いて来たんだよ!」

「——はぁ」


 怨霊を彼女から離させて危険から凌がせることに成功する。駆け付けることがなかった場合の絶命が逃れようのない事態に繋がっていたなら私は絶対に後悔したかも知れない。けど、間一髪で回避に成功した時点で今回の怨霊は盾を失ったことになる。これなら私も祓いやすくなった。


「それじゃあ私が相手するわ!」


 すると、右手に一本の刀が握られて刃の先端を怨霊に向けて構える。この護霊刀が持つ効果は本来なら妖怪の退治に特化しているが、実際は怨霊でも相手が出来ることは確かだった。それを用いて目前の怨霊を祓う態勢に入る。この時点で私は護霊刀で目前に立ちはだかる怨霊が祓える状態だった。


(怨霊はすでに剥がされている。つまり、どこからでも斬り祓える……! 丸腰で隙だらけの怨霊に負ける訳がない!)


 私が一呼吸を置いて一気に間合いを詰める。そこから振りかぶって攻撃が届く範囲まで来た時を狙って斬り付けた。


「はぁっ!」


 怨霊が呻きながら両断された状態から徐々に消滅して行く。これで斬られた霊は存在を維持できなくて自然に消滅する姿が見られた。この瞬間が特に安心感を生じさせて刀を鞘に納めた。その後で憑りつかれていた子の安否を確認して無事であることが分かった。


「良かったぁ~。これで一安心だ」


 一人で安心した瞬間を噛み締めて部屋の外で様子を窺っていた美佐が駆け付けてくれる。その場に座り込んだ私の肩に手を乗せて無事を確かめて来る。私は正直に無事が伝えられると護霊刀を自宅の保管庫に転移させた。

 この時に私が握っていた護霊刀は清原家に伝わる妖怪退治に特化した武器だった。妖怪が相手なら護霊刀の切れ味が増して祓いやすくなる性質が施されていた。それが理由で妖怪が簡単に祓えるまでに至った。

 それに護霊刀が一瞬で手元から消えた理由は私の家系が相伝した【空間転移】を用いて霊力の宿った道具を転移させたからである。この霊術で移せない対象は生物である。基本は道具だけを自在に手元と保管庫を往復できる。これが私が扱える霊術になる。


 そして私は取り敢えず一階に降りて憑りつかれていた子を休ませようと思った。すると、そこで謎の男が立ち塞がる。彼は身なりからして絶対に当家と関係ない人間だと分かる。さらに彼が堂々と私を見詰めた状態でお互いに少し空いた間合いを保ちながら向かい合った。そこで私が彼の姿を一瞬で見た時に警戒心を高めて再び護霊刀を手元に転移させた。


「お前が元凶だな? どうやら怨霊を扱う霊術師なんじゃないの?」

「ふむ。少し外れだ。霊術と似ていると思えるが、多少は異なった媒体を用いて駆使する魔術が扱える」

「——はぁ? 魔術は確か悪魔が底上げをする作用が多く存在した術を指す。それも他国で人気が集まった術で知られている奴だな?」

「その通りだ。しかし、まさか僕が残した怨霊を祓うなんてやるじゃないか? けど、見た範囲で大した霊力を持ち合わせていないところが君の引き下がる選択を優先する理由になる。考え直した方が身のためだ」

「ふざけんな! 私は清原神社の巫女修行を積んで一人前が夢でもある普通の女子高生だ。それがキリスト教の信者みたいな服装で明かされても何も思わないわ!」


 私は深呼吸で整えてから刀を強く握って構える。それに対して無謀でしかない態勢を見せる男はいつでも切り捨てられる自信が持てた。しかし、その状態は単純に隙を隠せない男だと判断している訳じゃない。そこは目前の男に裏があると予測した。


 そして十分に斬る覚悟が出来た状態に仕上がった私は好きなタイミングで振り込んで行った。特に護霊刀を強く握られていた手は上げた方に少し偏っている様子が窺える。けど、その踏み込まれて自然に上げられた手元が速やかに下ろれた。狙いは相手が動く前に手首を斬って突き抜ける【天牙一閃】と言う技を解き放った。本来は迅速とも言える動作で間合いを詰めて標的の手首が回避する余地を与えない上に斬った後で抜けて行く必要性がある。これは尋常じゃない速度で斬り付けるが故に不意を狙われた場合は回避が困難を極める。つまり、悟られないうちに決めて戦況を有利に変えて置く必勝法と言う訳である。——が。


「おや? どうしたんだい? いきなり斬り込んで来たと思ったけど、まさか対峙した時の態度が不意の一撃を放つ良い機会だと捉えたのかなぁ? 甘いよ。君が踏み出した一歩目から僕の視覚が捉えて手首を斬る一連の動作が及ぶよりも先に動かせてもらったんだ。どうやら相手が認識した瞬間に狙った部位が斬られていることが大前提の技を一歩目の時点で悟られて刃が切断する末路を辿る前に動かれてしまうとは致命傷だね?」

「——はっ⁉」


  その一瞬で私が空ぶって刀身と態勢が前屈みになって気が付いた時は横に位置した男が耳元で不気味に囁いた。


「悪いが終わりだ」


 そこまでの動作が僅か一秒間で成立して攻撃を避けられた私が次に男の存在を認識した瞬間に魔術が行使されることを発動の際に生じた魔力の感知で悟った。しかし、魔術の発動が分かった時には回避は愚か反応する暇すら与えない速度で攻撃が下される。それは自分が下した攻撃よりも速い動作で立ち回られた一瞬の中で魔術に転じて発動するまでに掛かった一秒にも満たない認識不能の出来事が凄まじい勢いで展開される。魔術が伴った強烈な一撃を受けて吹っ飛ばされた瞬間に脳内が状況を把握する間も与える余地がなかった。恐怖と言う心情が自然に起きて床を転がされた後も思考が追い付くことは困難だった。

 そこで状況の理解を起こさせない迅速とも言える攻撃は大きく全身に激痛を味合わせた。それと同時に思考回路が機能しない状況下で起き上がる一瞬のうちに距離を縮める男の笑い声と共に発せられる言葉を私は遅れて認識できる。


「どうだい? 自信を持って放った一撃が意とも簡単に避けられて圧倒された儚い瞬間は? まさに絶望で浸食された気分だろ? 僕は思ったんだ。君たちを長年の間で食らい続けた結果が最終的に誰の手にも及ばない力を得た瞬間だと言う事実に凄まじい歓喜が湧いて来た。素晴らしい! これが異質を極めた人間の最高到達地点なんだよ! 久しく向けられた殺意が僕の胸を躍らせてくれた。だから、感謝するね? お礼に命までは奪わないであげる。けど、残った二人は手土産に頂くよ」


(だ、駄目だ……。美佐たちだけは守らないと……)


 私は全身に激痛が走っても二人を失いたくない気持ちを力に変えた。男が背を向けて二人の下に歩み寄る。しかし、この瞬間が最後に訪れたチャンスだと意識が途絶える寸前の中で思考を巡らせることが出来た。全ては二人を守り抜くと決めた意思を貫く根性が最後に立ち上がらせてくれた。


(行ける……。二人が生きて帰れるなら私は死んでも構わない……!)


 力を振り絞って立ち上がった私が右手に握った護霊刀を構えて気付かれないうちに再び【天牙一閃】を放つ。


「ぐぅっ! ぐぁぁぁあああ‼」


 以前よりも遥かに超えた速度で最後の一撃が繰り出された。男は私が攻撃する瞬間に気付いてすぐに振り返るが、身体が正面を向いた時には刀が首を斬る寸前まで迫れた。刃が男の首に触れて斬り落とす勢いで振るった。


「ぶっ!?」

「おっしゃぁぁぁあああ!?」


 そこで全力で放った技が見事に決まって男は首が切断される。首は床に転がって切断された根元から血が噴き出した。辺りが男の出血で汚れると私は最後に捧げた一撃の代償で膝から崩れた。しかし、これで二人は守れたんだと安心感が得られて意識が途絶えようとした瞬間に自分の頭上で大きな笑い声が上がる。


「ひゃーっはっはっは! 驚いたよ! 僕が避けた時よりも速度を上げて来たんだからねぇ! けど、参ったなぁ。まさか分身がいるなんて思わなかったでしょ?」


(——は?)


 頭上から上がった声が気絶する前に聞こえて来た。それは紛れもない首を落とされたはずの男が上げた声だった。しかし、確かに首は落とせたはずだった。それが何で未だに声を上げられるのか謎に思った。もう意識を保つことが難しい状況で内心は二人が救えなかったかも知れない恐怖で溢れた。それと同時に首の斬れた方が立っていた位置から魔力が感知できた。つまり、まだ生存している理由は魔術が扱われて死を逃れた恐れがある。

 そんな衝撃が内心を巡って意識の途絶える瞬間に余韻として感じられた魔力と別に僅かな一瞬で二人目を捉えた。けど、魔力の質が殺したはずの男と一致している事実が謎を抱かせる。疑問が生じた後ですぐに気絶してしまう。

 そこで私が目覚めた先は近所にある総合病院だった。後から聞いた話だと美佐と例の子は行方不明で捜索が開始されたらしい。私の発見された場所は戸籍登録や個人情報を当たっても血液検査に該当する者は存在しなかった。

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