第2話

悪夢で目を覚ました。


内容は──不思議と覚えていない。 


何か大事な記憶のような気がする。


目を覚ましたのはいいものの……辺り一面見覚えのない森林。


相棒の自販機はいずこへ……。


ポーン、ポーン、ポーン


『なんだこれは?』


謎の光る球体が音を発していた。

その下には本が一冊、地面に置いてある。


不意に本に手を掛けた瞬間──



〔転生案内ガイドを開始します〕



な、な、なッ!?



〔本ガイドのver1.0。世界生成時より更新されていないため、実際と異なる場合が御座います。あらかじめご了承下さい〕



なるたる不安を煽る一言!?

本題に入る前だよね?



〔貴方は神界の承認得て、無事に転生致しました。ここはマスドラ大陸の西方〈ガルア大森林〉外円です。これから順番にそってご説明──〕



『承認?転生?大陸?どう言うこと?』



〔……申し訳御座いません。只今のお時間はご質問を受け付けておりません。引継ぎ説明をお聴き下さい〕



『……はい。すんません』



〔秋庭 優一様…の現状をご説明致します。転生チケットのご利用により異世界へ転生致しました。ご利用、誠にありがとうございます。優一様の現在の確認が取れました……。

種族:レイス 所持スキル【憑依】 以上です〕



……。


つまり、あのお札は異世界行きチケットで、俺は小説やアニメのように異世界に転生したってことね。

それにしても……レイスって。

ファンタジー世界だと幽霊?だけど……モンスター寄りじゃないか?



〔お手元にあります本は“スキルブック”になります。スキルブックは魂と紐付けられております。任意で自在に取り出すことが可能です。また破壊や破棄、リコールは不可能となっておりますので、ご了承下さい〕



これか……ん?

なにやら禍々しいほどに黒いオーラを放つ深淵の如き真っ黒い本。

これは触れていいやつ?



〔この世界はスキル至上主義です。生きとし生ける物、全ての生き物は一冊のスキルブックと一つのスキルを持って産まれてきます。例え魂だけであっても例外はございません。〕



なんだか講習会を受けている気分になってきた。

この後、理解度テストがあったりするのか?



〔スキルブックとスキルは個体毎に異なります。

秋庭 優一様のスキルブックは黒。“死者の書”になります。今後取得したスキル、強化したスキルは順次記載されますのでお確かめ下さい〕



死者の書……。

まあ、所持者としては間違いではないけど。




〔以上で説明を終了致します〕



……終わったのか。

まあ、分からない事があれば後からでもゆっくり聞けばいいか。



〔これにて転生案内ガイドを終了致します。良き異世界ライフお過ごし下さい〕



スンッと光の球体は消えた。


……。


あれ?……あれれ?


天の声的なのは今後は無い感じですか?


質疑応答も無かったよね?


……。


……マジ??


チート要素の一つを失いました。



♢♦︎



あれから森を歩き周り探索をしている。


不思議と疲れがないのは、やはり霊体だからだろうか?


『なんだか、幽霊が幽霊のまま幽霊として異世界に来てしまっな』


何を言っているか分からないだろうが、これが現実だ。


──それにしてもあれだな……。


思い描いていた異世界転生とはだいぶ違い、随分とオートメーション化された転生だな。


もっと、こう、面接やら神様との掛け合いがあったりとかを想像するところだが……申請って。


どこかの企業の社内システムですか?


神様たちも神不足なのか、ペーパーレスなのか知らんけど、随分と雑すぎませんかね。


そんな愚痴を溢しながらも森を歩くと、視界が開ける。


どうやら大森林とやらを抜けたらしい。


緩やかに流れる小川と、その向こうには広大な草原が広がる。

その遥か向こうには大きな山脈が聳え立ち、遠くの大空には巨大な何かが飛んでいる。


都内では見れない壮大な光景に思わず感動してしまう。


『おぉ、なんだか異世界ぽいな』


幻想的な風景に目を奪われ、しばらく眺めていると背後の森から、なにやら騒がしい物音が鳴り響く。


ガヤガヤ──バキバキッ!


なんだか気乗りがしないけど……行ってみるか。


草木を掻き分け音の方角へ向かう。


異世界だからな、注意して進まないとモンスターに遭遇するかもしれない!


もしも、出会ったら……まあ、まず見えないか。



♢♦︎



慎重に音の方向へ進む。


──すると、ちょっとした広場があり小さな影が数体、何かを囲っていた。


緑の肌に尖った耳。身体は小さく、装備は棍棒に布切れを腰に巻いている。


『あれは見るからにゴブリンってやつだな』


少し近づいてみる。


思った通り、ゴブリンたちは俺に気付いていない。


武装した五体のゴブリンが何かを囲んでいる。


それは罠にかかった可愛らしい黒い子犬だった。


小さく泥だらけの子犬は犬歯を剥き出し、精一杯の威嚇をゴブリンに向ける。


「グゥー!!」


「子犬だ!」

「子犬の肉は柔らかい」

「小さいぞ?」

「早い者勝ちだ」


ゴブリンたちの輪がジリジリと狭まる。


「犬は見過ごせないな。よし、試すか」


俺はスキルブックとやらを取り出し最初のページを捲る。


────────────────────


スキル【憑依】Lv1


魂耐性の低い者にのみ、一時的な憑依が可能。

憑依中は対象の肉体と能力を模倣できる。

 •効果時間:60秒

 •使用後、対象のスキルを一つ獲得(模倣ではなく自身のスキルとして登録)

 •憑依対象が死亡した場合、スキルの強制解除


────────────────────


『憑依ってあれだろ? 相手に乗り移る的な』


とりあえず考えても仕方ない。


スキル【憑依】!!


気付くと子犬が直ぐ目の前にいた。


自分の手を見ると小さい緑の手……。


(よし、成功した! 60秒しか無いぞ! 行けるか!?)


俺は直ぐ隣のゴブリンに視線を向け、手に持っていた木の棍棒でゴブリンの頭部を勢い良く殴った。


ゴブリンは地面に沈む。


「よし、一匹目! 残り四匹……俺も含めてな」


──残り四十秒……。



つづく!

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