祠(ほこら)のダイヤル錠

仁木一青

祠のダイヤル錠

 富永さんは小学生のころ、ある妙な遊びに夢中になっていた。

 

 学校からの帰り道、少しだけ遠回りして古びたほこらに立ち寄るのが日課だった。  

 ほこらは学校にある百葉箱と同じくらいの大きさで、観音開きの木の扉がついている。


 その古い扉には現代的なダイヤル式の数字錠がかかっていて、ひどく不釣り合いに見える。

 この錠を0000からひとつずつ試していくのがなぜか面白かった。


 数字を1つずつ増やしていき、飽きるまでダイヤルを回す。

 0001、0002、0003と続けていく単調な作業に富永さんは奇妙な安らぎを覚えた。

 飽きたらそこで切り上げて帰り、次の日にまた続きを試す。


 奇妙な習慣ができて、三週間ほどたったある日。

 その日は興が乗って、二十分ほど無心でダイヤルを回し続けた。


 3123

 3124

 3125


 そしてついに、痛くなってきた指先に小さな手ごたえが伝わった。

「よしっ!」

 思わずガッツポーズをする富永さん。


 やっと開いた。

 番号は3126。


 だが。


 もしかすると、一瞬目を離したのだろうか。


 開いたはずの錠は、いつの間にかまた固く閉じていた。

 ダイヤルはというと、7189。

 でたらめに回されている。


 夢でも見ていたのかと首を傾げながら、ダイヤルをさきほどの開いた番号に合わせた。しかし、今度は開錠できない。


 なんなんだ、これは。

 何がどうなっているのか、富永さんにはまったくわからなかった。


 急に興味が失せて富永さんは帰ろうとした。

 いや、待った。とすぐに思いなおす。


 せっかく長い間続けてきたのだから、最後に何か記念になる番号を試してきっぱりとあきらめることにした。そうだ、自分の誕生日の番号を入れて終わりにしよう。


 0607


 カチリ。

 鮮明な手ごたえ。なぜか開錠できた。


 わけがわからず呆然としている富永さんの前で、ゆっくりと色の濃い木の扉が開いていく。背筋に冷たいものが走り、富永さんは大声を上げながら逃げてしまった。


 次の日。

 勇気を出してもう一度ほこらに行ったら、昨日まで四桁だったダイヤル錠が五桁のダイヤル錠に変わっていた。

 新しい錠は以前より大きく、ダイヤルの回転も重々しい。


 さすがに最初からまた番号を合わせていく気にはなれなかったという。

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祠(ほこら)のダイヤル錠 仁木一青 @niki1blue

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