第28話 クズ石の山

「俺、鉱山のことってよく知らないってさっきも言ったけど、鉱山ってみんなこんな感じなのか?」

「こんなって、どういうことだ?」

「もう少し活気があるというか……。さっきから魔魂石を背負ってあそこから出てくる人が二人だけだったろ? もっとどんどん出てくるものかと思ってたから」


 口に出してしまってから、活気が無いと言ってしまったのは失礼だっただろうかと思った。


「そうだな」


 だが、ミオはもっともだと言わんばかりに答えた。


「他の鉱山のことはわからない。でも、私がもっと小さかった頃はもっと活気はあった」

「え? どういうことだ? ガルド、じゃなくてバルドが来る前の話か?」

「違う。バルドが来てからもしばらくはそうだった」


 ミオは坑道の入り口を見る。ミオの父が入っていってからまだ誰も出てこない。


「人の出入りが少ないよな」

「ユウトの言うとおりだ。魔魂石は、昔はもっと地表に近い場所で採れていたらしい。だが、今は坑道の入り口近くでは採れなくなってきている。もっと深い場所まで行かないといけないんだ」

「そういうことか……」

「ああ。父さんは言っていた。もしかしたら、近いうちに魔魂石は採れなくなるのではないか、と」

「そうなのか?」

「ガルドはそんなことはないと言って、無理にでも掘らせるつもりらしいがな」


 吐き捨てるように、ミオは言う。


「……」


 ユウトは考え込む。


「だとしたら、王都の貴族たちはどうするんだ? 魔力電池に頼ってるんだろ?」

「貴族たちのことなど私は知らない。ただ、父さんが困るのが嫌なだけだ」

「そうだな」


 確かにそうだった。クリスタルタブレットが使えなくなるのは困るが、それ以外では困っていることはない。けれど、これはそれだけの問題ではないような気がした。思い過ごしだろうか。

 

「他に気にある場所はあるか?」


 ミオに聞かれて、ユウトは前に来たときに近くまで行けなかった場所もあることを思いだした。


「そういえば」

「どこか気になるところがあったか?」

「あのダムっぽいところも気になるんだけど。ズリだっけ?」

「ズリか。そうだな。行ってみるか? あるのはゴミだけだが」


 ユウトが頷くと、ミオは先に立って歩き出した。ミオの歩き方は颯爽としていて、思わずユウトはその後ろ姿に見とれてしまう。


「大丈夫か? 少し坂を上るぞ」


 ユウトが遅れているのに気付いて、ミオが振り返る。


「だ、大丈夫!」


 見とれていたなどとは言えずに、ユウトは答えた。


「これって、わざわざ坂を上って捨てに行ってるってことか?」

「ああ、量が多いからな。そこら辺に置いておくとすぐに溢れるんだ」

「それは何にも使えないのか?」

「そうだ。だからゴミなんだ」


 当たり前だと言わんばかりにミオが答える。


「うお」


 一番上に着いて、ユウトは声を上げた。確かにダムのようになっていた場所の中には石が山のように積み上げられていた。


(というか、これは捨てられているのか。こんなに沢山、もったいないな)


 そんな感想すら抱いてしまった。


「この石の中に魔魂石が紛れてるとかはないのか?」

「それはないと思うぞ。あったら、ガルドが黙ってはいないからな」

「それもそうだな。で、これはどうやって処分するんだ?」

「ここに置いておくだけだな。ガルドは処分には金は出さないと言っている。自分が損をするのは嫌なようだからな。これは村で勝手に処理をしろと言われて、仕方なくここに置いているんだ。魔魂石を安く買い叩いておいて、ゴミの所有権は村にあるからそっちでなんとかしろと言う。勝手なやつだ」

「本当に嫌なやつだな」


 ユウトも同意してしまう。ということは、この中に魔魂石があれば村のお金になるかもしれないと思ったが、さっきミオが言ったとおりだとするとそういうことは無いらしい。


「それにしても、多いな」

「採掘するときにどうしても出てしまうからな」

「これは、本当に役に立たないのか? 魔魂石みたいにエネルギーが溜められるとか」

「そういう話は聞いたことがないな」


 うーん、とユウトは唸る。

 捨てられている石がどういうものなのか、ユウトにはわからない。が、魔魂石と見た目が違うことくらいはわかる。


(でも、これ本当に使えないのか? 溢れるほどあるのに)


 ユウトは石が積み上げられている場所に近付く。


「足場が悪いから気を付けろ」

「わかってる。触っても大丈夫なのか?」

「ああ、害は無いはずだ。益も無いがな」


 ユウトは石を拾い上げてみた。見てみても、何もわからない。


「名前も無い石だ。ただのクズ石と呼ばれてる。魔魂石の採掘には邪魔なだけだからな」

「クズ石か」


 クズ石と呼ばれるその石が、何かに似ているとユウトは思った。真っ黒だが、太陽の光を受けるとキラキラと輝く。


「でも、なんか綺麗だな」

「私もそう思う。その輝きを見るのは私も好きだ」


 ユウトが呟くと、ミオも微笑んだ。ユウトは少しドキリとしてしまう。ドギマギしながらもう一度クズ石と呼ばれた石を見る。そして、気付いた。


(そうだ。子どもの頃に親に連れて行ってもらった旅行先で見たSLだ。その側にあった石炭に似てるんだ。この世界では、魔法がエネルギー源になっていると言っていた。てことは、まだ誰もこの石の燃焼性に気付いていないだけなんじゃないか? これって、異世界チートってやつ!?)


「なあ、ミオ。これって誰かエネルギー源にしようとして試したことってあるのか?」


 期待を込めてユウトは聞いた。まだ誰も見つけていないエネルギー源で、ユウトが見つけたとなれば大発見だ。この村も救えるかもしれない。そんな期待を抱く。

 だが、ミオは言った。


「ある」


 簡潔な答えに、ユウトは肩を落とす。


「魔力には全く反応しなかったようだ」

「じゃあ、火の中入れて燃料にしてみたりとかは? 薪みたいに」

「それもある。けど、全く燃えなかったみたいだ。だから、クズ石だと言ったろう」

「そう、か……」


 魔力に関係なくても石炭っぽいものならエネルギー源としていけるかと思ったユウトだったが、どうやら見当違いだったらしい。

 ユウトは再び肩を落とした。

 ユウトはミオのようにモンスターを倒せるわけではない。鉱夫たちのように肉体労働ができるような体力もない。


(俺って役に立たないな。やっぱり、株でなんとかする方がいいのか……。それくらいしか、できることが無い。ここに来ればなにか出来ることがあるかもしれないと思ったんだけどな)


 ユウトはため息を吐く。異世界転移した主人公は大体チート能力で上手くいくものだが、現実はそんなに甘くないらしい。


「行くか? もう、ここにいても仕方ないだろ」

「そうだな」


 とぼとぼとユウトは坂を下りる。


「せっかくだから、さっきの鍛冶場にでも寄っていくか? 特にすごいものがあるわけじゃないが、あとは家に戻るだけだしな」

「鍛冶場か、うん。俺、鍛冶屋って入ったことないんだ」

「そうなのか!? 街の人間はそんなものか……」


 ミオが驚いている。この世界の人なら街の人間でも行ったことはあるのかもしれない。だが、ユウトは異世界転移してきた人間だ。あの世界では鍛冶場なんてかなり特殊な場所だった。


「鍛冶場って、あのカンコンやってるところだよな。ちょっと面白そうかも」


 色々と男心をくすぐるカッコいい道具なんかがありそうだ。少し、気になる。


「面白いかどうかは知らないけどな」


 ミオには全くユウトのわくわくが通じていない様子だった。

 鍛冶場に着いて中に入った途端、


「あ、暑っ!」


 ユウトは思わず言わずにはいられなかった。火を使っている鍛冶場の中は思ったよりもかなり暑かった。小屋の中は予想通り鍛冶の道具が無造作に置かれていた。男の秘密基地、とでも言いたくなる雰囲気だ。

 その中にいたのは、一人の職人らしき老人だった。炉に向かって、真っ赤に焼けた何かの道具をハンマーで叩いている。

 仕事に集中して、ユウトたちが入ってきたことに気付いていないようだ。


「こんにちは」


 ミオが仕事の邪魔をしないようにか、そっと声を掛けると手を止めてギロリとした目でこちらを向いた。

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