第3章 心の闇に、光を穿て ①中二病のさらなる覚醒-2
3.1.2 妄想力=現実改変パワー!?
「はぁ……はぁっ……! ま、まだ……!」
深呼吸もままならないまま、俺――
いや、“私”は杖を構え直した。
人気のない廃工場跡。
ひび割れたコンクリートの床に、黒い靄が這いずり、形を変えながら蠢いている。
シャドウ――
人の心の“闇”が形を持った存在。
さっき倒した個体よりも、ずっと……禍々しい。
「天音、囲まれてるのだ! 左にも来てるのだーっ!」
「っ……!」
背後に気配を感じて、跳ねるようにかわす。
スカートの裾が空を舞い、風を裂くように杖を一閃。
「シャイン・スパイラ――ッ……くっ!」
唱えかけた詠唱を途中で止める。
この数、普通の魔法じゃ押しきれない。
もう――
試すしかないか。
(ノートに書いた“アレ”、マジで発動できるのか……?)
胸元のホルダーから、中二ノートを取り出す。
光の加護を受けし“
ペラ、とページをめくる。
そこに書かれた一文。
《聖絶断・アルティメット・ジャスティス・フェザー》
すべての闇を断罪し、光の審判を下す、天使の最終魔法――
「……っぷ、ネーミングが痛すぎて死ぬ……!」
自分で書いたんだよ!? 俺!?
でも今、それを言ってる場合じゃない!
ミルフィーが肩に飛び乗ってくる。
「出すのだ、天音! その痛さこそが、お前の力なのだ!」
「わかってるよっ……!」
俺は、ノートを胸に抱きしめ、空高く杖を掲げた。
「天より舞い降りし、裁きの天翼よ――」
「世界を貫け、魂を裁け、断絶の光となれ……!」
「《聖絶断・アルティメット・ジャスティス・フェザー》ッ!!」
地響きのような風圧が吹き荒れた。
杖の先端から羽根の光弾が無数に放たれ、旋回しながらシャドウの群れを包囲する。
「うおおおおおおおおおっっ!!」
羽根が爆ぜた。
閃光の嵐――!
空が、光で満たされる。
まるで天界そのものが地上に降りたような、神々しい光景。
シャドウが悲鳴を上げて溶けていく。
一体、また一体――
その姿を霧に変えて消滅していく。
そして。
「……ふぅ、はぁ、っ……や、やった……?」
杖をゆっくり下ろした。
空は静まり返り、風の音さえも凪いだ。
「全滅、なのだ!」
ミルフィーが、きらきらした目でこっちを見上げてくる。
「マジで、出たな……あの技……」
俺はふらりと膝をつきながら、呆然とつぶやいた。
全身に汗がにじみ、鼓動が早い。
けど、なにより――
(ドン引きするほど“痛かった”はずなのに……)
なんか、今……ちょっと気持ちよかった、かもしれない。
「まさに“快感”なのだな?」
「言うなぁあああぁああっっっ!!」
顔が、真っ赤になる。
「でもでも、これが“魔法少女の悦び”というやつなのだ〜♪」
「うるさい黙れぬいぐるみ!」
ミルフィーはけらけら笑いながら、俺のノートをぺらぺらとめくる。
「……見ろなのだ、この技も――“雷鳴の禁忌・セラフコード・オーバードライブ”とか、“聖涙結界・エンジェリック・プロテクション”とか、超絶ド派手な中二技ばっかりなのだ!」
「やめてえええぇぇっっ!! 人の黒歴史を音読するなぁっ!!」
「いやいや、これは“歴史”じゃなくて“未来”なのだよ、天音!」
ミルフィーが、ぽすんと俺の頭に前脚(?)を乗せた。
「中二ノートに書いたことは、妄想じゃない。お前にとって“真実”だったのだ。それが今、“現実改変”の魔力として具現化しているのだ!」
「……現実、改変……?」
「そう。“妄想力(イマジナリーフォース)”こそが、お前の魔法の源なのだ!」
“妄想力”。
中二病をこじらせた俺の頭の中から生まれた、設定や技や、ストーリー。
それが――
世界を救ってる?
「ちょ、ちょっと待てよ……だって、これ、元はただのネタだろ? “ルシフェリア・セラフコード”だって、ただの俺のオリキャラだし、セラフブレイカーも、聖涙の結界も、みんな、ただの妄想だったのに……」
「“だった”じゃないのだ。今、それは“力”なのだよ、天音!」
(……俺の、中二病が……本当に、力になってる?)
目の前で消えたシャドウの残骸。
浄化された光景。
そして、自分の手に握られた“セラフ・ロックブレイカー”。
(……俺の“真面目な中二病”が、人を……救ってるってこと……?)
なんだそれ、意味わかんねぇ。
けど――
「でも、悪くねぇな……」
「む?」
「いや、なんでもねぇよ」
ふっと笑みが漏れた。
自分でも、驚くほど自然に。
「ふふん、天音、今ちょっとカッコよかったのだ! たぶん5ミリくらい、惚れ直したのだ〜!」
「……うるせぇっての」
夕陽が、瓦礫に差し込んでいた。
その中に、小さな光の羽根がひとつ、ふわりと舞っていた。
俺はそっと手を伸ばして、それを掴む。
――俺の妄想が、誰かの現実を救うなら。
その“痛さ”だって、悪くない。
「じゃ、帰るぞ。まつ毛、明日もくるんって上げるからな」
「はっはっは、天音脳確定〜〜〜〜なのだ〜〜〜っ!!」
「うるせぇええええぇえええええぇぇぇっっ!!」
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