【メイとレイ✖️Gカップ スピンオフ】恋のお悩み相談にはまだのれません

七月七日

第1話

「遠くに行きすぎるんじゃないよ、レイ」

「分かってるよ!」


 木立の間を縫って、ドローンは上下左右に細かく移動して行く。

(おっと危ない!)

 わざと小枝が密集する空間をギリギリで通り抜けさせると、コントローラーを握る手が汗を帯びてくる。


 林を抜けて、やや広い場所に出ると、俺はドローンを急上昇させた。

 俺のドローン“ペガサス号”は、狭い籠から出てやっと手足を伸ばせた大鷲みたいに空高く昇って行った。

 ペガサスなのに大鷲って!俺は自分の思考にツッコミをした。


「あ、ドローンじゃん!」

「ほんとだ! あ、あの子が飛ばしてるんだ」


 二人の若い女性がペガサス号に向かって手を振っている。幅十メートルくらいの川があって、二人はその中で川遊びをしていたらしく、濡れた髪と身体をタオルで拭きながらこちらに歩いて来ていた。


 ドローンばかりを見ていた俺は、そこに人がいる事に気づくのが遅れた。慌てて、ペガサス号を回収する。


 俺のドローンにはカメラを搭載してある。許可なく他人を撮影することは俺の意に沿わないし、撮られる方も気分のいいものではないだろう。


「お二人が動画に映ったと思いますが、良かったですか? 別にどこかで公開する事はないのですが」

 ペガサス号を手に俺は二人の女性に向かって話しかけた。


「全然いいよ〜。むしろテレビでも何でも出して欲しいわぁ」


 美人だ、それにおっきい。それが彼女を見た第一印象だった。


 真っ白い水着のブラからこぼれ落ちそうな胸。対照的に細くくびれたウエスト。デニムのショートパンツに包まれたボリュームのあるヒップから伸びたスラリと長い足。身長は、俺と同じ百六十センチくらいか。


「あはっ、この子、京香の胸に視線が釘付け!」

 もう一人の女性(こっちも美人だ)にそう指摘されて、俺は顔が熱くなるのを感じ、思わず目を逸らした。


「由紀ったら!少年が照れてんじゃん」

 美人で胸がやたらデカい方の女性は京香という名前で、もう一人の美人が由紀という名前らしい。


 由紀の方は身長がずっと高く、ほっそりとしてスタイルも良い。胸は、普通だ。メイよりはあるかな?濡れた Tシャツの下からピンクの水着が透けて見えた。


 だけど俺は、京香さんに惹きつけられた。べ、別に胸の大きさじゃないぞ!二人は何歳くらいだろうか、でも女性に年齢を訊くわけにはいかない。


 目を逸らした先、川の中に俺はもう一度視線が釘付けになった。そこには、若い男の幽霊がいた。


 俺は、生まれつき霊が視える。もう慣れているはず、と思いたいところだが、実はまだ慣れない。初めて視る霊にはいつもドキッとする。


「レイ!」


 俺を呼ぶ声がして、はっとわれに帰った。振り向くと、金髪碧眼の父親、アランが林の方からこちらへ歩いて来ていた。


「パ、父ちゃん!あそこ、十二時の方向、おっきい岩の下にいる」

 俺は、父親の方に走り寄りそう言った。


「ああ、そうか。誰かに憑いているんじゃないんだな」

「うん、誰にも憑いてない」

「地縛霊かなぁ。メイを呼んで聞いてみよう」


 アランは、短パンの後ろポケットからスマホを取り出して、電話をかけ始めた。


 その様子を見ていると、俺のTシャツが後ろから引っ張られた。さっきの巨乳美女だった。


「誰?あの超絶イケメンは⁈」

「ああ、俺のパ、えっと、父親です」


「えっ?あれが少年のパパなの?金髪で青い目じゃん!」

 京香という名前の女性の目がハート形になってる。隣の由紀も。


「父はフランス人ハーフです」

「という事は、少年は」


「俺はレイです。友坂 れい!」

 少年と呼ばれるのが嫌で、俺は名前を告げた。


「あ、ごめん、レイくんはクォーター?ママ似なのね?」

「そうです、母親似のクォーターです」


 いつもこうだ。

 アランは女子から見たら超絶イケメンらしい。いや、男の俺から見てもイケメンなのは認めるが。身長百八十八センチ、フランス人ハーフ、往年のアラン・ドロン似らしい。その俳優は知らんけど。


 俺だって、学校にはファンクラブがある。だけど、俺は百六十センチ。アランには顔も身長も敵わない。


「メイはすぐ来るそうだよ。ところでこのお嬢さん方とはいつお知り合いになったんだい、レイ」

 電話を終えたアランがやって来た。京香と由紀は、ビシッと背筋を伸ばしてアランを見つめている。


「あ、私は京香、こっちは由紀です。レイくんのお父さんですか」

「ええ、レイが何か失礼な事をしたのでは?」


「いえ、とんでもないです。とても礼儀正しいご子息でした!」

 京香と由紀は、アランの顔にうっとりとした表情で見惚みとれている。


「それならいいけど」

 アランは、二人のうっとりとした顔つきに全く気づく事なく、ごく自然にフェロモンを垂れ流している。この男はいつもこうだ。


「あの、もしかして、俳優さんとか、モデルさんですか?」

 由紀が訊ねた。


「えっ、僕がですか?とんでもない、普通のサラリーマンですよ」

 アランがしれっと応える。


(サラリーマンじゃなくて、会社経営者だけどな!)

 俺は心の中で突っ込む。


「もしよかったら、一緒に写真に映ってもらえますか」

 京香がスマホを取り出して言った。


「えっ、僕と?もちろんいいですが」

 こんなシチュエーションには慣れっこなのに、アランはそう応える。


「お願いします!じゃ、レイくん、お願い!」

 京香がスマホを俺に差し出した。えっ、俺、撮る係なの⁈


 アランを真ん中に左右に京香と由紀が位置し、アランがちゃっかり二人の肩に手を回したり、二人がアランの腰に手を回したりして、俺は三人の写真を三枚撮った。


 二人は俺と写真を撮りたいとは言ってくれなかった。


「お二人は、大学生かな?まさか高校生ってことはないよね?」

 アランがさりげなく年齢を尋ねた。そうか、これが大人な聞き方なんだな。くそっ。


「まさかまさかです!二十五歳で会社員してます。アタシたち同級生なんです」

 京香が応えた。この弾むような明るい声、そう、俺はこのひとの声が好きなんだ、きっと。決して胸ではなく!


 そうしているうちに、メイとママ、じゃなくて母ちゃんの詩織がやって来た。


 アランと俺は、二人と合流して、メイに川の中にいる幽霊の位置を示した。

 メイは俺の双子のきょうだい、メイが姉で俺が弟だ。

 メイは霊の声が聞こえる。そして、アランはメイと霊を繋ぐことが出来る。


 京香と由紀から離れたところに行き、アランはメイと幽霊を繋ぎ、メイが話を聞いた。


『あなたは、何故そこにいるの?』

『俺は、ここで溺れたんだ』


『誰かを恨んだり憎んだりしてるの』

『別に。ただ、三年前、俺が高校生の時、ここで友達とふざけていて溺れて死んだんだ。だから、ここは危険だと教えてあげたいんだ』


 その川の、大きな岩の近くは、急に深くなっていて流れも急になる。そこでふざけていた彼は、急に足が届かなくなったことにパニックになり、溺れて流されたのだ。


「なるほどねぇ。別に悪さをしてるわけでは無さそうだから別にいいかなぁ」

 メイから話を聞いたアランと俺は、そんな感想を抱いた。


 俺たちが、霊と交信しているとはつゆ知らず、京香と由紀は、新たに現れた俺そっくりの女の子と美女に興味津々だった。


「あ、これが双子の姉のメイ、そして、こっちがマ、は、母親です」

 視線を感じた俺は、京香と由紀に家族を紹介した。


「うわっ、超絶イケメンには絶世の美女かぁ、悔しいなぁ。んでもって双子なんだ、そっくり!二人とも可愛い!」


 可愛い。

 いつもこれが俺の形容詞だ。

 可愛いは、恋の形容詞じゃない。

 メイはいいさ、女の子だから。

 でも、俺は男だ、もう十四歳、毛だって生えてる。

 可愛いとか言われたくない。



 二人に別れを告げ、俺たち家族が林の向こうのテントサイトに向かっていると、京香と由紀のところに二人組の若い男が近づいているのが見えた。


 俺は、嫌な予感がしたが、その予感を頭から追い払った。



第二話に続く



 

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