第二十八話 針島君②

 俺の針島君に対するムーブはエルや安藤に似ている。うざったらしい所とか。そこは、俺が真似させてもらったからだ。


 うざくて、そして打算的で、けれどもいつの間にか親しくなっていて。エルはそういうキャラを作っているようにも感じたが、安藤は多分素だ。


「あっ、丸崎君じゃん!学校生活どうよー」


 噂をすればだ。登校中、エルに出会した。


「滅茶苦茶順調よ、おはよ」


「そう?それは良かった、噂は聞いてるよー、針島君だっけ、に付きまとってるんでしょ?」


「言い方」


 マジか、あれ噂になってたのか。確かにあんだけ針島君の周りウロチョロして話しかけてたら…やっぱり失敗だったか?


「あ、って事はやっぱり言い方以外は事実なんだ、丸崎君ってそんなに自分から友達作るタイプじゃないと思ってたよー」


「まぁ、普段なら作りに行こうとはしないけど…一昨日不良から助けられたんだよね、針島君に」


 そう言うと、エルは目を丸くして驚いた。


「えっ?針島君って優しいヤンキーなんだ…ってか、丸崎君なら不良とかに負けないでしょ!」


「なんかからかうのが楽しくてさー」


 ストレス解消に使ったのは本当に悪いと思ってるよ、なんだっけ、厳杉君だっけ。


「うわー、いい性格してるなぁ」


「いやいや、普段ならしないから!」


 全力で首を横に振る。態々挑発したりは普通しない。やる意味ないし。


「ま、丸崎君はそういう事しないよね、大方、安藤さん関連でストレス溜まってたんでしょー」


「えっ?なんで分かったんだ…?」


 お前もだが、という言葉を飲みこむ。


「実は私の所にも安藤さんが来ててさ、配信の事とかー、色々聞かれたんだよね」


「やっぱり?」


 そりゃ聞いてるよな、まぁ、両方から否定されたらもう付き合ってるとかの戯言は言えなくなるだろうから、それは良かった。


「配信者に彼氏彼女がいるとか、炎上まっしぐらだしねー、作ったこともありゃせーんよ」


「作れないからじゃないのか?性格的に」


「おう喧嘩か、私の口が火を噴くぜ」


「ドラゴンじゃん」


 がおー!と可愛こぶるエルから目を逸らす。何やってんだよ。


「でさ、話戻すんだけど、丸崎君って針島君と仲良くなりたいんでしょ?」


「あぁ、隣の席だし、気まずい関係とかよりは友達関係の方がやりやすいだろうし」


「ふーん、結構難しいと思うけどなー」


「…そうか?」


 個人的には少しは仲良くなれた自信があった。このままなら近い内に仲良くなれると思うのだが。


「針島君って迷宮孤児でさ、可哀想可哀想って言われて育ってきたらしくて、実際、クラスでも可哀想とかって言われたらしいよ、で、針島君の性格的にそれが気に食わなくて、友達ができなかったらしい」


「あぁ、成程なぁ…俺は別に可哀想とは思わんが、本人としては気にしてるのかな」


 エルはこう言っているが、本当にそうなのだろうか、針島君のそれは、少し違うような気がする。


「まぁ!ファイトよ!ファイト!」


「それしかないわな、今日も付きまとおう」


「自覚あったんだ」


          ◇◆◇


「おはよう針島君!」


「喋りかけんな」


「返答してくれるって事は、昨日よりも仲が進展したってことかな」


「気持ち悪いんだよお前!!」


 針島君ばっ!と机から立ち上がる。流石に今のはアウト判定だっか、猛省だ。


「あっ、ごめん」


「ごめんじゃねーよ!今日はもう付きまとうんじゃねぇぞ!」


「いや、付きまとう」


「うっぜぇんだよ!!」


 今日の針島君は元気がいいな、やはり仲は進展していると見て間違いない。そう思いたい。


「だって仲良くなりたいし…」


「だっても何もねーわ、ガキか」


「ガキじゃない」


「いいやガキだね」


「ガキじゃないですー」


「その反応がガキっつってんだよ」


 ガキみたいな会話だな、と少し吹き出すと、思いっきり頭を引っ叩かれた。


「友達になるって認めるまで俺は付きまとい続けるけど?」


「害悪クソ虫じゃん、駆除してーわぁ」


「殺虫剤はないです」


 一生付きまとい続けるのは効果的だろう、痺れを切らして友達になってくれるかもしれない。


「クソが」


「ねー、なんで友達になってくれないのさ!」


「!…それは、テメーがウザいからだ」


 針島君は一瞬動揺する。やはり、友達になってくれないのには何か理由があるのかもしれない。


「じゃあ、俺がウザくなかったら?友達になる?」


「……ならねーよ」


「なんでさ」


「気持ち悪くて生理的に受け付けないからだ」


 ちょっとストレート過ぎて血反吐を吐きそうになる。オブラートってくれよ。


「じゃあ、俺じゃなくてめっちゃ気持ちが良くて生理的に受け付けられる人間だったら友達になるのか」


「………なんねー」


「誰とも友達になってくれないじゃん!」


「だからそう言ってんだろうが!」


 これは酷い、これやっぱり友達になるの絶望的じゃないか?なるけど。


「えー?じゃ友達になれないじゃん!どうしたら友達になれる?」


「密室でシュールストレミング3個食べたらなってやるよ」


「おっけー!ちょっと買ってくる!」


「友達になんねーって事だボケナス!例え食ったとしても友達にはなんねーよ」


 なんでだよ、どうにもしようがないじゃんか。理不尽だろう。


「酷い…」


「酷いのはテメーだろ、ずっと付きまとってきやがって」


「ぐう」


 正論だから、論理の話では何も言い返せない、そもそもこの話自体、付きまとって友達になろうと言う俺に非があるのだから。


「ここまで来て食い下がれるか!友達になってください!」


「駄目だって言ってんだろうが!!」


「おーねーがーいー!」


「だからガキか!」


 ここまで来て、はいそうですかと諦めるほど俺の往生際は良くない。何としてでも仲良くなりたいのだ。


「大体!なんで俺と友達になりたいんだよ!負けた気がするとかカッコいいじゃ納得できねーぞ」


「針島君と話すの楽しいからな、今だってそうじゃんか、昨日より全然しゃべってくれて楽しいぜ?」


「な、なんだよ…」


 ちょっと臭いセリフだ。自分でもそう思うが、正直な所そうである。


「それに、針島君、友達いないのもったいないじゃん、俺もそうだったから分かるけどさ、友達と話すの楽しいよ?」


「だぁぁぁ…!俺はそういうの別に…「お願い、俺と友達になってくれ!」


 頭を下げる。それになんの恥ずかしさもない。これが最善だ。


「じゃないと、やっぱり一生付きまとうよ?」


「…しょうがない、一応そういう事にしておいてやる、ただし!仲良くする事はない!」


「…マジ?やったー!!ありがとう!!」


 握手をし、手をブンブン振ると、針島君は嫌がって手を弾いた。

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