第十七話 丸崎 童(12)
「ゴブリン倒すだけなのに、何でこんなに攻略者が集まっているんですか?」
現在、那覇ダンジョンは今最も注目されているダンジョンだ。
理由は、ゴブリンロード。
那覇ダンジョンの下層で発見されたゴブリンの特異個体。人間と同程度の知能を持ち、多くのゴブリンの配下を従えるゴブリンの支配者だ。
今、那覇ダンジョン内では上層から下層にかけて、ゴブリンロードの従えるゴブリンが大量に発生している。
那覇ダンジョン内のステージは全て森林のステージになっていて、ゴブリンにはうってつけだ。他のモンスターをしのいでゴブリンが増え続けたのは、これのおかげでもあるだろう。
「バカか、ゴブリンの数はおおよそ三千だよ?人手がいくらあっても足りないわ」
「…俺一人でゴブリンなんか全滅ですし」
ゴブリンの異常な数のせいで、攻略者が大量に来ていた、ギルドの派遣で来た人や、俺のように好きできている人もいる、前者が圧倒的に多いが。
「そういうお年頃なのは分かるけど、流石に大口が過ぎるんじゃないかな?」
この人は
なんでも津軽にあるギルドで働いているらしく、今の年齢は二十四歳だそうだ。個人で来ていて、中学生ということもあり那覇ダンジョン攻略隊の中でも孤立していた俺に話しかけてくれた。
「なんですか、別に年頃とかじゃなですけど」
「俺としては、お前みたいな子供がダンジョンに潜っていることが信じられないんだけどねー」
それはそうだろう。中学生でダンジョン攻略者というのは普通は認められない、普通は。
ただ、俺は元々未発見のダンジョンに潜っていて、そこでの戦闘経験と、実績があり、国からB級攻略者として認められていた。
ここで言う実績は特例なもので、普通はどれだけ実績があろうと認められない。
「俺の弟がお前と同い年でさ、十二歳差なんだけど」
「へぇ、そうなんですね」
もうすぐ那覇ダンジョンに入る。秀さんが気さくに笑いかけてくれるのは、俺が緊張しないようにしてくれているのだろう。
いや緊張なんか全然していないが。
「童君はどこのパーティ行くわけ?」
「俺はソロですけど」
そう言うと、秀さんは驚いたような顔をした。
確かにソロでダンジョンに潜るなんて、子供のすることではない。ただ、俺は未発見ダンジョンをソロで攻略していたので、パーティを組むよりソロでの攻略のノウハウの方が身体に染み付いているのだ。
「いやいや、流石にソロは危ないでしょ、良かったらウチのパーティに入る?」
「…いいんですか?連携の邪魔をしてしまいそうですけど」
完成された連携のとれるパーティがあったとして、例えそこに強力な助っ人が来たとしても、連携が崩れ逆に戦力が落ちるという場合もある。
俺が入っても邪魔にしかならないような気がするが。
「いいんだよいいんだよ、ウチのパーティ、今回ゴブリンの大量討伐を意識して組まれてるから、即席パーティで連携なんか取れないの、時間なかったしね」
「そうだったんですか、でも、俺はソロのほうが…」
「そう言うなって、危険だろ?俺達を守ると思って、な?」
心から親切心で言っているのだろう、これで完全拒否は流石に…という日本人としての意思表示の弱さが裏目に出た。
「そこまで言うなら、お願いします、でも、他のパーティメンバーが嫌って言うならソロで行きますから」
「ほんと?良かったー」
秀さんは安心したように胸を撫で下ろした。
◇◆◇
「って、事で、この丸崎童君を我々のパーティに加入させていただいてもよろしいでしょうか…」
「…はぁ?」
秀さんに連れられ、秀さんのパーティメンバーと合流することになった。
「いやいや秀あんたねぇ、そんな子供にゴブリン討伐させるなんてバカじゃないの?」
「そうだぞ秀、モンスター討伐は遊びじゃないんだぞ」
「…」
長身で杖を持った、恐らく魔法使いだと思われる女性、道具の整備をしていたのでスカウトと思われるイカつい男性、あと無口なオジサン、大盾持ってるしタンクだろう。
秀さんのパーティは結構バランスが良さそうだ。そしてやはり、俺をパーティに入れる気もなさそう。
「まぁまぁ、そう言うなって、この童君はなんとB級攻略者だぞ〜?お前等よりもずっと強いと思うけどなぁ」
「マジ?このガキンチョが?詐称じゃないでしょうね」
「違いますよ」
俺はB級攻略者免許を取り出し、女性に渡す。
攻略者免許はダンジョンに入る際に必要な免許で、この攻略者免許によって攻略者の行ける階層も変わる。
「…本当ね、攻略者免許は偽装できないし、凄いわね」
「B級なんか滅多にいないぞ、俺等もD級だ」
「…信じ難いな」
「な?な?童君は凄いんだって!」
少し照れくさい、B級なんて大してすごくもないのに。
「だが、B級なら中層に潜ればいいんじゃないの?何でわざわざ弱小ギルドのウチに来たのさ」
女性の人の意見はもっともだった。
「なんでもソロでゴブリンと戦うっていうからさ、それは幾らなんでも無茶だろって」
「いけますよ!」
パーティメンバーの皆は目を丸くして驚いた後、少し間を置いて笑い出した。
「そっかそっか坊主、お前ソロで潜ろうとしてたのか、そりゃあぶねーよ、分かった、じゃあ俺等のパーティに入ろうぜ」
「私もソロで行かせるくらいなら、パーティ組んだ方がいいと思うわ、保護者にでもなってあげようじゃない」
「…同意だ」
驚いた、最初は怖い雰囲気だったけど、思ったより優しい人達だったんだな。
「…お願いします」
「おー!最高のパーティになりそうだぜ、じゃあ自己紹介から頼むわ!」
「了解、私はD級魔法使いの
「同じくD級のスカウト、
「D級のタンク、
予想は当たっていたようだ、確かに、ゴブリン討伐に向いた面々で心強い、これなら問題なく攻略出来るだろう。
「順に理沙ちゃん、たっくん、やまちゃんって呼んであげてね!」
「ちゃんじゃねーわ」
理沙さんが秀さんを小突いて吹き飛ばす、これ多分魔法使いよりモンクの方が向いてるな。
「がはっ…お、俺は…B…級、戦士…秀…だ、がくっ」
「B級戦士がD級魔法使いに殺されそうじゃないですか…」
燃え尽きたように倒れ込む秀さん、死んだか?
「ほらっ!起きなさい、もうすぐ出発なんだけど」
「ちょっ、待って待って背中痛いんだって」
無理やり秀さんを引っ張り上げる理沙さん、連携取れないとか言ってたけど…なんだ、ちゃんと仲いいじゃないか。
◇◆◇
「右に3体、左に2体だ、茂みに隠れてる」
「了解、理沙ちゃん、魔法撃って!」
スカウトの近藤さんがゴブリンの位置を察知して、秀さんに伝える、秀は理沙さんに指示を出しつつ、ゴブリンの裏に回り込む。
「ふぅぅ…」
理沙さんが息を吸い込み、周囲に魔力を放出される。魔法を発動する時、体内の魔力を一気に込めるため、大半の魔法使いはその際に魔力が溢れ出てしまう。
魔力が溢れてしまうと、結果的に魔法を発動する際に消費する魔力が多くなってしまう。より優れた魔法使いと言える。
「『
魔法を発動すると、2メートル位の電気でできハンマーが具現化され、地面を叩く。放電し、地面に魔力の電気が流れた。
ゴブリンは感電し、その隙に秀さんが首を切った。
成程、そんな感じか。
「理沙ちゃんおつかれー」
「ちゃん付けすんなって言ってるでしょ」
理沙さんは秀さんの頭を叩いた。
◇◆◇
「後ろからゴブリンライダー来てるぞ」
「おーけーおーけー、やまちゃんと理沙ちゃんはホブゴブリンの相手してて、たっくんは引き続き警戒」
「たっくん言うな」
ホブゴブリンと対敵している時に、後ろからゴブリンライダーが奇襲を仕掛ける、それに秀さんが対応し、急所を切って再びホブゴブリンと向かい合う。
俺はパーティメンバーが戦ってるところを見学している。
「うらっ!このでかやろー!」
ホブゴブリンの心臓を突き刺して倒す。B級だけあってやっぱり慣れてるな。
◇◆◇
「秀、ゴブリンソルジャー一匹シャーマン一匹雑兵四匹」
「りょ、理沙ちゃんはシャーマン狙って、やまちゃんはソルジャーの相手してて、雑兵は俺とたっくんで片付ける」
この人は何回言ったらあだ名をやめるんだろう。
「だから理沙ちゃん言うな!『
今回は単体攻撃だ。杖を構え、離れたゴブリンシャーマンに雷を落とす。瞬きする間もないほど速かった。
痺れたゴブリンシャーマンの脳天に近藤さんが投げナイフを投擲し倒す。その間、秀さんは雑兵の首を切っていた。
そしてゴブリンソルジャーの猛攻に耐える山田さんに全員で加勢し、討伐した。
◇◆◇
「右雑兵三、左シャーマン二、後ろライダー一」
「理沙さんシャーマン、山田さん達也雑兵、ライダー俺」
ドンドン指示が雑になっているし、何度もあだ名で呼んで理沙さんに怒られたせいで、あだ名もやめた。
「はぁ…はぁ…『雷鎚』…」
理沙さんが、魔法を発動し、痺れた隙に近藤さんが雑兵を相手しながら投げナイフで仕留める、ライダーは秀さんが相手している。
「せやぁー!!」
雑兵の攻撃を山田さんが受け、近藤さんが仕留める。同時にライダーも秀さんが仕留めた。
◇◆◇
「雑魚六」
「理沙さん」
「『雷鎚』」
なんだこれ。
◇◆◇
「何体…いんだよクソ!」
「本当にキリが…ないわね…《雷鎚》!」
パーティメンバーも疲弊してきている、秀さんの指示で効率良く倒せてはいるが、さすがに量が多いようだ。
「そろそろ僕も出ますよ」
「良いよ、まだまだ俺達で「無理ですね」
流石にここまで疲弊してるのを見せられて見学したままとはいかないだろう。
「理沙さんは魔力の消費が多いでしょう、貴重な魔法使いですし温存したほうが良いです。山田さんは何度も攻撃を受けていますし、休んだほうが良いです、近藤さんは索敵で集中力が必要ですし、色々な所にカバーを行って余裕がないと思います、秀さんも動きにキレがなくなっています、俺が行ったほうが良い」
事実だ、このままではいつか死ぬ。決して
「言うじゃない、まぁ、確かに正論だけど、ソロで戦う気?」
「今までそうしてきました、皆さん休んでてください」
「ちょ、童君、流石にそれは」
「行けますよ、俺は皆さんのお陰で体力的にも余裕があります」
俺は二丁拳銃を抜き出しながら答える。
「おい坊主、前から八匹」
「分かりました」
近藤さんの索敵に従い、前方へ駆ける、確かに雑兵が八匹いたので、早撃ちで仕留めた。
「…やばぁ」
「ちょっ童君凄いね!?」
「ほんとに子供かお前」
戻ると、メンバーの皆からそう言われ、照れ臭くて俺は目を逸らした。
◇◆◇
「どうも、こんにちはー!」
「あっ…櫻子さんじゃないですか、配信見てます!」
ゴブリンを探していると、当然他の攻略者にも出会う、そういう時には大抵、リーダーが挨拶をする。
櫻子さんと言われた桃色のツインテールの女性は、配信用のドローンを回していた、秀さんが配信を見ていると言っていた辺り、やっぱり配信者なのだろうか。
「もしかしてリスナーさんの方?ありがとう!」
「そうです!櫻子さんも参加されていたんですね」
こういう攻略者同士での会話というのは、聞いてるだけでも少し心が落ち着く。
秀さんと櫻子さんの会話を聞きながら、水を飲んで休憩する。
「では!」
「はい、また配信で待ってます!」
ダンジョン配信か…
◇◆◇
「いやー、童君のおかげで大漁だよ」
ダンジョンにも夜はある、森林ステージだとそれが顕著だ、原理は分からないが、太陽と月があるのだ。
夜は暗い、攻略者には不利な為、基本的にダンジョン内で野営をする。
1回外へ戻ればいいと思うかもしれないが、こちらの方がすぐに戦闘ができて効率がいい。今回は時間との勝負なので尚更。
今は理沙さんが見張りをしている。
「そんな大したことしてませんよ」
「してるじゃん、後半ほぼほぼ童君が倒してたよ?」
「敵も増えてったのになぁ、何匹倒した?」
「…八十だ、内五十が丸崎さんだ」
山田さん数えてたのか…
「坊主は何でそんな強いんだ?」
「地元で潜ってたので」
「ははー、そりゃすげぇな、経験値ってやつか」
近藤さんは結構良い人だ、対等に接してくれるし、思っていたよりも優しい。気遣いも出来る。
「…歴としては、俺達より長そうだ」
「だなぁ、俺は最近潜り始めたし」
近藤さんは意外と喋る、戦闘中とか戦闘前だと気張って緊張してしまうらしく、休んでる時は意外と話せると。
「そうだ童君、何でダンジョンに潜り始めたの?」
「…暇だったので、皆さんは?」
間違ってはない、友達はいなかったし、他にやることはなかった。戦闘がめちゃくちゃ楽しくてとかは引かれそうで言わないが。
「俺はなぁー、金だな!給料いいし、彼女にプロポーズする為に指輪買うんだ!」
「ひゅー!彼女かぁ、いいね!」
「…なら、もっとモンスターを狩らないとな」
「勿論だぜ、山田さんは?」
金も攻略者としては良い理由だ、まぁ、攻略者やる理由に良し悪しはないが、それにしても彼女か、やっぱりいたんだ。
「…俺は、会社が倒産して路頭に迷ってな」
「そっかぁ、でも、今のほうが稼いでるんだろ?」
「…この前車を買ったな」
「ほらやっぱり!」
そっか、そういう理由もあるのか。
「じゃあ次秀な!」
「あー、そんな面白い理由じゃないぞ?」
「俺、聞きたいです」
ちょっと、こういう攻略者同士での会話は楽しいな、と思えてきたのだ。
「そうか?あー、俺は、モンスターから友だちとか、家族とか守れるようになりたいなって、童君には言ったか、弟がいるんだよ…はは、なんか照れくさいな!」
「お前らしくていいと思うけどな」
「…同意だ、人を守るか、良い理由だと思う」
そうか、やっぱり秀さんは良い人だった、俺も、家族を守りたい。
…スタンピード、ダンジョンからモンスターが出て来る…戦争だ。
普通、モンスターは外へ出られない、魔力が使えないから生きることができないのだ、ただ、極偶にダンジョンの動きが活発化し、ダンジョンとしての領域が外の世界まで拡張されることによって、ダンジョン周辺も纏めてダンジョンのようになる現象が発生する。
これがスタンピードだ。その前兆として、強力なモンスターがダンジョンに現れたり、ダンジョンの構造が大幅に変わったりと言う事が起きる。
この那覇ダンジョンのゴブリンロードもその前兆ではないか、と言われている。
このスタンピードは全てのモンスターを討伐しなければ収まらないのだ。
秀さんが言っているのはこの事だろう。
「ちょっとー、そろそろ交代してよ」
「あー、俺が行くよ」
秀さんは理沙さんと交代し、外へ出た。
◇◆◇
「お前ら、起きろ!!」
秀さんと交代し、見張りをしていた山田さんの声で目が覚める。もう朝か?いや、まだ暗…いや、
「火事だ!」
森林は真っ赤に燃え盛る火に飲まれていた。
何故だ?魔法の誤発か?いや、これは…
「ゴブリンが火を付けた!」
クソっ!やられた!森林もろとも焼いて攻略者を炙り出す気か!寝ている攻略者を焼くゴブリンロードの策略か…!
「嘘だろ…達也!」
「もうやってる!近くに敵は居ない!一旦外に出よう!」
「ゴブリンロード…まさかここまでしてくるとはね…!」
装備を持ち、すぐさま逃げ出す、判断の速さは流石だ。
「索敵範囲を広げろ!」
「りょうか…!?」
気づくと、近藤さんは消えていた。叫び声が聞こえ、咄嗟に振り向いたら…
オオコウモリに捕まり、連れ去られていた。
「…っ!追います!」
「駄目だ!後ろからゴブリンライダーが来てる!」
追おうとする俺を山田さんが制止する、だけど、このままでは…
「スカウトがいない状況は危険だ!俺が追う!」
「ちょっと待ってよ!ここで時間をかけたらそれこそ終わりよ!早く逃げるべきでしょ」
「じゃあこのまま見捨てろってのか!」
飛び出す秀さんと言い争いをする理沙さん、あぁ…これはもう…
「タイムオーバーです、逃げましょう」
「…童君?」
「もう間に合いません、やるなら即決が良かった…早く逃げましょう」
もうここまで時間が経ってしまっては追っても仕方ない、飛ぶ相手には速度で敵わない。
スカウトがいないのは確かに危険だが、罠の可能性があるのに突っ込んではいけない。
恐らく先にスカウトを狙ったのもゴブリンロードの策略だろう。
あの人にも、帰りを待つ人は居た、だけどそれはここにいるメンバーも同じだ。もう、これ以上人を死なせるわけにはいかない。
仕方ないんだ、これは…
「秀、今は諦めるしかないわ、子供の方がずっと冷静じゃない、ごめん、時間を無駄にして」
「あぁ、せめて一人でも生かすぞ」
「…ごめん、先を急ごう」
そう、仕方ない、これが正しい判断のはずだ。
「…!前からゴブリンだ!しかも…大量に…」
「俺が抑える!その間にお前等は回り込んで叩け!」
「「「了解!」」」
次から次へとやってくる脅威、ゴブリンロードはなんとしてでも俺等を排除したいらしい。
山田さんは駆け、大盾を構える。
次々と迫るゴブリンに一歩も引かず攻撃を耐え続ける。その間、俺は魔力弾でゴブリンを処理していく…だけど、何か妙…なんでこんな特攻を…
「皆!避けてよね!『雷鎚』!!」
「駄目だ!!!」
俺の制止は間に合わず、ゴブリンは雷鎚によって燃える。
異常な程に。
あのゴブリン軍の身体が、少しテカテカしていた。恐らく、身体に油が塗られていたんだ。
雷の魔法を使う事を想定して、倒されても燃やす為に、ゴブリンロードはこんな特攻を仕掛けさせた…
「山田さん!!!」
「…そ、そんな…!」
山田さんは燃え盛るゴブリンに飲み込まれる、駄目だ、このままだと確実に死ぬ。
ただ、これはどうやっても駄目だ、殺しても死体が燃える、取り除こうとすれば俺等も死ぬ、どう足掻いても駄目だ。
「逃げますよ!」
「ごめん…私が…」
「これは仕方ないんだ!理沙さんは悪くない!」
もう、こうなってしまっては助からないんだ、早く逃げなきゃ、また死人が出る。
逃げる、逃げる、全員夢中で逃げている、襲いかかるゴブリンを撃ち殺しながら、必死に逃げていく。
正直な話、俺は真っ向から勝負しても良い、ただ、この人達を逃がすなら、俺もついて行ったほうが良い。
前方にゴブリンが見えた。
「くっ!ゴブリンだ!突破するぞ!」
「いや、囲まれてます!」
ソルジャーやシャーマンまで居る、マズイ、量が多すぎる、守りきれるか?
「…ここは私に任せて先に行きなさい」
「理沙さん!?」
「こんな時にそんなコテコテな…!」
「良いから行って!私だって責任感じてるんだから…!」
理沙さんの魔力はもう尽きかけている、ここを任せるのは流石に駄目だ。
「行って、一人でも多く生かすのがパーティでしょ」
「…童君、行くよ」
「ちょっ!駄目ですから!」
俺の制止を聞かず、秀さんは俺を担いで逃げる、くそ、戦士には筋力で敵わない。
振り返ると、炎に囲まれもう理沙さんの姿は見えなかった。
「もうすぐで転移陣があるはず、それまで俺が担ぐ、なんとしてでも逃げるぞ!」
なんとしてでも守る。一人でも多く生存者を増やさなければいけない。
…なのに。
「何体…いんだよ」
本当に何体居るんだ、何体も倒してきたし、理沙さんが足止めしたゴブリン達の量も大分多かった。なのに、なんでここまで手が回る。
目の前には…視界を埋め尽くす大量のゴブリンがいた。
おかしいだろ、何体居るんだよ、どう考えてもありえない、多すぎる…まさか、中層のゴブリンを上層に回したのか?
そうでもないとあまりにも多すぎる。
そして、明らかに何故か俺達のパーティを狙ってきている、他にも強いパーティはあるはずなのに、軍の消費をいとわず俺達のパーティを狙うのは何故だ…?
もしかして俺か?
俺が倒しすぎたせいで警戒されてしまったのか?俺が…悪いのか?
「しっかりしろ童!切り抜けるぞ!」
「いや駄目だ!俺が戦う!」
だとしたら、責任は取らないといけない。なに、勝てば良い、倒せば助かる。簡単な事だったじゃないか、今までもそうしてきた、勝てば生きる負ければ死ぬ、それだけだ。
「馬鹿!それは駄目だ!」
秀さんの制止を無視してゴブリンに突撃する。勝てばいいんだ、責任を取れば良い。
魔力弾をとにかく乱射する、出来る限り率先してゴブリンシャーマンを排除していく、いける、所詮ゴブリン、死ぬ気で向かえば勝てる。
責任を取るんだ、絶対に生かす、一人でも多く生かす。
「危ない!!」
その思考のせいで、俺は背後の奇襲に気付けなかった。
ゴブリンライダーの奇襲によって、俺は死ぬ…はずだった。
秀さんが、身体を賭して守らなければ。
「馬鹿…あんだけ大口叩いといて…死に急いでんじゃねー…」
そう言って、秀さんは目を閉じた。
俺が悪いんだ。
俺が弱かったから、誰一人守れなかった。俺はずっと守られていたのに。
ただ、後悔してる暇なんて、ない、俺はもう生きるしかなくなった、俺の命の価値は、俺を助けてくれた人達の命の価値だ。
戦え、俺。
死を無駄にしないために、戦うしかないだろ。
今この瞬間、このゴブリン共全員倒して生きて帰る。それしかないだろ、俺は。
それは、一人でも多くの命を助ける事だ。
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