願いに釣り合うだけの理性があれば争いは要らない 2

 廊下の冷たい光が、ハカノの心臓を冷やす。

双子の鋭い短剣が、亜空間の空気を切り裂き、冷気と緊張が混ざる。

「……っ!」

車椅子を浮かせて距離を取ろうとした瞬間、双子の妹が短剣の魔法を放つ。

激しい衝撃がハカノの車椅子を直撃し、金属が悲鳴をあげて破壊された。


「うわっ……!」

制御していた魔法の浮遊補助も消え、ハカノは無防備に床に落下する。

車椅子なしでは、片腕片足の身体で移動すらままならない。

目の前に迫る双子の姉。刹那、絶望が胸を締め付ける。


だが、そんなとき――前世の記憶が鮮明に甦る。

師匠の低く力強い声が、頭の中で響く。


「立たなければ、戦いに勝つことは――いや、戦うことすら出来ない」


片足に全身の重みを乗せ、もう片方の足の感覚を探る。

痛みが全身に走る。左腕もまだ思うように動かない。

それでも、立つしかない――そう、戦うために。


「……立つ、立つしか……!」

ハカノは片足で地面を蹴り、ふらつきながらも立ち上がった。

魔法の補助で微かにバランスを保つ。

全身が痛むが、心は研ぎ澄まされている。


双子の姉が短剣を振るい、妹が魔法を展開する。

だが、ハカノは車椅子での機動力を失った分、動きを大胆に読み替え、跳躍、旋回、突進を繰り返す。

片腕片足しかない身体とは思えないほどのアクロバット。

魔法の微かな補助が、彼女の格闘能力を底上げする。


「これで終わりだ……!」

姉が言い放つ刹那、ハカノは大剣を錬成し、間合いを詰める。

刃が光を帯び、双子の攻撃を次々と受け止め、反撃に転じる。

姉妹の攻撃は熾烈だが、ハカノは動きの隙間を狙い、片足で地を蹴る度に刃が当たり、短剣が跳ね飛ばされる。


妹が叫ぶ。

「姉さん、気をつけて!」

姉も焦る。魔法の補助が途切れる一瞬、ハカノの大剣が姉の防御をかすめ、斜めに切り裂いた。


一瞬の沈黙。双子の瞳に恐怖が宿る。

「……くっ!」姉は片膝をつきながらも、必死に立ち直ろうとする。

だが、ハカノの決意は揺るがない。

「ここで終わらせる……!」


再び跳躍し、大剣を振り下ろす。

片腕片足とは思えない連続攻撃。双子の防御を次々と崩し、亜空間内の戦いは激しさを増す。

ついに姉の片方の短剣が地面に落ち、妹も後方に押しやられる。


「……生きたい」

双子は戦いの中で初めて心から願った。

だが、戦闘は残酷に進む。ハカノの攻撃は的確で、二人を完全に制圧する寸前まで追い詰めた。


瞬間、亜空間が揺れ、戦闘の幕が閉じるかのように、双子を飲み込み消失した。

ハカノは深呼吸した。

全身の痛みと疲労が一気に襲う。

魔法の補助を切り、身体のバランスを整えながら、亜空間から元の病院へと戻る。


病室のベッドに座り込む。

看護師や他の患者が心配そうに寄ってくる。

ハカノは苦笑いし、手を振る。

「……疲れたー」


車椅子は無事ではないが、もう必要ない。

片足で立ち、戦い抜いたことに、自分自身でも驚いている。

痛みと達成感が混じり、薄い汗が背中を伝う。

だが、それ以上に心は穏やかだった。


静かな病室。テレビの戦隊ものはまだ画面を跳ね回り、空浮き球の試合が続いている。

「……次は、もう少し楽に……ならないのかな」

ハカノは微かに笑みを漏らし、全身の痛みを感じながらも、戦いの余韻に浸った。


遠くの窓の光が、夜の街を淡く照らす。

戦いは終わった――少なくとも今は。

けれど、胸の奥で、次の戦いへの覚悟が芽生えていた。

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