ダーツのキリル

超絶不謹慎作家コウキシン

第1話 アントノフ

暗殺専門の工作員キリルの仕事内容は、ロシア軍空挺師団のヘリボーンを支援することだった 。


俺「C国製の監視カメラはセキュリティがザルで助かるよ。」


暗い部屋でノートパソコンをいじり空港の監視カメラをハッキングしていく。俺は無線機を手にとった。


俺「本部、空港の警備は少なく、携帯してる武器も重火器はない。失敗するなよ。」


本部(?)『(ざーっ!)了解。教えてくれてありがとう。』


俺はその変な返しが気になったが、畑違いの潜入工作に駆り出されていたので、そんなに深く追求しなかった。


ヘリボーンが開始される。


ヘリから訓練通り降下する隊員達。一人で巡回している警備員を次々に数人のロシア兵が制圧していった。


残った空港の警備は一階ロビーでバリケードを築いて抵抗している。


俺「本部、西側の通路ががら空きだ。そこから入って制圧しろ。」


簡単な仕事だった。


空港はすぐに制圧され、後続の輸送機から機甲部隊の車両が降ろされた。


仕事は終わった。と、俺は水筒に用意していた甘めのコーヒー片手に端末の監視カメラの映像を眺めた。圧倒的物量を投入したのだ。


俺「そりゃ、こうなる。」


コレでウクライナはロシアになる。そうなれば長かった潜入生活も終わる。


俺は伸びをした。


その時、端末から爆発の音がした。


どこから?


俺は端末の監視カメラ画像を切り替える。そこには車両数台で空港に乗り付けたウクライナの部隊が映っていた。


ロシア側も楽勝な作戦、それと、輸送機を降ろしたタイミングだったので、気に少し緩みがあったし、

ウクライナ側の襲撃が早かったこともあり警備体制がうまく機能していなかった。


監視カメラ映像が途切れ、無線にロシアなまりのウクライナ語が入る。


無線『イワン(ロジア人を指す俗語)。同郷のヨシミだ、早くそこから逃げたほうがいいぞ?』


俺『盗聴?!いつから?!』


そんなことより、


ガジャン!


俺がいた廃屋の一階の窓ガラスが割られ、複数の足音が聞こえる。


俺「クソ!!」


俺は横に置いていたアタッシュケースをとると端末はそのままに2階から飛び降りた。

廃屋の2階の扉を蹴破る音が後ろでする。が、俺は振り返ることもなく、夜の街に消えていった。




俺はブチャにたどり着いた。


俺『これからどうする?』


街のそこかしこから銃声と悲鳴が聞こえる。


俺『ここも、安全じゃないな……』


仲間のロシア軍がいるからと来てみたが、街は占領軍の虐殺と略奪の地獄だった。俺は侵略戦争の現実に恐怖した。


俺『もっと違うものを想像してた。親露派のウクライナの娘にロシア兵が花飾りで祝福される……。』


自分の理想と地獄の現実に目を覆うしかなかった。


ロシア兵「おい、止まれ!おっさん!」


俺はロシア兵数人に呼び止められた。ロシア兵は銃口をこちらに構えている。


俺「俺はロシアの工作員だ、助けてくれ。」


ロシア兵達は笑った。


ロシア兵A「みんなそう言うぜ!」


ロシア兵B「オッサン!金よこせよ!」


ロシア兵C「金額によっちゃ、見逃してやるぜ!」


俺は財布を恐る恐る渡した。これまでの道中でかなりの金額を使った。

逃亡を助けてもらうために多額の賄賂も数回渡していた。

活動資金は底をつきかけている。


足りない。


そう言われるだろうことは分かっていた。


ロシア兵A「オッサン、シケてんなぁ。おい!」


ロシア兵の一人が俺のアタッシュケースに興味を持った。


ロシア兵B「おい、それ開けろよ。」


俺は渋って見せた。


ロシア兵C「早くしろってんだ。」


俺は観念して地面にアタッシュケースを置くと、それを開けた。中を覗こうとするロシア兵の額にダーツが刺さる。

ロシア兵達は声を発することなく、その場に倒れた。


俺「……信じれば救われる、だ。」




俺は人の居ない家でこれからどうするか考えた。


俺「先ずは、ロシア領に入って、KGBの支局に行こう。」


次の指示を仰がねばならない。


パン!


外で銃声がする。ここでは、普通のことだ。だが、その音と同時に照明が割れる。


俺「!ここを?!昼間の奴らの仲間か?」


俺は真っ暗になった家の中から外の様子をうかがった。暗がりの道の真ん中に背の若干低い細身の男性が立っている。


???「キリル!いるのはわかってる!出てきなよ!」


俺にはその声に聞き覚えがあった。


暗殺工作員部隊の同僚リボルバールキーナ。その人の声だ。


俺『アイツが?ココニ?!』


どういう了見かは聞いてみれば分かる。俺はダーツを数本取って家から出て家の塀に身を隠すと同僚に話しかけた。


俺「ルキーナ。これは本部の指示か?」


月明かりの下、道路の真ん中でルキーナはコンバットマグナム2丁をくるくると回している。


ルキーナ「まぁ、これも仕事さ。悪く思うなよ、キリル。」


ルキーナは一丁を腰のホルスターにしまうと。物陰に隠れた。


俺『ダーツの有効射程距離ギリギリの所に陣取ってやがる。やりにくいな。』


ルキーナは俺が隠れてる塀に向かって2発撃った。

塀の壁に穴が開く。


俺『奴は、こちらの手を知ってる。これは、誘いだ。有効射程距離まで近づくには道路に出なければならない。そこを仕留める気だ。だが。』


俺は出るときに家にあった鏡を持ってきていた。


キラッ!


ルキーナがその光源へ素早く2発撃ち込む、その隙に、俺は反対の塀の崩れたところから通りの雑居ビルの入り口まで走った。


ルキーナはそのとっさのことに反応できなかった。俺は上着からダーツを1本取り出した。


俺「ルキーナ。お前は状況判断に若干遅れがあるぞ!」


ルキーナ「うるさいなぁ、こんな時まで説教かい?余裕だね。キリル。うお!?」


ルキーナの顔の左をダーツがかすめる。


ルキーナ「ヒュー、アンタなんかを敵にしたくはないね。」


パン、パン!


乾いた銃声が鳴る。


雑居ビルの入口の壁が一筋かける。?奴は2発撃ったはずだ。


カン!カン!


ビシッ!


俺「うっ!」隠れている俺の鼻先に弾が飛んで壁にめり込んだ。


リフレクショット。


なんてやつだ。こっちが潜入工作で席を開けている間に、腕を上げてやがる。


ルキーナ「あれ?まだ、生きてるのかい?キリル。運がいいんだぁ。」


俺はダーツを構えた。ルキーナももう一丁のリボルバーに持ち替えた。


俺「調子に乗るな。ルキーナ。」『足元をすくってやる。』


その時、ルキーナの後方で爆発があった。


ルキーナ「うわ!なんだ!?」


俺「!」


ルキーナが後ろに気を取られた隙に、俺は道路に飛び出した。二本ダーツを投げる。


ルキーナはそれに気づいて、1本目は空中で撃ち落としたが、

二本目は間に合わなかった。


ルキーナ「っ!」


リボルバーにダーツが当たり、暴発する。ルキーナはその反動でリボルバーを落とした。

ルキーナの首元にダーツの針が突き付けられる。


俺「俺の勝ちだ。」


ルキーナ「……卑怯なやつ。」


うるさい。勝ちは勝ちだ。そう思ってる間にも爆発は続き、銃撃戦の音がしだす。


ルキーナ「様子が変だ……」


俺はダーツをしまう。


俺「ウクライナ側の突入か?」


ルキーナなリボルバーを拾って、少し考えて腰のホルスターにしまった。


ルキーナ「ここもヤバそうだ。どうする?」


俺「行こう。」


2人は銃声のしない方へ走っていった。



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