第2話 まずは情報収集


 とりあえず、隣国の陛下や父のところに行ってみよう。意図するだけで行きたいところに行けるなんて幽霊ってほんとに便利だわ。


 私が隣国の王宮の貴賓室のサロンに姿を現すと、ちょうど陛下や父が使者からの報告を受けているところだった。


「なんと馬鹿なことを!」


「レティシアを処刑したなんて……」


 陛下は声を荒げ、王妃殿下ははらはらと涙を流している。


「私が国に残っているべきでした。そうすればレティシア嬢を保護できた」


 騎士団長は拳を握りしめている。


 陛下は眉間に皺を寄せる。


「ヴェルナーとくだんの男爵令嬢のことは学園に配置している影達から報告を受けていたのだが、卒業までの関係だと思って放置していた。ヴェルナーがあそこまで馬鹿だったとはな」


 「レティシアは無実ですわ。あの子はそんなことはしません」


「あぁ、レティシアは無実だ。レティシアがそんなことをしていれば影達から報告があるはすだ。まぁ、影などいなくともレティシアがそんなことをする人間ではない。それに、すでに飛び級で卒業していて、学園には行っていないはずだ。毎日、王宮で王妃教育や執務をしている。少し調べればわかるはずだ」


 確かにそうよね。学園には影がうじゃうじゃいると聞いたことがあるわ。私の無実は証明できる。ヴェルナー殿下達は陛下が戻るまでの天下というわけね。


 使者は顔を上げた。


「殿下は何の取り調べもせず、レティシア嬢を処刑されました」


「なんだと!」


「城のパーティー会場からブルーノ様が担ぎ上げ、地下牢に入れた後、パーティーを楽しまれ、パーティー終了後、地下牢から処刑場に身柄を移し、斬首台で……」


「断首だと!」


 使者から報告を受け、王妃殿下は陛下の手を強く握り、顔を見ている。


「陛下、私はヴェルナーを許せません。レティシアはあんなに尽くしてくれていたのに。ヴェルナーは廃嫡にいたしましょう。あの愚か者を次期国王になどできません」


 王妃殿下は涙が止まらない。


「そうだな。元々レティシアが婚約者だったから成り立っていた王太子だ。レティシアがいないなら、ヴェルナーの王太子は無い」


 あら、そうだったの? 私ありきだったとは知らなかったわ。


 父が使者を見る。


「コンラートは何をしていたのだ?」


「コンラート様は殿下と一緒にレティシア様を断罪されておりました」


「なんだと!」


 握りしめた拳から血が流れている。


「養子縁組を解消し子爵家に戻す。いや、平民に落とすか……」


「宰相、これは殺人です。平民に落とすとかそんなことで済ませるわけにはいきません。我が息子を含め、加担した者はそれ相応の罪に問わねばなりません」


 騎士団長、さすがだわ。


 陛下も大きく頷く。


「そうだな。ヴェルナーにも罪を償わせる。まずはレティシアの名誉を回復しなければならない。その上で国葬を出そう」


 いや、国葬までしてもらわなくてもいいわ。名誉を回復して、あの者たちに罰を与えてもらえればそれでいいの。


「とにかく戻ろう。今すぐ出立しても我が国に到着するまで10日はかかる。こんな時、魔法で移動できればな。私ももっと魔法を学んでおくのだった」


 陛下はため息をついた。


 我が国は基本、魔法が発達していない。伝達の仕事をしている者や暗部の者以外は訓練をしていないので、移動の魔法は使えない。


 それを幽霊の私は簡単に使えているから、幽霊ばんざいという感じだ。


 陛下に信書を託され使者は移動魔法で国に戻った。


 陛下や父、騎士団長達の考えはわかったので安心した。もし、陛下が保身のためにヴェルナー殿下達を庇ったら、呪い殺してやるところだったわ。


 さて、私も国に戻ろう。


 母はどうしているだろうか。義弟が私の処刑にかかわっているのだから心を痛めているだろう。


 我が家に戻るか。



~*~*~*~



 家に戻ると母が義弟を追い出しているところだった。


「お前をこの家に入れるつもりはありません。義姉を助けるどころか一緒になって陥れるとは。そんなお前など我が家には要りません。養子縁組を解消します。子爵家に戻りなさい!」


「義母上、落ち着いて下さい。義姉上が悪いのです。処刑されても仕方ないのです。私と養子縁組を解消したら後継がいなくなります。義父上が戻ったら叱られますよ。困るのは母上ではありませんか」


 なんて言い草だ。母を脅すのか。義弟はいつからこんな悪い奴になっていたのだろう。


「後継なんてどうにでもなります。夫は叱るどころか褒めるでしょう。誰かコンラートを子爵家に送り返して頂戴」


 母はピシャリと扉を閉めた。コンラートは我が家の騎士達に羽交締めにされ、馬車に乗せられた。


 馬車に着いて行ってみるか。幽霊は空も飛べる。めっちゃ快適だわ。


 コンラートが乗った馬車が子爵家に到着した。


「戻ったか」


「はい。父上、私は悪くない。公爵が戻れば私が悪くないことがわかります。それまでこちらで……」


 子爵はどうするのかしら? 私が姿を消し見ていると、子爵はいきなりコンラートを殴りつけた。


「護衛騎士! この愚か者を使用人部屋に監禁しておけ。逃げ出さないようにしっかり見張れ。食べ物は死なない程度にやればいい。私は公爵邸に行ってくる」


「父上」


「お前のような不忠義者は息子ではない。恩あるレティシアお嬢様に仇をなすとは何事だ! 誰が許しても私は許さない」


 まぁ、子爵ったら良い事言うわね。確かに私は子爵領の特産物を作る時に色々お手伝いしたのよね~。


「放せ!  放せ! 父上!」


 コンラートは騎士達に捕らえられジタバタしていたが、すぐに部屋に放り込まれた。


 コンラートに復讐するのはまだ後でいい。私もひとまず屋敷に戻ろう。


 公爵邸の自分の部屋に戻るのは久しぶりだわ。今日はベッドでゆっくり眠って、明日から復讐を始めましょうかね。


 大きなあくびが出た。ベッドに入り、目を閉じる。昨日から色々あったなぁ。まさか、幽霊になるなんて夢にも思わなかった。


 さぁ、明日から本格的に復讐開始だ。今夜はゆっくり眠って英気を養っておくとしよう。


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