第14話 視る者、視られる者
魔術治安局が儀式場を襲撃し大爆発した頃、フィリアはその混乱に乗じて、祭壇から逃げようとした。
だが、そう簡単には行かなかった。魔物達と魔術治安局の戦いは苛烈を極めており、隠れるので精一杯だった。
それと同時に、フィリアは気づいた。自分に新しい能力が芽生えている──魔力の流れが“見える”のだ。誰がどこにいて、どの術を構えているのか、魔力の動きから分かる。
まるで神経の網を視ているようだった──空間全体に走る魔力の線が、術者の意図と力の向きを浮かび上がらせる。
さらに彼女には、アリシアとの魔術研究の日々とマティアスの記憶がある。
そのため、マティアスがどのように戦況を動かすか、ある程度は想像できた。
戦況をみていると魔術治安局の方が分が悪そうだった。
コルヴィエルの音響魔術で耳を塞がれ、グライアスの魔眼で視界を限定されていた。
彼女はマティアスの過去を知ったとはいえ、アリシアを殺された憎しみがある。
だが魔術治安局に手を貸し、勝利したとしても、闇の魔術の儀式に使われた危険なホムンクルスとして魔術治安局の決定で廃棄処分になる可能性もある。
それではアリシアに逃げろと言われたこと、幸せになれと命令されたことと、その意に反してしまう。
フィリアは迷った。
アリシア「フィリア、お前も常識とは何か疑って生きていけ」
フィリアは唐突に、創造主であり母でもあるアリシアの言葉を思い出した。普通の人間やホムンクルスだったらここから迷わず逃げるだろう。
フィリアは一か八かの賭けに出た。
魔術治安局の味方につくことにした。この戦況では逃げられない上に、逃げたとしても、マティアスや魔術治安局に捕まってしまえば終わりだ。
ここで魔術治安局に力を貸し、功績を残せば──
危険なホムンクルスとしてではなく、有用な存在として処遇されるかもしれない。
逃げるのではなく、生き延びるための“賭け”。それは、誰かに敷かれた運命ではない。自分自身で選んだ、初めての“生きるための賭け”だった。
フィリアは姿を現し、思念を魔術治安局の隊員達に送った。
フィリア「私は敵じゃない。戦況は把握している。魔力の流れが“見える”。協力すれば、勝てる道がある」
ダリル「騙されるな!あいつはマティアスの儀式に使われた人形だ。俺たちを出し抜こうとしてるかもしれないだろ!?」
ダリルが部下たちに怒りながら思念を飛ばす。
フィリア「違う!信じられないなら今すぐ右後ろを見て。スキュリドが迫ってる。それを囮に、マティアスが足元に罠を仕掛けてるの」
ダリルは反射的に右後ろを振り向いた──そこには確かにスキュリドが迫っていた。
拘束魔法の話が本当かどうかなど考える余裕はない。ただ本能で、咄嗟に跳んだ。
その瞬間ちょうど下に魔法陣が現れ、拘束魔術が作動していた。
フィリア「その次に後ろから魔法陣が出現して、魔力弾が放たれる!!」
ダリルは疑っていたが、勝手に身体が動いていた。
まるで彼女の言葉に体を操られているような感覚だった──
だがその導きに、今は身を任せるしかなかった。
フィリアの言葉どおり、魔法陣が発動し、ダリルが間一髪で罠を回避した様子を見た他の隊員たちも、
動揺しながらも彼女に耳を傾け始めた。
「本当に見えてるのか……?」
「ダリル、どうする?」
フィリア「そこの貴方右隣りからーーーーー」
フィリアの言葉が真実であることを確認した他の隊員達もフィリアの話を聞く、それにより、戦況は大きく変化した。
この状況にマティアスは違和感を覚えた。全てを予測され、自分と戦っているような感覚を覚えた。
一体何が戦況を変えた、怒りと焦りが、マティアスを支配した。
マティアスはボロボロの黒いウェディングドレスを着たホムンクルスを見る。
マティアス(あれだ!!! あの人形、私の記憶の力で何をするか予測している!!!)
マティアスマティアス「■■■▲▲▲▲〇……………?…?!……。。。。。」
マティアスが呪文を唱えると小柄な子供くらい醜悪な魔物が生まれた。
マティアス「あの人形を殺せ!!」
魔物はマティアスの命令を受けると、ずるりと皮膚を剥ぐように姿を消した。
空気が歪み、気配だけが重く残る。
フィリアの背後、ゆっくり、静かに、死が忍び寄っていた──
魔物の名前はヴェルグリム、隠密行動に長けた魔物である。
フィリアの背後、何かが確かに迫っていた。寒気が走り、彼女は反射的に振り返った──
だが、そこには何もいない。空気の濃度だけが、そこだけ異常だった。
(……来てる、でも見えない……!)
その瞬間、正面から誰かが駆け込んできた──ダリルだった。
彼の放った魔術弾が、虚空を貫いた。
バシュゥッ!!
透明だったはずの空間が揺らぎ、ヴェルグリムの断末魔が小さく響いた。
魔術弾によって、ヴェルグリムは始末されていた。
ダリル「魔力の流れは見えてもこれは見えてなかったな。人形が」
ダリルが見下したような思念を飛ばす。
ダリルはヴェルグリムの対処には慣れていた。政治家や要人の警護の際に、ヴェルグリムの匂い探索方法はよく分かっていた。
フィリア「………ありがとう。」
マティアス「くっ…………!!!」
拘束術式が重ねがけされ、マティアスは力尽きるように膝をついた──その顔に浮かんだのは、怒りか、敗北の実感か……誰にも分からなかった。
隊員達が、もう一つの棺に、触ろうとした瞬間だった。
マティアス「それに触るな!!!!!!!」
マティアスが激昂するも、棺の取り調べは行われた。棺の中からまるで時間が止まっただけのような、眠るような顔。精悍な顔と美しい肉体美がそこにあった。
遺体から身元も調べられた。
ダリル「……人の命、弄ぶ奴ってのは、時代が変わってもどうしようもねぇな」
ダリルは呆れたように呟く
マティアス「許さぬ……許さぬ……許さぬ……許さぬ……許さぬ………」
マティアスの目が黒く濁っており、フィリアは異変に気づいた。
マティアスの声に呼応するように、祭壇から人の皮や死骸からできた、盃が現れ、瞬時にマティアスの目の前に現れた。盃の中には黒い泥水が入っており、マティアスは瞬時に飲み干す。
その瞬間マティアスの身体が泡立ち、皮膚が裂け、内部から別の命が現れたような姿になっていた。
マティアス「ライゼルを返せーーーーーー!!!!!!!!!」
その憎悪の言葉とともに、マティアスの姿は異形に変わっていった。
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