聖女が現れた(アイリス過去SS)
わたしアイリス、今4歳。
どうやらこないだ熱を出して死にかけたおかげで、前世の記憶とやらが蘇ったようです。うんうん、やっぱりあの「やり過ぎちゃったかも」でやられ過ぎた前世の私は死んだみたいだね。
回復してから数日、熱のせいでボーっとしているふりをしながら両親から色々聞いてみた。
どうやら死んだ私がいたあの頃からは随分時が経っているらしく、あのクソビッチが伝説の聖女と言われて神の如く崇められているんだってさ。
アダームが言っていた通り、あの聖女はクソビッチだったんだろう。その言葉をあの女に言った後から余計に酷い拷問を受けるようになったけど、それだけ反応するという事は自覚があったという事に違いない。
アダームは結局どうなったんだろうか。
冒険者として世界を回ると言っていたらしいから、本当に世界を回ったのかもしれないね。まああれから130年以上も経っているからアダームも生きてはいないだろうけど、別れた後に前世の私の事を少しでも思い出してくれてたなら嬉しいな。
この前世の記憶というのを素直に受け入れられたのはアダームの影響だね。
アダームは勇者と呼ばれていたけれど、最初から勇者だったわけじゃない。凄く努力をして勇者と呼ばれるほどに力を付けた努力の人だった。
彼と私の出会いは、前世の私が5歳の時。当時の私は現在神国と呼ばれる前のアルゴルリアという島国の西、港町ニチャを治める伯爵家の令嬢だった。
酷い嵐で海が荒れた翌日、港町に打ち上げられた彼を、亡くした息子の代りにと助けて連れ帰ったのは私の乳母だった。我が家の使用人として育った彼は、大きくなるにつれ力強くなり、騎士訓練を受けるようになり、騎士としての頭角を現すようになった。
私と年齢が近かったこともあり共に勉強をするようになれば、その賢さは両親ですら舌を巻くほどで、そのうち将来の婿として考えられるようになり、我が家の分家と養子縁組をしてから婚約者となった。
アダームと名付けられた彼の知識は幅広く、これから将来ずっとこうして過ごすのだろうと疑っても居なかったある日、あの事件が起きた。
アダームと出会ったあの時の嵐、あれは数十年に一度と言われるほどの嵐だったんだけど、それと同規模の嵐が起きた。アダームが17歳、私が18歳、結婚まであと半年という時だった。
◆◇◆◇◆◇
「大教会に雷が落ち、聖女様がご来臨なされたらしい」
父から聞かされたのはそんな話。聖属性を使える方が教会でお勤めをしているけれど、彼らは司祭や司教と言った呼び方をされており、聖女などと呼ばれる人はおりません。
聞けばその女性は落雷で辺り一面が真っ白になったその直後、創世神像の中央に座り込んでいたらしいのですが、見たこともない衣装を纏い、非常に美しいその女性は自分が聖女であり、この世界に蔓延る悪を討伐する為に神々から遣わされたと言ったのだそうです。
「アダームはどう思う?」
「俺? 眉唾だと思ってる。何らかの形で異世界から召喚された可能性は俺みたいなのがいるからあり得るけど、自分から聖女って言ったんだろう? そういう奴は大概『ビッチ』な『クソ』が多いと思うぞ」
父が慌てて部屋を出た後、2人きりになったアダームに聞いてみました。
アダームは前世の記憶があるらしく、そこは文明が非常に発達した場所で、魔法はないけどその代わりに科学というものが発達した世界で生活していたのだと。その記憶があるからこそ勉強もできるし、色んな知識があるのだと随分昔に教えてもらいました。
荒唐無稽な話だと、他の大人たちには一蹴された事があり、私にだけ教えてくれるアダームの秘密のお話は、この窮屈な世界でしか生きたことのない私からすればとても魅力的で楽しいものだったのです。
「ビッチナクソってどういう意味? それもチキュウでの言葉?」
「あ~~~、あれだ、良くない事を企んでいる悪い女って意味だな。言葉としても良くないから使わないようにな」
確かに貴族は嫌味でも何でも遠回しに発言しますから、そんな直接的な悪口を使うことはないでしょうが、そんな言葉を思わず言ってしまうとは、アダームの世界の聖女とはどういう人たちだったのでしょう。
アダーム曰く、聖女とはその行動を見て皆が聖人のようだと崇める為にその人を讃える為につける呼称であり、本人が名乗るようなものではないと。だからこそそんな事を自ら言う相手は信用できないという事でした。
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