暗殺の音色
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──暗殺の音色
皇帝アルブレヒトによる体制が始まって、民主派諸侯たちが不安を覚える中、ルートヴィヒと妻テオファヌが宮殿に招待を受けた。
「アルブレヒト兄上──皇帝陛下が?」
アルブレヒトから突然の招待にルートヴィヒが怪訝そうにそう繰り返す。
「はい、殿下。陛下が殿下と奥方様にお会いしたいと仰っています」
「しかし、用件は?」
「おふたりとの間にある誤解を解きたいと仰っています」
「そうか。ありがとう」
「では、失礼いたします」
メッセージを伝えた侍従はそう言って去った。
「どうにも嫌な予感がするよ、テオファヌ」
ルートヴィヒがテオファヌにそう言って憂鬱そうな表情を浮かべる。
「そうでもないかもしれませんよ。これまで陛下は我々のいうことを聞いてくださいませんでしたが、ようやく耳を傾けようと思われたのかもしれません」
「そうだろうか? 兄さんがそんなに簡単に意見を翻すようには思えない」
アルブレヒトはこれまでルートヴィヒやヴィンターラント公、ライン公に、その時代に逆行するような政治スタンスを止めるように求められてきた。
だが、アルブレヒトがそれに応じることはなく、彼は傲慢に物事を進めた。時代に逆行する皇帝親政へと。
それが一度ぐらいルートヴィヒと会ったぐらいで変わるとは、ルートヴィヒにも思えなかった。
「殿下。アルブレヒト陛下に子供がいない今の次の皇帝はあなたなのです。であれば、あなたの言葉に耳を傾けることはおかしくありませんよ」
未だにアルブレヒトとユーディトの間に子供はいない。よって現在の皇位継承権はルートヴィヒが最上位である。
こうしてルートヴィヒたちはアルブレヒトの招待を受けることに。
最近の帝都はやたらと警察軍のパトロールが多く、その多くはMP53短観銃などで武装している重装の兵士たちだった。
ルートヴィヒたちはそんな帝都を警察軍と警護についている皇帝親衛軍の将兵に守られて進み、冬の宮殿に入る。
「ようこそ、ルートヴィヒ殿下。皇帝陛下がお待ちです。こちらへ」
ベセラー侍従長の案内を受けてルートヴィヒたちは宮殿内のアルブレヒトの執務室に通された。扉の前には皇帝親衛軍の兵士が2名立っている。
彼らは不気味なほど沈黙しており、ルートヴィヒとテオファヌは何が待ち受けているのだろうかとわずかに身を固くする。
「ルートヴィヒ! 我が弟よ。最近は皇帝という仕事に忙しくしていて、会えなかったが、テオファヌ嬢とふたりで息災か?」
しかし、アルブレヒトは思ったよりにこやかにルートヴィヒたちを出迎えた。
ルートヴィヒにとってはとても意外であった。ここまで裏表がなくにこやかなアルブレヒトをルートヴィヒは久しぶり見たからだ。
ここ最近のアルブレヒトは野心に燃え、傲慢な笑みこそ浮かべれど、ここまで朗らかな笑みなど浮かべていなかった。
「ええ。ありがとうございます、皇帝陛下。今回のご用件というのは?」
誤解を解きたいというアルブレヒトの言葉は本当なのではないだろうかと、ルートヴィヒは僅かに期待しながらそう尋ねる。
「俺は少しばかり権力というものに酔いすぎていたらしい。今思えばやるべきでなかったことも多くやってしまった。お前たちにも心配をかけたことだろう」
アルブレヒトのその言葉を聞いてルートヴィヒはテオファヌが言っていたことが正しかったかもしれないと思い始めた。アルブレヒトは考えを改めようとしているのだと。
「再び俺の弟としてともに帝国のために働いてはくれぬか、ルートヴィヒ?」
「ええ。もちろんです、陛下」
ルートヴィヒはアルブレヒトに向けて信頼の笑みを浮かべる。
「助かる。では、まずは──」
しかし、その次の瞬間、アルブレヒトの手に口径9ミリの自動拳銃が握られていた。
「死んでくれ、弟よ」
すぐに銃声が3発響き、ルートヴィヒの体がその場に崩れ落ちる。
銃口から硝煙の煙が立ち上り、絨毯に真っ赤な血がゆっくりと広がっていく。ルートヴィヒの纏っていたスーツにも赤い血がしみだしていた。
「殿下っ!」
テオファヌが叫び、倒れたルートヴィヒに駆け寄る。しかし、ルートヴィヒは銃弾を受けて即死しており、既に物言わぬ躯と化していた。
「な、なんてことを! 何をなさるのですか!?」
テオファヌがそう叫ぶがアルブレヒトは気にもせず、拳銃を投げ捨てた。
「衛兵!」
そして、アルブレヒトが叫び、外にいた皇帝親衛軍の兵士たちが駆け込んできた。彼らは手に握ったStG47自動小銃の銃口を──テオファヌに向けた。
「この女がルートヴィヒを殺した。すぐに連行しろ。それから警察軍司令官のフリックス大将に連絡を取れ。急げ!」
「了解です、陛下!」
皇帝親衛軍の兵士はすぐさまテオファヌを拘束して連行し、皇帝親衛軍と警察軍が宮殿内を封鎖した。
ただアルブレヒトの執務室は皇帝親衛軍の兵士たちのみによって警備され、その間に拳銃やルートヴィヒの死体が回収されて行く。しかし、その際に凶器となった拳銃は別のものとすり替えられていた。
テオファヌの身柄は最寄りの皇帝親衛軍駐屯地に移送され、すぐさま非公開の軍法会議が開かれることが警察軍司令官フリックス大将と新しい内務大臣、そしてハルデンベルク宰相によって決定した。
このことが報じられ始めると各方面から驚きと憂慮の声が上がり始める。
ルートヴィヒの暗殺には不可解な点が多すぎたのだ。
何故テオファヌがアルブレヒトの執務室でルートヴィヒ暗殺を行ったのか?
何故アルブレヒトは暗殺を逃れたのか?
何故テオファヌがルートヴィヒを暗殺することを狙ったのか?
動機にも状況にも謎が多かったのである。
「どうなっているのだ、ハルデンベルク宰相! 私の娘がルートヴィヒ殿下を殺したというのか!? ありえない!」
そう訴えかけてきたのはヴィンターラント公である。彼は宰相官邸にて慌てた様子でハルデンベルク宰相に詰め寄っていた。
このほかにも民主派議員や諸侯から公開法廷で扱うべきだという意見がいくつも届き、病気療養中であったライン公からも強い憂慮の念が伝えられている。
「現在、その容疑があるという話です。警察軍と関係機関が適切に対応しております」
しかし、ハルデンベルク宰相はもちろんアルブレヒトもそのような意見に耳を貸すような気配はまるでなく、非公開軍事法廷での扱いは決定したものとして扱われていた。
「では、なぜ非公開の軍法会議などを!?」
「閣下。宮殿内で人が殺されたのです。しかも、皇帝陛下は自分も狙われたと仰っている。これが事実であれば大変な事件であり、同時に大逆罪の可能性もあります。このような重要な事件は非公開でなければ」
「せめて弁護士をつけさせてくれ」
「こちらで準備してあります」
ヴィンターラント公の訴えをハルデンベルク宰相がことごとく退ける。
「今は自身の娘を信じられては? 無実の者が罪に問われることはありません」
「…………分かった。そうしよう」
この後、テオファヌ・フォン・ヴィンターラントはルートヴィヒ暗殺の実行とアルブレヒト暗殺の謀議にて大逆罪となり、銃殺刑となった。
テオファヌは最後まで自身の無実を訴えていたが、軍事法廷はその主張の全てを否定した。軍事法廷は彼女を有罪とし、処刑を決定。そのことはヴィンターラント公に知らせられた。
「おお。テオファヌ……。私の娘よ…………」
ヴィンターラント公はその知らせに号泣した。
そして、今や帝国中央と諸侯の間には衝突寸前の空気が流れている……。
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