ラグナロク・ノア〜続編は現実でリスタート!?〜

久遠夢珠

第1話 続編は現実でリスタート!? Ⅰ




 ゲームがあり触れる昨今では実に様々なジャンルのゲームが発売されている。


 ゲームの王道とも言えるRPGは誰もが知っているし、一度は遊んだ事があるだろう。


 某ポケットなモンスターの様な育成ゲームも有名だ。


 他にもプレイヤーの反射神経が問われるアクションゲームだって存在する。


 シンプルなゲームも複雑なゲームも、


 長大なストーリーもフリーシナリオも、


 様々なゲームが有る中、こんなジャンルのゲームはご存じだろうか?



 所謂"シミュレーションゲーム"と呼ばれるジャンルだ。



 某文明発展ゲームや、戦国時代の日本を舞台とした戦争ゲーと呼ばれるジャンルもシミュレーションゲームだ。


 人によってはストラテジーゲームと言った方が馴染みが有るかもしれない。


 ともかく、幾多あるゲームジャンルの中で"戦争"をテーマとしたゲーム作品があるのだ。


 古今東西、戦争とは悲惨で凄惨なもので良くないものだと教えられる。


 しかし争いによって発展してきた人類が戦争と切っても離せず、またそんな戦争だからこそドラマが生まれるのを我々は知っている。


 日本で言えば時代を進めた織田信長に立身出世の代名詞豊臣秀吉、太平の世を築いた徳川家康。


 お隣の国に目を向ければ某漫画の影響か曹操・劉備・孫権の三国志はとても有名だ。


 ヨーロッパに飛べばそれこそ数え切れないほどの英雄英傑が歴史に名を残している。


 英雄達の輝かしい戦歴と人生に魅了される人は少なくなく、魅了されるからこそ真似したくなるのも道理というもの。


 とは言え大半の人は実際に戦争が起きて欲しいと思う訳でも無いし、戦争で活躍できる自信もないのだ。


 だからこそ"戦争ゲーム"というものがあるのだろう。


 ある作品では歴史上の人物の一人となって強敵・強国を撃破し天下統一を目指し、ある作品では国家元首として国家を導き勝利と栄光を齎す。


 歴史をなぞらえた作品もあるが、そこから僅かに視線を逸らせばファンタジーや近未来を舞台とした作品だってある。


 ファンタジー作品なら現実では存在しない"魔法"や"神秘"が組み込まれているし、所謂"SF"作品なら広大な宇宙を舞台に大艦隊を指揮するゲームだってある。






――――さて、今回俺が遊ぶのはそんなファンタジー世界を舞台とした戦略シミュレーションゲーム『ラグナロク・ノア』だ。









「あちぃ……」


 もうすぐ夏だというのに何という暑さなのだろうか。

 まだ夏ではないというにも関わらずこの暑さなら、今年の夏はどれ程暑くなるのか想像もつかない。


 海の水が干上がってしまうのでは?


 暑さにやられたせいかそんな妄想が脳裏を過る。


 俺は駆け込むようにして自宅に帰還を果たすと、我が家は冷房の恩寵をもって俺を迎い入れてくれた。


「――おぉ! 神よ!」


 こうなることを見越して冷房を付けたまま家を出た朝の俺は予言者間違いなしだろう。


「………………」


 やはり暑さで脳が溶けたのかもしれない。


 首を振ってくだらない妄想を切り上げた俺はそそくさと家へと上がり、まずはシャワーを浴びることにした。

 暑さで大量の汗をかいたところに冷房を浴びれば風邪を引いてしまう。サッパリするという意味でも初手の動きはシャワー1択だった。


「――ふぅ……すっきりした!」


 え? 男のシャワーシーンなんて見せませんよ?


 誰得だよ。せめて俺が超絶美少女なら楽しめたのだろうが生憎彼女もいないフツメンなもので……。

 まぁそのせいで若干性癖を拗らせていなくもないが、誰に迷惑もかけない一人暮らしなので許して欲しいマイマザーよ!


 どうでもいいが両親は俺の一人暮らしを心配していた。風邪でも引こうものならそんな両親に心配を掛けてしまうので、そういう意味でも汗を流すのは大事だと言えた。まぁ一人暮らしをするにあたっての条件だと思えばいい。


「うーむ……」


 目下そんな俺の悩みは今日のお昼ご飯だ。

 幾ら今が涼しいとは言え、数分前には炎天下の下に居たのだ。肉のようなヘビーなものは胃が受け付けない。それに折角空いた時間だ。有効活用という意味でも手間の掛かる料理はしたくなかった。


 こんなことなら帰り掛けにコンビニに寄ってカップ麺の一つや二つ仕入れておけば良かったと思うも後の祭り。

 やはり暑さで脳がやられていたいたのだろう。


「まぁ困るのは俺だけだから良しとして…………何かなかったっけなぁ」


 ゴソゴソと漁っていると一箱の段ボールが目についた。


「なんだっけこれ?…………あっ」


 中身は大量の素麺だった。

 ふと気になって宛名を確認すれば案の定兄からの届け物だった。


 聞いて驚け!

 この大量の素麺(1ヶ月分)は誕生日プレゼントなんだぜ! ハッハッハ!…………………………ハァ。


 昔は一緒に見てたアニメのフィギュアだとかを誕プレにくれた兄はもういない。

 何も俺の一人暮らしを心配していたのは両親だけではなかった。我が兄上もその一人だったのだ。


 確かに飢え死にの心配だけはなくなったけどさぁ……。


「まぁいいや。今度兄の誕生日にエロゲでも送り付けてやろう」


 ささやかな復讐を心に決めつつさっそく素麺を茹でていく。

 ささっと準備して……


「いただきます」


 テレビを付けながらずずずいっと素麺を啜る。

 うん、ふつーだな。素麺にこれ以上何を言えばいいと?


『――次のニュースです。無人惑星探査機・グラディウスが火星にて人工物と思われる建造物を発見しました。一部の有識者の間では古代文明の存在が――』


 因みにニュースは見ていない。ただのBGMだ。

 10分程ずずずいっと素麺を啜った俺は手早く後片付けを済ませて自室に入った。


 部屋はシンプルに大きめな机一つとベットが一つというもの。

 ただし机にはデスクトップ型パソコンが鎮座していた。これは父が成人祝いで買ってくれたパソコンだった。我ながら家族に愛されているのが分かる。


「さてと。早速時間が空いたんだ。この三日間はゲーム三昧だぜ!」


 さっそくパソコンを起動してサイトを確認する。


「おっ、あったあった」


 今日は待ちに待った新作ゲームの発売日だったのだ。


「『ラグナロク・ノア』…………1年も発売が延期してくれたんだ。バグがあったらただじゃおかないぞ!」


 俺が今回遊ぶのは『ラグナロク・ノア』と呼ばれる、所謂"戦略シミュレーションゲーム"という奴だ。

 戦争ゲーの一種であり、タイトルからも分かる通り作品のモチーフは歴史ではなく神話、つまりはファンタジー世界が舞台となる。


 この『ラグナロク・ノア』は、実は続編タイトルで3年前に発売された『ラグナロク・ノヴァ』と世界観を共有している。

 とは言え事前に見たホームページの情報によると、世界観こそ共有しているものの前作の舞台である『ラグナロク・ノヴァ』――通称『ラ・ノヴァ』の舞台が登場する事はなさそうだ。


 大雑把に世界観を説明すると、




 遥かな昔、オールドワールドが緑で満ちていた時代。

 第一の大陸アインスベルクに最初の命が芽吹き、長い年月を掛けて幾多の種族を生み出した。


 【妖精族】【鉱霊族】【巨人族】、――――そして【魔人族】。

 彼らは道具を生み出し、文明を築き、そして魔法を編み出した。


 やがてそれは信仰へと至り、遂には争いに発展した。


 "神々の戦いラグナロク"


 原初の大樹ユグドラシルを制したのは【妖精族】の中でも【光】に属するエルフと呼ばれる種族であり、豊穣の女神フリッグであった。


 大戦後、多くの種族は海を越えて未知なる大陸へと逃げ延びた。

 第一の大陸アインスベルクの支配者となったエルフは、逃げ損ねた【魔人族】と、同じ【妖精族】でありながら無尽蔵の嫌悪の対象である【闇】のダークエルフ達を差別した。

 【魔人族】は労働奴隷として使役され、ダークエルフは侮蔑と嫌悪、嘲笑と娯楽の玩具として尊厳の限りを踏み躙られたのだった。


 その理由はエルフとダークエルフの始まり、そして"美徳"と"信仰"にあった。

 エルフは長大な寿命を持つものの、その反面気長な性格が災いして種としての繁殖力は低く、"貞節"を美徳としていた。

 しかし一部のエルフの女性達はその価値観を否定し、当時は名もなき神へと乞い願ったのだ。


 そうして生まれたのがダークエルフであった。


 ダークエルフとなった女性達は"色欲"を美徳とし、快楽と欲望に忠実に生きた。彼女らの願いを叶えた神はやがて英雄の女神フレイヤと呼ばれ、そんな彼女達をエルフ達が否定するのも時間の問題であった。


 そしてそれが【光】と【闇】の始まりだった。


 この問題は【妖精族】に留まらず、他の種族にも波及していった。

 【妖精族】は光のエルフと闇のダークエルフに。

 【鉱霊族】は光のドワーフと闇のドヴェルグに。

 【巨人族】は光のムスペルと闇のヨトゥンに。

 他の種族にも"美徳"と"信仰"を変える異端者が現れ始めたのだった。


 その後一つの隕石がこの世界へと堕ち、地殻変動による気候変動と、ゴブリン・オーク・ライカンといった【魔人族】の誕生により水面下でくすぶっていた火種が一斉に吹き出し大戦へと至った。

 それが神々の戦いラグナロクであり、新しき時代の始まりであった。


 虐げられたダークエルフはその長大な寿命故にエルフから受けた屈辱と恨みを忘れる事はなかった。

 エルフの監視の目を掻い潜り、一部のダークエルフ達は地下へと潜伏し雌伏の時を耐えた。

 かつてはエルフと同様に虐げていた【魔人族】にもその頭を下げ、予言の巫女ヴォルヴァの仲介の元、同盟を願った。

 【魔人族】もまた、エルフに虐げられるこの現状を良しとはせず、ダークエルフの誠意に大戦以前の怨恨を飲み込んでその手を取った。


 そうして千年。

 密かに力を蓄え続けていたダークエルフと【魔人族】は、遂に決起の時を迎えたのだ。


 <プレイヤー>はダークエルフの若き指導者の同盟者として共に立ち上がるところからゲームはスタートする。




 因みにこのゲームは15禁である。

 なんかエロゲみたいな設定がそこかしこに散りばめられているが………………15禁である。




 ゴホンッ。ともあれこれが『ラ・ノヴァ』の世界観だ。

 そして続編タイトルである『ラグナロク・ノア』――通称『ラ・ノア』は海を渡り他の大陸へと移り住んだ【鉱霊族】と【巨人族】、そして他の大陸の原住民である【魔人族】が勢力を競い合うというものだ。


 ゲーム性は前作から大きくは変わってはおらず、ターン制戦略シミュレーションゲームで六角形ヘックスで構成されたマップ上に散りばめられた都市や村、資源スポットを占領していき勢力を拡大していく"内政""外交"の【戦略パート】と、軍団同士のぶつかり合いで発生する戦場マップをフィールドに、ユニット動かし敵ユニット及び敵軍団の撃破を狙う"戦争"の【戦術パート】に分かれる。

 プレイヤーは勢力の指導者といて自勢力の強化を図り、他勢力と戦争をして征服するというもの。


 前作の『ラ・ノヴァ』において敵は基本エルフのみだった。プレイヤーサイドであるダークエルフ及び【魔人族】は反体制派のテロリストのようなもので、始めは小さな勢力から徐々にエルフの支配領域を削っていき遂には逆転、そのまま打ち倒すというもの。


 だが今作は少し違う。

 まず【鉱霊族】の光のドワーフと闇のドヴェルグ、【巨人族】の光のムスペルと闇のヨトゥンに共通の敵性勢力として【魔人族】の五つ以上の勢力が存在するのだ。

 この五つ以上というのは、まず今作は3つのフェーズに別れているからだ。


 ・第一フェーズは大陸統一編。

 第一の大陸アインスベルクを脱出した彼らが行き着いた新天地は一つだけではなかったのだ。ドワーフ・ドヴェルグ・ムスペル・ヨトゥンそれぞれが別個の大陸に辿り着き、新たな文明を築いた。しかし千年の長き時は内部構造の軋轢を生み、やがては同族間の争いにまで発展した。<プレイヤー>はその別たれた一頭を率いて種と大陸の統一を目指す。


 それが第一フェーズであり、要はチュートリアルでもある。

 この際、【魔人族】に対する政策方針も決めることになる。手段は3つあり、支配・共存・排除の選択が取れる。


 ・第二フェーズは種族大戦編。

 同じタイミングで種と大陸を統一した他種族勢力との大陸間戦争。時には争い、時には手を結ぶ等して勢力バランスを有利に傾けていく。

 

 ・第三フェーズは包囲網編。

 大きくなり過ぎた自勢力に対して危機感を抱いた他勢力が一斉に手を結び、自勢力に対して反抗の意を示す。

 この状態になると包囲網の盟主として立つ最大勢力を倒すか、一定ターン数が経過するまで外交コマンドが一切使用できなくなる。これまでの条約は全て破棄され停戦も出来ず、文字通り世界を敵に回す事となる。


 この3つのフェーズを得て四つの大陸を征服するのがゴールとなるのが今作の『ラグナロク・ノア』だ。

 因みに【魔人族】に対する政策もエンディングのルート分岐に関わってくる。




「キタキタキタキタキタ!」


 俺はこの瞬間を待ち望んでいた。

 ここまで長々と振り返っていたのはダウンロードの時間が暇だったからだ。昨今のゲームはパッケージよりもダウンロードの風潮がある。スペシャル特典版を買うのであればパッケージ一択だが、今の俺の懐ではスペシャル特典版を買うことは出来なかったのだ。


 5万は高いって……(泣き)


 泣く泣く諦めた俺は、なら少しでも安くすむ方をと思ってダウンロード版にしたのだ。パッケージが無い分ちょっとだけ安くすむんだよね。


 そうこうしている内に無事ダウンロードが完了したようだ。

 態々他ゲーをアンインストールして要領を開けておいた甲斐があるというもの。


 因みに前作は消してない。

 別に何か引継ぎ要素が有る訳でもないけど、新作を待ちきれず昨日まで遊んでいたからか消す気にはなれなかったのだ。


 ショートカットアイコンがデスクトップ上に出現する。

 ワクワクする気持ちを押さえながらゆっくりとマウスカーソルをアイコンの上に運んでいき――


「よっしゃ! ゲームスタートだぜ!!」


 ポチっとな。




――ブツン…………






 そこで俺の意識は途切れたのだった。





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