学年一のヤンキー女子、俺の家ではデレすぎ問題
赤いシャボン玉
第1話
放課後の教室。
チャイムが鳴ってから15分以上が経つのに、俺はまだ席に座ったまま動けずにいた。
「……は?」
理解が追いつかない。だって、さっき聞いたことがどうにも現実離れしすぎていて。
「相沢、頼んだぞ。しばらくの間、君の家に結城レイナを預かってもらう形になるから」
と、担任の三好先生は、ごく自然なテンションで言った。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!?」
机に突っ伏しながら、俺は一人、静かに混乱していた。
結城レイナ。
喧嘩最強、目つき最悪、言葉遣い凶悪。学年どころか、他校の生徒にも知られてる、伝説のヤンキー女子。
俺なんて、彼女と話したことどころか、直視したことすらない。
その彼女が、明日からうちに住む……?
「……マジで?」
小声でつぶやいた俺の耳に、放送部の下校放送が流れてきた。
『……明日のお昼の校内放送は生徒会の――』
そんな日常の音すら、なんだか遠くに感じられる。
何が起きた? いや、どうして俺の家に?
お互い、接点ゼロなのに?
え、何これ、夢オチ?
……いや、夢ならもっと可愛い系の幼なじみが家に来るやつとかにしてほしいんだけど!?
***
翌朝。
俺はいつもより早く起きた。眠れたかどうかはわからない。起きてる間ずっと、脳内で「結城レイナが俺の家に来る」って事実がリピートされてた。
そして、インターホンが鳴る。
心臓が跳ねた。
「ゆ、悠真ー? 出てくれるー?」
母さんの声が階下から届く。俺は急いでスリッパを履いて階段を下りると、玄関に立ちすくんだ。
そこにいたのは――
「……おはよ。今日から、よろしく」
短く巻かれたスカートに、肩から赤いジャージ。制服のYシャツのボタンは三つ開いてるし、片手にはキャリーバッグ。
そして、その中にいるのは、間違いなくあの結城レイナだった。
「……よ、よろしく……」
心の準備なんて、できるわけなかった。
「お、おじゃま……って、もう家族になるんだっけ。なら、おじゃまってのも変か」
「いや、家族ってわけじゃ――」
「んふふ、冗談」
そう言って、レイナはクスッと笑った。
え、なにその笑顔……
超かわいいんだけど……!?
***
「部屋、案内してくんない?」
「こっち、二階の奥」
レイナはトコトコと後ろをついてくる。ヤンキーのイメージと正反対の、軽くて柔らかな足取り。
部屋に案内すると、彼女は「ありがと」と言って、ベッドに座った。
「ねえ、悠真」
「な、なに?」
「ちゃんと、わたしのこと名前で呼んでね?」
「……えっ?」
「『結城』とか『お前』とかじゃなくて。これから一緒に住むんだし」
ちょ、急すぎじゃない?
いや、確かに一緒に住むけど……それと呼び方って関係あるか?
とか思ってたら、彼女がちょっと拗ねた顔をして、唇を尖らせた。
「……やっぱいい。呼びたくないなら、無理しないで」
「あ、あのさ……れ、レイナ、さん……?」
「さん、いらない」
「レ、レイナ……」
「うん、よくできました♡」
……ヤンキーって、こんなに可愛かったっけ?
***
夜。
結局、その日の夕食はレイナが作ったカレーだった。
「うわ……これ、めっちゃうまい……」
「えへへ~、そうでしょ? 実は料理好きなの」
「見た目からは想像つかないな」
「……だから、ギャップに弱いって言われるの、男子って」
レイナはご飯を頬張る俺を見て、なぜか嬉しそうに笑った。
「な、なんだよ」
「んーん、なんでもない。……これから、楽しみだなって思っただけ」
「何が?」
「一緒に住むことだよ。ね、悠真」
俺は、何も言えなかった。
こんな展開、漫画の中だけだと思ってた。
だけど今、目の前にいるのは本物のレイナで、彼女の笑顔はあまりに無防備で――
なんだか、胸が苦しくなるほど綺麗だった。
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